女神、廃都時空戦役を経て
<ソルト様ご執筆の【廃都時空戦役】からの続きです>
https://kakuyomu.jp/works/1177354054885714804/episodes/16817330651916912711
【エリア7-4:黒壁の摩天楼】
「⋯⋯あれ、流れ解散で着いてきちゃったけど私はセントラルに戻らなくていいの?」
「ああ、いいぜ。そういえばちょっと行くところが出来たからな」
あやかと真由美は天まで届かんばかりの巨大なビル群を進んでいた。摩天楼群を照らす巨大な夕日が眩しい。時折立ち止まってはストレッチするあやかを、真由美はキョトンとしながら見守っていた。
「そっか、一人だけ知らないんだもんな」
「⋯⋯それは氷壁の頂上のお話?」
あやかは頷いた。この世界の成り立ちと、その歴史。あやかは氷壁を踏破してその情報を手に入れたし、遥加もその情報を共有している。
「この摩天楼の奥地にある神殿、色んな奴らが引き上げてるこのタイミングだからこそ俺様たちが独占できるんだぜ」
「独占してどうするの?」
「そこにある聖遺物⋯⋯⋯⋯それと、神竜について。アリスの野郎が直接行って何かが起きるのは知られちゃマズい。あんな奴でも女神であるのは内緒だしな」
「だからアリスのことを悪く言わないでよ⋯⋯⋯⋯でも、そうね。セントラルに来たばかりの頃、確かにあの方はこっちの方角を気にしていたわ。多分、何かを感じていたんだと思う」
本来であれば、『完全者』を打倒した時点で、いや『完全者』どもを放置してでも優先すべきことだった。記録媒体は遥加に渡してしまったが、あやかにはその内容が概ね頭の中に入っている。その真実を思えばこそ。
「時空竜なんて大物を急遽相手にしたからなー⋯⋯叶の奴のお人好しもまいったものだぜ」
「でも高月さんが一番楽しんでなかった?」
「それはそう。氷壁の頂上にも俺様より強い奴がいたぜ! やっぱ世界が違うってすげえわくわくする!」
シャドーボクシングをしながら身体を解す彼女を、真由美は微笑ましそうに見つめていた。並び立つ者がいない不幸。その果てに燻っていた漆黒が、今やこんなにも生き生きとしている。
真由美は、こんな風に情熱を燃やしている彼女の背中を見るのが、好きだった。
「⋯⋯アリスは、時空竜だから、助けに行ったのかな」
「へ?」
「ほら⋯⋯⋯⋯あの、根暗女」
「あーーーー⋯⋯いたっけ、そんなの」
「貴女に忘れられるのは、その、かなり不憫ね⋯⋯⋯⋯」
真由美は、あの不吉な黒を想起する。彼女とは犬猿の仲ではあったが、遥加との間には一言では語れない関係性であることを聞いていた。
「やっほー⋯⋯お二人さん、お疲れ様ー」
そして、曲がり角からマルシャンスにおぶられた遥加が現れた。その表情には疲労の色が濃く表われ、魔力も体力も枯渇しているのがよく分かった。
「あ、え? アリ、叶さん! そんな男の人に身体を、預けるなんて「真由美ちゃん!」
面倒臭そうな気配を感じた遥加が大声を上げた。今の彼女にいつものような余裕はない。
「――――本当に強くなったね。ちゃんと見ていたよ」
「おう、すごいぜ! この数日でここまで力をつけるなんてな!」
その言葉に、真由美の首から上が一瞬で真っ赤に染まった。ちょっと泣きそうになっている。
「あの、私――はい、頑張りました!」
それは、真由美だけではなかった。遥加も、あやかも。この世界に来てから積んだ経験は、間違いなく成長に繋がっている。
「うんうん、よきよき! 多分バッドデイさんもこっちに向かっているはずだから、合流したらみんなで⋯⋯乗り切れるかな?」
「詰めればなんとかなるんじゃないかしら? 最悪、アタシは置いていってもらって構わないわ」
「マルシャンスさん、それは流石に申し訳ないよ! その時はあやかちゃんに走らせるから大丈夫だって!」
「なんでだよ」
抗議の声は華麗に無視して、遥加があやかを手招きする。マルシャンスが彼女の身体を優しく下ろした。
「え⋯⋯なんだよ」
「分かんないかなー? 魔力。はよ。私、限界」
「無理だぜ? 俺様は時空竜の攻撃で魔法も魔力も焼き切れてるからな。復帰までも少しかかるぜ。回路がうまく繋がんねえんだ」
ストレッチとシャドボクシングで身体をほぐすあやかに、真由美が引き気味で一言。
「⋯⋯もしかしてさっきから?」
「んー、繋がんねー」
「それで本当に回復するの!?」
一方、遥加の表情は見る見るうちに青ざめていった。
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯え?」
「マズいわね⋯⋯」
マルシャンスが周囲を見渡した。
「あやかちゃん、緊急。存在を保てるだけ残して他全部私にちょうだい」
「あん? ⋯⋯しゃーねーな」
「叶さん、それなら私のも⋯⋯高月さんと比べたら微々たるものだけど」
あやかが伸ばした手を掴もうと、遥加が手を伸ばした。掴む。生暖かい感触。そして、べったりとした、粘りつく液体の、感触。
これは。手だ。そして、血だ。遥加は握手していた。
「――――――っ」
視線を外すと、真由美が得体の知れない衝撃波に吹き飛ばされていた。
「ぉぃ」
あやかの声から、力が抜けていく。彼女の土手っ腹には、後ろから腕が貫通していた。細い、少年の腕。遥加は慌てて手を振りほどく。そして、見た。
悪辣が顔に張り付いた、悪竜王の姿を。
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