エピローグ
※ここからの話は、すべての危機およびラスボス撃破後を前提としています。
先々の展開によっては矛盾する描写があるかもしれないので、ご了承ください。
南木様のところから引用!
♪
――――アリスちゃん、聞こえていますか?
――――リアさん! 夢の中だなんて、どうされたんですか?
――――スィーリエ様の件、本当にありがとうね。ちゃんと伝えていなかったなって。
――――そんなそんな! とんでもないです! リアさんには大変お世話になってましたから!
――――本当? こんな私でも、恩義を感じてくれてるの……?
――――ですです。成り行きで神様になっちゃった私に、色々と教えてくれたのはリアさんだけでした。
――――そうかそうか。いやあ、ほんっっとに良かったぁ〜〜
――――………………っ
――――アリスちゃん、連帯責に……待って待って。勝手に察しないで。
――――……………………
――――ごめん、本当にごめんね? 流石に神格を削り取るなんて荒業、私には出来ないからね?
――――…………………………
――――ほら、審問に同席するだけだから。
――――…………傍聴席で?
――――え、私と一緒の被告側だけど。
――――…………………………………………………
♪
ホテル『阿房宮』。
「そうして――私たちは今日中に帰らなければいけなくなった!」
「「いきなりどうした!?」」
ホテルの一室で、寝起きの遥加は絶望の声色を奏でる。いつも早起きの彼女が珍しくお寝坊さんだったためか、油性マジック片手にうきうきのあやかとその愚行を必死に止める真由美の姿。
「実はね、かくかくしかじか四角いムー「それは大変だったな!」
危険な空気を感じてあやかが
セントラルを襲う脅威の数々は、その大部分が打倒されたらしい。もちろん、彼女たち視点からはとんでもない怪物共が未だにうようよしている。
「そんなまだ見ぬ強敵との出会い、俺様は楽しみにしていたんだぜ?」
「私も、セントラルの残務処理がまだ残っていて……」
ハツラツと笑うあやかと、手の指を組んでもじもじとごねる真由美。二人とも、まだまだこの世界に愛着が止まらないようだった。その様子に、遥加の口元が綻ぶ。
「あやかちゃん、私と来ると偉い神様に会えるよ?」
「うわー、楽しくなさそーー」
「荒事になるかもだよ? 大丈夫! リアさんが、私たちは一蓮托生連帯責任って豪語してたもん(誇張)」
「うわ! 楽しそーー!!」
「た、高月さん…………?」
頼りない手つきで彼女の腕を引っ張る。その気弱な雰囲気は、とてもじゃないがあやかと一緒に権天使アーリアルを打倒したようには見えないだろう。
「真由美ちゃんもほら、そこは本当に心配いらないよ。千階堂さんにいつでも巻き取れるよう動いてもらってるから」
「ええぇ……? あの人、ようやく少し余裕が出来たと思ったらそういうことなの?」
もちろん、真由美だけではないだろう。セントラルの様々な部署から何故か色々な業務が最終的に彼に行き着く。そのためのキャパを開けておくのは、出来る大人の見通し術だった。
「ううぅ……私は最後まで足引っ張りっぱなしだったんだなぁ」
「真由美ちゃんは新入社員みたいなものだからね。当たり前な配慮だと思うよ?」
妙に後ろ向きな真由美の気持ちも、遥加にはよく分かる。全ての『危機』をセントラルが乗り越えた後、真由美は本気の『剣鬼』と実践形式の稽古を繰り返していた。毎日のように、肉体も心もバッキブッチに微塵斬りされているのだ。
ちなみに、稽古の見届人兼何かあったら特急医術師を呼んでくる役目のニュクスは、そのあまりにも凄惨な稽古風景についに寝込んでしまったらしい。本人はひたすら「心の訓練だ心の訓練だ」とうわ言を繰り返していた。
「でも真由美が羨ましいぜ。『剣鬼』のお姉さん、俺様と戦うのは頑なに避けるからなー」
「正気?」
「実は負けるのが怖いんじゃねえか?」
「むぅ」
おっと遥加が目を見開いた。目を細めて不満げな真由美が、あやかを睨む。その視線を、あやかは挑発的な笑みで受けた。
「……それはそうかもしれない、わね。あの人負けそうになると、ムキになって殺す気になるって言ってたし」
「はは、そいつはいい!」
適当に笑い飛ばしたあやかが、真由美の頭をガシガシ撫でた。完全に口からでまかせ吐いた真由美が、大人しく揺らされている。
遥加はにやにやしながら声を押し殺す。どうやら、二人の関係性も随分と変化したようだった。
ちなみに、真由美のでまかせは真実で、より正確には殺す気にならないと戦いにならないという物騒な分析だった。
♪
そんなかんやで、セントラル大聖堂。
「よくこれだけ揃ったな。俺様たち愛されすぎじゃね?」
「そりゃ来るだろ。命だって張ってやる」
カッチョええこと言い放つバッドデイ。ついでにポーズも格好付ける。あやかは目を輝かせて真似た。一連の騒動に対する『審問』に
見送る面々は、皆顔馴染みばかり。
遥加は見渡す。バッドデイ、マルシャンス、シスター・エレミア⋯⋯とその周囲に浮かんでいるウィッシュ。
真由美は見渡す。千階堂、ホノカ⋯⋯と距離を取りながら震えるニュクス。
