『次』へ向けて


 残存する『救世獣』も全て動きを止め、ようやく各陣営の主戦力も落ち着いて集まることが出来た。

「では、ひとまずはここで解散じゃな。名付けるならば『廃都時空戦役』とでもしようか。斯様な戦に馳せ参じてくれたこと、また力の限り戦い抜いてくれたこと、ワシからも深く感謝をしたい」

「それは私のセリフさね。…かつての遺物、私達の尻拭いに手を貸してくれて、本当に助かった。次は私が、あんたらの戦に力添えしよう」

「ふむ。……そうだな。次、か」

 玄公斎が真っ先に頭を下げるのを慌てた表情で止めて、カルマータが全員へ同じように頭を垂れた。そんな二人の会話を聞いて、ぐったりと浮遊椅子に座るモンセーが顔色の悪いままで呟く。

 そう。まだ何も終わっていない。これはほんの序章とすら言えるだろう。これから始まる、大いなる聖戦。星の存亡を賭けた大戦はまだ続く。

「ただまあ、元帥殿の言う通り。今は各自休息を取って心身共に癒すことが先決だ。私もセントラルに戻り報告書を作成せねばならんのでな、これで失礼する。冷泉殿、『桔梗』の飛竜を一騎借りるぞ」

「いえお送りしますよ。元帥閣下、私はモンセー参謀総長殿をセントラルに護送した後、ホテルへ戻ります」

「そんなことせんでも、ほれ。ワシらにはこの飛空艇があるじゃろ。まとめて全員を各地に送ればよい」

 玄公斎が親指で背後を示すと、そこには所々から黒煙を上げている海賊船があった。一応なんとか揚力は確保できそうだが、今にも爆発しそうな恐ろしい軋みを立てている。

「こ、これ大丈夫なの…?飛んでる途中で落ちたりしない?」

 恐る恐る近づくあかぎが誰にともなく不安を吐露すると、横合いからにゅっと現れたシャザラックが自信満々に答える。

「問題ありません。あり合わせの部品と『救世獣』のパーツを組み合わせて応急的に修理は施しましたので。とはいえ各所要を済ませたならば速やかに本格的な改修が必要となりますが」

「え?ちなみに費用はどんくらい?」

「ざっと70億ほど」

「え゛!?じゃあまた融資してもらわないとじゃん!!」

 頭を抱えて崩れ落ちるアンチマギアには海賊団の船員以外誰も取り合わず、ぞろぞろと玄公斎傘下の面子が船に乗り込んでいく。

「…というわけですが、どうでしょうか。参謀総長殿」

「そういうことならお言葉に甘えるとしようか。最悪の場合は自前の魔術で脱出するしな」


「私はここで事後処理をしていくよ。これだけの『救世獣』の残骸があれば、出来ることは色々あるしね」

 この凄惨な戦場跡に残ることを告げて、カルマータが片手を上げる。元々彼女はここを住処としてたこともある。それに、人造竜のこともあるのだろう。

「あ。そうでしたカルマータ様。そのことで少々お話と提案が」

「…なんとなく察しはつくけどね」

 カルマータとシャザラックが何やら話を始めている傍らで、他にも飛空艇への乗船をしない者達がいた。

 魔法使いたちとその愉快な付き人達が。

「んじゃあ、ここで一旦お別れだな。またでっかい敵と戦うことになったら会おう!」

「んだよ、来ねーのか」

「私達は私達で、まだやることがあるので」

「そうか、ようやく何の憂いもなく戦うことが出来ると思っていたのに、残念だ」

 アルとシュライティアが心底からがっかりしたように言葉を交わす。一時的とはいえ『完全者』を倒した大金星を挙げた共闘関係を築けたというのに。…という理由はほぼ抜きにして、強者たる魔法使いときちんと戦ってみたかったのが本音であったが。


