女神、真銀竜と話す
※ソルト様が執筆された【危機戦・神造巨人征伐】編の後のお話です。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054885714804/episodes/16817330659996703308
【エリア1-1:クリアウォーター海岸】
ホテル『阿房宮』。
「ハルカってさ、神だよね?」
「もぅ! 褒めても何にも出ないよぉ!」
やぁねえ、と頬に手を当てて身をくねらせる遥加。彼女はエヴレナと横並びで立っていた。そして、鏡に映る自分を見ながら、指先を伸ばしてポーズを取っている。
「そういう話じゃなくてさ……本物のってこと」
「それ、誰かに言った?」
遥加とエヴレナはポーズを変える。彼女らの後ろではグロッキー状態の真由美が辛うじてタオルとドリンクを抱えながら体裁を保っていた。
「ううん。でも、その反応はきっと」
「……そうだね。私はこことは別の世界の神さまだよ。皆には内緒にしてね」
「分かった」
そうして二人は再びポーズを変える。まるで、踊っているかのようだった。そして何故か二人ともキメ顔だ。
「でも、あんな戦いの後でもこんなに元気なのは神様パワァってやつ? 私には
エヴレナが優しく撫でる花冠には、森の癒しの力が秘められている。真銀竜のみがその効果を発揮出来る装備品は、あらゆる傷病を時間経過で癒していく。
「私は⋯⋯魔法と一緒に女神としての力を失っているから⋯⋯⋯⋯それに、元々戦うような神さまじゃなかったしね」
二人の動きに、キレが増していく。
「だから、これは単純な体力と筋力」
「え」
思っていた答えと違ったエヴレナの動きが止まった。
「あ、ダメだよエヴレナちゃん! そこはテキパキ動かないと!」
「あ、ごめん⋯⋯⋯⋯というか、ユーヒから聞いていたけど、本当にすごい修行だったんだね」
「うん。おかげでこんなことも出来るよ」
唐突に逆立ちを始める遥加。しかも片腕で。圧倒的な体幹で片腕倒立ポンピングを披露する遥加の二の腕には、無駄無く均整の取れた筋肉が光っていた。対照的にボロボロな真由美は見るからに元気がない。
「貴女は一体どこに行き着くつもりなのですか⋯⋯?」
呟くような真由美の声。
「無いよりは有った方がいいでしょう。それに、真由美ちゃんもあやかちゃんも方向性は一緒でしょう?」
「まあ、そうですね⋯⋯⋯⋯」
二人とも、魔法の乱用は控えていた。元の世界とは違うフォーマットの戦い。彼女らが注視したのは『人』としての強さの底上げだった。
「私、あやかちゃんをクロスレンジでボッコボコにしてみたいんだー」
「⋯⋯高月さん。本当に音沙汰ないですよね⋯⋯⋯⋯捜索に協力していたクロキンスキーさんも行方知れずだし、あの人私の情報一方的に持ち逃げしただけなんじゃ⋯⋯⋯⋯?」
「心配?」
「いえ、そんなことは⋯⋯あ、いえ⋯⋯⋯⋯別の意味で心配ではあります」
「ああ、うん⋯⋯何してるんだろうね?」
普通に考えれば、『悪竜王』の手によって生命を落としていることだろう。死んでいる身であれば、音沙汰無いのは頷ける。だが、彼女たちはその可能性はあまり追っていなかった。
それは、高月あやかという人間性をよく知っているからだろう。この世界の現状から、『悪竜王』を打倒したという可能性は限りなく低い。だが、ただ大人しくやられて終わる人間であれば、二人ともあそこまで振り回されはしなかった。
「マユミと言えばさー! ユーヒのこと、どう思ってるのー?」
「ユー!? ゆ、夕陽さんは、その⋯⋯あの、とても、素敵な方だとは、思い⋯⋯⋯⋯はぃ」
「あーエヴレナちゃん! せっかく私とマルシャンスさんで落ち着かせたのに、もう!」
瞬間湯沸かし沸騰機のように耳まで真っ赤になった真由美が、口をぱくぱくさせながら顔を覆った。
対神造巨人に日向夕陽が放った(真由美にとっては)衝撃のプロポーズの言葉は、戦友に対する口説き文句であることを遥加とマルシャンスは懇切丁寧に説明して聞かせている。しかしながら、男性免疫皆無の彼女にとっては衝撃が大きかったようで、その動揺は激しかった。
「真由美ちゃんはもっと男の子に慣れないとねー」
「ユーヒはモテるけど、こんなんなら圏外だろうねー」
同じく男性経験皆無の二人にボロクソ言われて真由美が身を縮こまらせた。
「おや、圏外⋯⋯? エヴレナちゃんも夕陽さんのこと狙ってたりするぅ?」
「んやー、私じゃないよ。ヴェリテがゾッコンだからねー」
「あー、ヴェリテさんね。もうゾッコンメロメロだよねー! 夕陽さんと話している時ずっと尻尾パタパタしてるし、もう見てるだけでこっちまでドキドキしてくるよ!」