あやかは見渡す。
クロキンスキー、レダ、サイブレックス、そして⋯⋯全身包帯でベッドごと来たシンイチロウとその付き添いのビルさん。
「綺麗にオチ担当が揃ったね!」
「ニュクスさん、強く生きて⋯⋯」「行かないでよぉ⋯⋯メルヒェーン⋯⋯⋯⋯」
「シンイチロウ様、あの後も出ずっぱりだったからな」「ほんと、良く生きてるよ僕⋯⋯」
苦労人は苦労しているらしい。流れでシンイチロウの看病にあたっていたレダは、竜種故の大雑把さで彼の傷を増やし、気まずそうに目を背けていた。
「しっかし、こうしてみると目立つよなー」
もはや吹きさらしと化した大聖堂に影を落とすビルさんが照れ隠しに跳ねる。大地が轟いた。業務量増加の気配を感じて千階堂の目から光が消えていく。
「あ、ビルさんそっちの方向はダメです! 神聖なるリア様像に影が落ちるでしょう!」
叱られたビルさんはすごすごと立ち位置を変えた。セントラル中を地響きが襲う。言ったエレミアの様子もどこか変だ。そわそわと落ち着かない。
「みんな、お待た「キタアアアアアアアアアアアアアアアアアアア―――――― Σ(-`Д´-;)q」
「私こそ、女神リ「リア様あああああああ⤴︎あああああああああ⤵︎―――――― d(。・∀・。)b」
「世界のために戦ってくれたこと、本当に感「当然のことぉぉぉおおおおおお?????」
『d(´Д`●│キタヨ│●´Д`)b』
「ビルさん、対抗しようとしなくていいよ」
「見えざる当身」「【成就】」「はぅ」
うるさいのは止まった「リアサマバンザーイ」が、止まったが、それはそれでアウェイな空気になってしまった。このメンバー内では、セントラル世界の住人以外からはあまり良く思われていないようだ。
「⋯⋯じゃあ、時間押してるからもう行こうかしら」
「リアさん、余韻台無し」
速攻で光の門が開かれる。扉の向こうには光が満ちていて、向こう側は見えない。本当は、向こう側なんてないのかもしれない。
「ねえ」
そのまま本当に旅立ちそうな空気だったので、マルシャンスが慌てて呼び止めた。
「なぁに?」
「ありがと、ね⋯⋯色々と。アタシ、貴女に会えて本当に良かったわ。また会えるかしら?」
「貴方が強く思い続けるのなら、きっと」
そう言って足早に駆け寄ってきた遥加が、マルシャンスの仮面をズラす。そして、その頬に口付けを。ぎょっとした真由美と、口笛を吹くあやか。そのまま去ろうとする遥加。だが、回り込まれてしまった。仁王立ちするバッドデイが黙って頬を突き出す。
「もーー、しょうがないなぁ」
照れ臭そうに笑いながら口付けを。
「なんか負けた気になる! クロちゃんしゃがめ! 俺様たちもだ!」
「⋯⋯安いキスだな、お前さん」
「シンイチロウ様! サイブレックス!」
「おいバカ、そこ折れてるから体重乗っけ――――っっ」
「マギア・ヒーロー、そんな///」
「私だけ執拗に尻を揉みしだくのやめてくれない⋯⋯?」
投げキッスをビルさんに連発するあやかを見て、真由美の混乱も拍車をかける。
(どういう空気なの、これ? え、私もやるべきなの?)
事案を恐れてか千階堂が横に逸れる。
妙な危険を察知してニュクスが逃げる。
残るのは必然――――
「
「ん?」
意を決したように、真由美は目を瞑った。そうしていると、この世界での冒険が脳裏に浮かんでくるようだった。色々な出会いがあった。死闘の数々が彼女を強くした。
真由美にあったのは、そうするための原動力だけだ。意志と矜持。それを形として昇華させてくれた『剣鬼』の修行の日々。少しずつ顔を前に突き出す。
――――バチン!
ビンタされた。しかも結構強めに。
「え? ええ?」
「当たり前でしょ。あんなキモい顔で迫られたら」
「ええ? キモ、ええぇ⋯⋯⋯⋯」
そういえば、そういう人だった。最後の最後まで傷口を塗り込んでくるホノカに、真由美はがっくりと肩を落とした。その小さな頭に、温かい手が乗っかる。
「⋯⋯これまで、良く頑張ったね。そして、これからも頑張りなさい。大丈夫。誰よりも前に進みたいと願う君なら、きっと夢を掴める」
真由美は何も言わなかった。言えなかった。
押し殺そうとした涙が無限に溢れていく。ホノカは何も言わずに、愛弟子を抱き締めた。それもたった十秒ほど。それだけで十分だ。そう知っているから。
去り際に、真由美は大きく一礼した。
「じゃ、行こうか」
進み始める遥加を先導するように、女神リアが扉の中へ消えていった。遥加は少しだけ振り返って、小さく手を振った。前を向いたまま大きく手を振るあやかと、向き合ってもう一度頭を下げる真由美。
光に解ける彼女たちの姿と同時、扉は虚空へと消えていった。
こうして、女神アリスたちの冒険は締めくくられた。
想いに惑い、それ故に歩み続けた彼女たちの進む先は
それはまさに――――神のみぞ知る、というやつだろう。
了。
【ワールド・ワイドフロンティア】女神アリスとその従者たちが、異界の情念が至る果てを見届ける物語 ビト @bito
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