第7話 Body ≠ Soul

 その原因が何だったのか、それはわからない。

 気が付けば二人は階段を転がり落ちていた。

 もの凄い勢いでグルグルと回る視界に、身体の背面を何度も打ち付ける痛みと、前面から感じる身体の柔らかさがあった。

 はたから見ていた友人によれば、くっ付いた二人が、まるで一本の棒のように階段を転がり落ちて行くのが見えたそうだ。

 場所は、近所にある神社だった。

 学校の帰りに寄り道をした三人の生徒が、お参りを済ませて、さあ帰ろうとした所、何かに足を引っ掛けたか滑らせた一人が、もう一人を巻き込んでしまった。

 簡単に説明をすればそういう事である。


「おーい!」


 階段上に残った三人目は驚きに声をあげると、二人の名前を呼びながら急いで駆け降りて行く。


「大丈夫か、二人とも!」


 倒れて動かない二人に声を掛ける。制服はボロボロで、わずかに血も滲んでしまっていた。

 だが、二人はうなり声を出しながらも目を開け、こちらに顔を向けて来た。


「いったー!」


「え? なに? どうなってんの?」


 声を上げ、体を起こそうとするが、それを押しとどめる。声だけを訊けば元気そうだが、頭を打っているかもしれないのだ。安静にしていてほしかった。


「お前ら階段から転がり落ちたんだよ。これ、何本に見える?」


 二人の前で指を立てて見せる。


「ん〜、二本」


「三本!」


 戯ける一人を睨み付けると、苦笑いしながら「二本です」と訂正した。

 この状況でよく下手な冗談を言えたものだ。

 いつもと変わらぬ友人の態度にため息が漏れてしまうのは仕方ないだろう。


「はあ、とりあえずは大丈夫そうだな。それでも頭を打ってるかもしれねーから病院行くぞ」


「えぇ!?」


「やだよ!」


「うるさい、文句言うなら救急車呼ぶぞ!」


「それもやだ!」


「いや、逆にありかもしんない!」


「お前らな……!」


 怪我人なんだから、どうか大人しくしてくれないだろうか。そう願うが、無駄だというのは付き合いの長い自分が一番理解していた。


「気分悪くなったりしてねーか?」


「ぜんぜん」


「同じく。問題な……し?」


 語尾が跳ねた。どういうわけか一緒に転がり落ちた相手を、鳩が豆鉄砲を食ったような顔で見ている。


「あれ?」


「あれ?」


 何故かもう一人も同じような表情をしていた。


「何でおまえが俺の顔をしてんの?」


「いやいや、そう言うお前こそ、何でオレの顔してんだよ」


 二人は困惑しながらお互いを指さし合っていた。


「おい、何を言ってるんだ、お前らは?」


「だから、こいつが俺の顔になってるんだよ」


「それはこっちのセリフなんだけど?」


 意味不明だった。二人して自分が相手の顔になっていると主張するなんて。


「ん、待てよ?」


 確か、こんな感じのアニメだか漫画が以前になかっただろうか。現実に起きるなんて馬鹿らしくてありえないが、でも、今のこの状況はまさしく。


「おい……」


「これ、もしかして……」


 顔を見合わせる二人。どうやら同じ事を思い付いたらしい。

 思わず叫んでいた。


「俺たち……」

「オレたち……」

「お前ら……」


「「「入れ替わってるぅ!?」」」


 最後は三人でハモっていた。


「え、なんで? 階段から落ちた衝撃ってこと?」


「俺に聞くな!」


「えぇ? どーすんのこれ? ねぇ?」


 慌てふためく二人だったが、ふと一人が目を輝かせる。


「よし、もう一回階段から落ちよう!」


「それだ! よし行くぞ!」


「アホか! 原因も分からないのに落ちたって元に戻る保証なんかないだろうが!」


 下手したら今以上に血を流したり、骨が折れるかもしれない。


「そもそも、お前らは別に中身が入れ替わっても問題ないだろ!」


「ん?」


「あぁ」


 お互いに顔を見合わせ、納得の声を上げる二人。


「だって、お前ら双子じゃないか」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ショートショートの森 森嶋貴哉 @takayamorishima

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