「うんうん! まさかあのヴェリテが人間相手にここまで骨抜きにされちゃうなんてね! 世界は広いよ本当に――――⋯⋯」
しみじみと意気投合している二人に、真由美はぷいっと視線を逸らした。その反応はポーズを決めたままのシュールさ故では無いだろう。
「でも実際どうなの? ヴェリテさんは脈アリなの? 私としては二人でラブラブしててくれると非常に栄養に良いんだけど」
「ヴェリテはなぁー、もっと攻め攻めで行けばなー、良い物お持ちなんだけどなー」
「ああ、おっぱい結構大きいもんねー」
「そだよ! Gだって! G!」
「「Gッ!?」」
少女二人が驚愕の声を上げて、何故かエヴレナが勝ち誇った表情を浮かべた。
「それは、夕陽さんひとたまりないんじゃない⋯⋯?」
遥加が自分の胸を揉みながら何故かうきうきしている。その後ろでは、真由美が絶望顔で真っ白になっていた。
「あれ、ハルカから見てもユーヒにあの大質量は通じる系?」
「通じるも何も、夕陽さんはアンチマギアさんですらちらちら見てて⋯⋯⋯⋯いや、数日で鼻で笑うようになったけど⋯⋯それはアンチマギアさんの、あの、性格故だし」
ふむ、とポーズを決めながらエヴレナが神妙な顔をする。
「ヴェリテも竜種ならあの質量兵器で××んで×んで××××しちゃえば、ユーヒなんて一発で×××な××に堕ちていくんだろうになー」
「私にはよく分からないけど、エヴレナちゃんすごいこと言ってない?」
後ろの真由美は本当に何にも分かっていなくてキョトンとしている。
「うーん、汚いお姉ちゃんに色々聞かされちゃったからなー。きゃ、私ったら耳年増っ」
「汚いお姉ちゃん?」
「そー! 汚いゾンビなんだよ、色々とねー」
遥加の中で、ドロドロに腐食したゾンビ女のビジョンが浮かんだ。察したエヴレナが両手をふるふる振った。
「違う違う! ゾンビだけど、見た目は青白いだけでむしろ
「 汚 い の は 性 格 だ け 」
「一緒に刑務所で臭いご飯食べながらゲスな話しかしないんだもん⋯⋯」
「 一 緒 に 刑 務 所 で 臭 い ご 飯 」
「あ、ヴェリテには内緒だよー? バレたらとんでもなく怒り狂いそうだから」
「あー、うん⋯⋯言えないって」
図らずとも互いに秘密を共有してしまった。
流石に予想外過ぎる経歴を明かされて遥加のポーズも崩れている。だが、エヴレナ自身がそこまで嫌そうに語っていないことから、それなりに彼女の気持ちを察することは出来る。
「エヴレナちゃんはすごいね。色んな重いもの抱え込んじゃって、潰れたりしない?」
「そうでも。真銀竜は私の責務で、私の立場そのものだから。全う出来るのは本望だよ。それはハルカだっておんなじでしょ?」
遥加は小さく頷いた。情念を失っても、自己の軸そのものは揺らぎはしなかった。不思議なことではあったが、そこまで疑問も感じない。
「そだね⋯⋯それが、私だから」
エヴレナと遥加は、謎の踊りのキメ顔練習を止めた。真由美が渡したタオルで汗を拭い、スポーツドリンクで喉を潤す。
「⋯⋯そういえば、エヴレナちゃん。『黒竜王』とは因縁があるみたいだけれど、『悪竜王』の方はどうなの?」
「⋯⋯あれ、そういえば特に何のアクションもないや。ハルカが狙われたんなら私も同じ条件な気はするけど⋯⋯まあ戦力の厚さから容易に手は出せないだろうってことかな」
曖昧に笑う遥加。だが、彼女には分かっていた。そんな障害であれば、かの『悪竜王』は悪辣な手腕で突破してくるだろうことを。
「エヴレナちゃんって、やっぱり竜種の間では有名なの?」
「うん、そりゃそうだよー! 有名も有名、有名竜エヴレナ様だよ!」
「有名竜かー。だから、何だろうね⋯⋯⋯⋯」
きょとんと小首を傾げるエヴレナ。
遥加の『浄化』と同様に、エヴレナの『神竜』としての力は『悪竜王』に対して凄まじい効果を発揮するはずだ。そして、真銀竜エヴレナを擁する陣営が真っ向から『黒竜王』や『危機』の陣営とぶつかっている現状は。
「――うん、私も頑張らなくちゃ!」
「うんうん、何かわからないけどとにかくヨシ! これから私は他の皆の様子見てくるけど、ハルカはどうする?」
「私たちはちょっと作戦会議。米津先生が帰ってきたらお話ししたいことがあるしね」
そっかー、とエヴレナは元気にホテル内のスタジオを去っていく。
そして、去り際に言った。
「あ、パラパラの練習付き合ってくれてありがとねー! 現地人の指導で少しは形になったと思うよ」
「あ、うん。そこは⋯⋯まあ、お役に立てたなら良かったよ」
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