第5話 逃そう ~ Chairman Morinoki doesn't want to escape ~

「ボクが木之下先生と勝負ですか?一体何を仰っているんです?」


「まぁ、そんなコトを言われても、これは残念ながらこれは強制なのでな。付き合ってもらおう」


シャッ


「おわぁ、危ないですよ。当たったら痛いじゃないですか」


 机の上に座っていた木之下夕樹菜ゆきなは勢いを付けて飛び降りると、生徒会長の森之木目掛けて向かっていった。

 夕樹菜はボクサー顔負けの腰の入ったパンチや、ミニスカートの中身が見えてしまいそうなハイキックを繰り出して行くが、森之木には何1つとして当たらなかったのだった。そしてかれこれ10分以上木之下の空振りは続いていた。

 はだけたブラウスから覗く豊満な胸元ワガママバストや、黒のミニスカートから覗かせている香り立つようなランジェリーを、これでもかと見せ付けながら。

 しかし森之木は眉1つ動かす事なく黙々と躱しているだけで、色仕掛けが効いている様子もなかった。



「はぁはぁ、はぁっ。体育コープスの実技試験があまり生徒会長とは思えない動きだな」


「それはじゃないですか?」


「夕樹菜そこまでだ」


「木之杜学園長まで、どうしてここに?」


「森之木クン、この下には学園長室があるんだ。誰もいないハズの生徒会室からドタバタ聞こえれば、気にならないワケがないだろう?それにしても、森之木生徒会長、夕樹菜が迷惑掛けたね。夕樹菜にはちゃんと申し付けておくから、この事は他言無用で頼むよ」


「はい、分かりました。でも、学園長と木之下先生ってそういうご関係だったんですね」


「そういうゴカンケイ?ぶっはは。学園長と私が?残念ながら私は歳上には興味がないの。そもそも、ゆずりはの木之杜家と、私の木之下家は親戚なの。だから歳の離れた幼馴染っていう腐れ縁でしかないわ」


「昔はお兄ちゃんお兄ちゃんって、よくもまあ懲りずに追い掛けて来てくれたんだがなぁ」


「生徒の前で余計なコトを言わないで杠ッ」


「それを言ったら生徒の前で名前を呼ぶのはダメなんじゃないのか?そんなコトより、夕樹菜は連れて行くからお仕事はね、森之木生徒会長」


「ちぇッ。まぁいいわ。さてと森之木生徒会長、私が一発もあげられなかったから勝負はそっちの勝ちよ。だ・か・ら約束通り、私のカラダを自由にしていいわよ。ほら、いくらでも触ってちょうだい?」


「いや、遠慮しときます」


「えっ?私のカラダは名器って有名なのよ?それなのに触りもしないのッ!?はぁ、まぁいいわ。それじゃ、貴方の欲しかった情報をあ・げ・る・わ・ね」



「――――は――――わよ。ちゅッ」


 こうして学園長と木之下は生徒会室を後にしていった。1つの情報と森之木の頬にキスを残して。



「あれが第七回目の優勝者・木之杜杠と、第十二回目の優勝者・木之下夕樹菜……」




「さて夕樹菜、森之木稜真について何か分かったかな?」


「バレてたか……流石ね、杠。でも、全然ダメ。彼の「点眼」はまったく底が計り知れなかったわよ」


「ほう?お前の「近眼」でも見抜けなかったとはな。今年の第二十回目になるチェラビムスメインイベントは楽しくなりそうだ。しかしそれよりも、あぁいった手段で生徒をたぶらかそうとするのは実に宜しくない。拠って夕樹菜にはが必要だな。くくくッ、夕樹菜は名器なのだろう?明日の授業に差し障る程に、いい声でいてくれよ」


「ううぅ、は……い」




「本学園では5月20日からイベントを開催する事にしている。そのイベントは生徒諸君の知恵と勇気と工夫と努力、そして魔眼を駆使して勝者を決める「チェラビムス」である」


 校則の中にそんな文言が収められている、私立森林之木学園特別高等学校。

 この学園に「特別」の文字が付けられているのには理由がある。


 それは……全ての生徒達の苗字に「木」が付く事などでは無い。学園に勤める執事バトラー達が日本各地を渡り歩き、「魔眼」を持つ少年少女を集めた事に由来する。




 事の起こりは1999年1月に遡る。日本を中心にして、「イジュウランスインの光」と名付けられた「災害ディザスター」が発生したのだ。

 これは当時の少年少女達に「魔眼」を植え付け、その「魔眼」は社会を混乱へと導いていった。



 災害ディザスターから20年以上が経過した現在、新たに発症する子供達の数は減少傾向にあるが、発症した子供達が迫害の憂き目に曝されている事に変わりはない。斯くして日本各地には発症した子供達の学舎まなびやとして「特別」高等学校が点在する事になったのである。


 木を隠すなら森に隠せと言われるように、「魔眼」を隠すなら「魔眼」で隠す事にしたのだ。




 この物語は、社会への不遇に対する子供達が反旗を翻す、一大スペクタクル……などでは無い。思春期特有の移ろう心の有りようと、性に対する肉欲……じゃなくて葛藤する気持ちを紡ぐ、生徒達の真剣なラブコメを描く生徒会役員達の日常である。



 その全ての鍵を握るのは「かくれんぼチェラビムス」なのだ。

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私立森林之木学園特別高等学校生徒会執行役員達の日常 酸化酸素 @skryth @skryth

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