【地下竜都・神器争奪戦】編

風呂は命の洗濯


「ひとまず風呂に入りなさい。そんな血と泥にまみれた体では不衛生じゃ」


 各エリアに連合の協力者を降ろした後にエリア1アクエリアスへと到着した一行。

 下船すると同時に玄公斎からそう言われ背中を押されるままにホテル内の大浴場への道を控えていたホテルマンに先導されるがまま進む。

「つってもこんな体で湯舟に浸かる方が寿命縮むんじゃねェか?」

「いや米津さんの話だと特製の薬湯らしいから湯治にはちょうどいいらしい。傷薬に直接入るようなもんなんだと」

 ぞろぞろと傷だらけの彼ら彼女らが歩く中でアルと夕陽が話すやや後方では、歩きながら器用に女神への黙祷を捧げていたエレミアが何かに弾かれたように顔を上げた。

「……、リア様?」

 そんな様子には誰一人気付くことなく、またそれとは別に、アルの隣を歩く白埜はそわそわと何やら様子がおかしかった。

「どした白埜。風呂が楽しみか」

「……アル。あの、あのね。ちょっとあとで、話したいことが」

 白埜が言いかけた途中で一行はホテルマンに促されるままに足を止める。見れば『男』『女』と書かれた暖簾が掛かる扉が二つ、隣り合っている。

「やっぱ米津さんあのひとの運営するホテルならこうなるよな」

 ここに来て急に日本風の銭湯じみた入り口に妙な安心感を覚える夕陽が幸を抱っこしたまま『男』の暖簾を片手で持ち上げる。

「白埜、話はとりあえず風呂で聞くわ。お前も泥だらけだしな、洗ってやっから早く行くぞ」

「……うん」

「いやちょっと待ってください」

 淀みなくアルも白埜の手を引いて夕陽のあとに続こうとしたところを、ヴェリテが呼び止める。

 男二人がそろって振り返る。

「どうしたヴェリテ」

「なんだよテメェーはそっちだろ」

「幸と白埜もこちらですが?」

 真っ当すぎる正論にまたしてもそろって首を傾げる。まるでヴェリテの言い分が間違っているかのような反応を前に、エヴレナも共に抗議の声を上げる。

「そうだよ!ズルいよそっちばっかり仲良しで一緒のお風呂なんて!」

「エヴレナ、賛同は嬉しいのですがそうではなく…」

「そうだぜ!共に戦った仲なんだから全員で裸の付き合いをするべきだ!!」

「アンチマギア、そうでもなく」

 頭を抱えるヴェリテを見かねてか、無言で後方から見ていたディアンが肩に乗るリートに目配せする。賢鳥たるリートはやれやれと首を振るって肩から飛び立つと、夕陽とアルの頭上でぽつりと言う。


「貸し切りとはいえ、君らの愛し子の裸体が他の男達の視線に晒されてもいいのかな……?」

「ヴェリテ幸頼む」

「エレミア、白埜しっかりと洗ってやれ」


 ずずいと己の相棒をそれぞれ託すのを見届けて、リートも定位置に戻った。

「これでいいかいディアン」

「いいっちゃいいんだが、これだとまるで俺らが小児性愛者みたいじゃねえか」

「人の仔になど欲情せんがな」

「ぼ、僕は助かったかもです……」

 複雑そうな顔をするディアンと、もとよりどちらでもよさそうだったシュライティア、そしてやや赤面するシャインフリートが『男』の扉を次々通っていく。


「~~~♪」

「…ん、あれ?おいティカ、お前はこっちでいいのか?」

「えー?ユーってばえっちなんだからもー。そんなに言うならいっしょに入ってあげても」

「てぇい!!」

「レナ!?」


 ここまで一言も発さずどさくさ紛れに男湯へ同行しようとしていたロマンティカは、エヴレナが被っている花冠から伸びた蔓草に絡め取られて強制的に女湯へと連行されていった。

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