「で、俺達はどうすんだ?一応、まだ協力する気は満々ではいるんだがな。俺もリートも」

「ぼくは応援しかできないけどねー」

 鞘に収まった片手剣の柄に手を乗せて、ディアンが今後の動きを問う。

 見回す面子はヴェリテ、エヴレナ、アル、エレミア、シュライティア。

 そして頭に妖精を乗せ、内側に幸を同化させた状態のままでいる日向夕陽。もう戦闘は終わったというのに〝憑依〟はまだ解いていなかった。解くことが出来なかったのである。

「っ……」

「おっと」

 一応陣営の頭として意見を求められていた夕陽は、何かを言うより前に膝から崩れ落ちそうになったところをアルに支えられる。

「やっぱな。限界だぜコイツも。どっかでしばらく休まないと駄目だ。オイ、米津のじーさん!」

「ホテルの部屋なら空きがある。来なさい」

「話早くて助かるぜ、金は払うからよ」

「いらんよ、充分に働いてくれた若人達から金銭をせびるほど落ちとらん」

 この陣営には拠点といえるようなものは存在しない。駄目元の提案だったが快諾してくれたことにアルが代わって礼を言う。

「なら仮設陣地に寄ってからとっととホテルに戻ろうぜ。白埜も心配してるだろうしなァ」

「ウィッシュちゃんも寂しがってるでしょうね!合流したら早速教典朗読の続きをしてあげないと!!」

「それはマジでやめてやれ」


 片手には鎖で繋がれたいくつもの銀判が揺れる。それを掴む鐵之助が、等間隔に盛り上がった土と突き立てられた木の十字架たちを見つめている。

「先に地獄で待ってろや。これからもっと、面白おかしい殺し合いが起きるからよ。土産話にゃ事欠かねえさ」

 楕円の銀判にはこの世界で潰えた命たちの名が刻まれている。それは軍属が首から下げる個人認識票ドックタグ

 二枚一組の一枚は土の下に眠る彼らと共に埋葬した。そして残る一枚は部隊の長たる鐵之助が頂戴した。

 共に何度もの死線を嗤いながら駆け抜けていった同士を忘れぬ為に。

 他の部隊とは違い、彼らは死体を元の世界には持ち帰らない。その生を全うした最後の戦地に埋めて置き去りにしていくのが『天兵団』なりの離別の仕方なのだ。

「次に会うのは同じ地獄か、あるいは……、また会えれば。愉しくやろうぜ、また馬鹿やってな」

 スキットルを開けて、中身を空中にばら撒く。土に沁み込んだ弔いの酒は、いつかどこかの酒場で散々共に飲んできた安酒のものだった。


 ひときわ多かっただけで、犠牲は『天兵団』だけではなかった。

 騎士団からも、黒抗兵軍からも、それなりの死傷者は出た。死にはせずとも、今後の戦闘行動が不能なほどに人体が欠損した者、後遺症が残るであろう者も少なくはない。特に第二中隊は連戦だったことも祟ってその比率は極めて高かった。

 これが戦争。血を血で洗う殺し合い。

 まだ続く。まだまだ続く。悪夢はこれでは終わらない。


 ある者はそれを愉しみに待ち構え、ある者はそれを絶やす為に奮起し、ある者はこれ以上の犠牲を生まない為に策を練る。


 人の数だけ想いを巡らせ、『廃都時空戦役』は終結を見た。


 しばし、戦士達はほんの僅かないとまを得る。





     ーーーーー


     以下『お知らせ』


 というわけでようやく時空竜オルロージュ戦、終わりました。長らく引っ張ってしまって非常に申し訳ない!!

 次からは上で書いた通り少しお休みを頂いて、次に備えたいと思います!


 南木様陣営におかれましてはキャラクターの疲弊はあれども基本的には大きく後に引くような負担は残さずお返しする形で認識の方お願いします!

 ただ無名兵士ノーネームの隊員はそれなりに死傷重傷者が出てしまったと思われるので、中隊は結構痛手かもしれません!充足率の低下が見られます!


 ビト様陣営は魔法少女三人娘が結構魔力消費半端ないですね!特に遥加ちゃんは『浄化』と『救済』を連発したせいでかなりギリの疲弊具合かと!それとあやかちゃんはソルトのクソ勝手な設定盛り込んで固有魔法が一時使用不可!無限魔力電池機能せず!事前の打ち合わせに合わせて回復も出来ないようにしたろ!と思ってやったらこんな具合になってしまいました。

 このあとどうする(どうなる?)のかはビト様サイドでご自由にいじってもらって構いませんのでそういう感じでお願いします!なんなら各負担無かったことにしてもらっても全然可ですので!


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