第7話


 話の本筋ではないが、中学の頃俺にはカノジョがいた。

 可愛くて胸おっきくて特撮好きでノリのいい女の子だった。まあ中学卒業の頃には破局してしまって、肉体関係もなかったけど。

 元カノのことを思い出したのは、俺と彼女も家が近所だったから。

 もし何かがズレていたら、俺もカズイ後輩のように拗らせちゃったのかなーと思ってしまう。

 いやさ、元カノと疎遠になったのが寂しくてセフレ遊びにドハマリした俺は、単に方向性が違うだけで充分拗らせてるような気がしないでもない。

 閑話休題。


「裕也先輩、重ね重ねありがとうございますっ」


 アリスちゃんは全身で感謝を伝えてくれる。

 具体的に言うと抱き着いて柔らかい部分が密着中。

 なお比較としては、 アリスちゃん>元カノ>涼香ちゃん>委員長です。

 一年生が暫定トップ。まあ他のセフレを加えると変動するが。


「まあ、だいたい委員長がやってくれたような気がするけど」

「それでも裕也先輩が私を助けてくれたことには変わりありませんから。んー」


 抱き着いた状態からキスをせがまれた。

 彼女はそっと目を瞑り、俺のことを待っている。

 そうやって迫られたら男の子は我慢できない。俺は誘われるままに深く口づける。


「えへへ。先輩とのキス、気持ちいいです」

「それはよかった。ちゃんと、マナーも守れているね」


 初めてアリスちゃんとキスをした時に教えておいた。

 “キスをする時はお互いに目を瞑る”。それが最低限のマナーだと。


「はいっ。……でも、なんで目を瞑るんですか?」

「あっはっは。決まってるじゃないか」


 俺はにっこりと笑って答えた。


「隠し事に気付かれたら困るだろ?」


 彼女が何かを言うより早く、もう一度唇を重ねる。

 舌を絡めて反論を封じれば、ぴちゃりと粘ついた音が鳴った。


 ……たとえば、アリスちゃんは幼稚園の頃に斎藤一居に会っている。

 また家が隣同士で、両親にも交流があった。その上クラスメイトでもあった。

 しかし彼女は、見かける機会がいくらでもあったはずなのに「誰? 知らない」と言った。

 それは何故だろうか。


 本当に接点も興味もなく、一切覚えていなかったのか。

 それとも俺の手前忘れたことにしておきたかったのか。

 

 分からないし、踏み込む気もない。

 だけどキスをする時は目を瞑るようにしておく。

 途中で目が合って、瞳の奥に感情の揺らぎでも見つけてしまったら大変だ。


「ね、アリスちゃん。また次の休みにでも、どう?」

「えへへ。は、はい……今度は、先輩のお部屋がいいです」


 女の子ってズルいよな。

 でも俺はそういうのが嫌いじゃない。だって、ズルい方が気持ちいい。

 だから物陰から見ている誰かさん、早めに諦めてね。

 今回の件はNTRでもBSSでもない。

 そもそも清純で家庭的な幼馴染なんて、君の頭の中にしかいなかったんだから。



 

 ◆




 こうして騒動は幕を下ろした。

 俺はただ複数人の女性をセフレにして普通に楽しんでいただけなのに、いきなり因縁を付けられ、ド腐れ寝取り野郎なんて不名誉な呼ばれ方をした。

 繰り返すが、あくまで俺はNTR反対派。まったくもって俺にはそぐわない称号だ。

 日々を真面目に生きている俺からすると納得はいかないが、だからと言って報復できる訳でもない。

 結局苛立ちを飲み込むしかできず、すっきりとしない終わりになってしまった。


 でも涼香ちゃんが慰めてくれたので、悪いことばかりでもなかった。気持ちよかった。

 余談だが涼香ちゃんは同じ陸上部員から告白されたらしい。

 ということで、せっかくだから陸上部のシャワー室でボディーソーププレイをして楽しんだ。バレるかバレないか、スリルでお互いいつもより激しく求め合いました。

 なお、普通に男子からの告白は断ったとのこと。プレイのすぐ後だったから、ふらふらで大変だったとは涼香ちゃんの弁だ。


 カズイ後輩が迷惑をかけたことでアリスちゃんはしばらく落ち込んでいた。

 なので悠月のご両親が出張で出かける日を見計らって、今度は俺が一晩中慰めた。

 彼女はたいそう喜んでくれて、涙を流しながら失神するくらいだった。

 ただカーテン近くで行為を繰り返していたので、うるさかったのかな?

 隣の家の息子さんが一晩中「うあがあああああああああ?!」とか「やめろおおおおおお?!」とか「脳が、脳が痛いよおおおおおおおおお」とか叫んでいたらしい。

 その後、何故かカズイ後輩は体調を崩し入院。

 不思議だが、当面の危機が去ったのだから喜ぶべきだろう。


 そんなこんなでようやく俺の周りには普通で平穏な日々が戻ってきた。

 ただ、全てが終わったはずなのに、何故か一部の生徒は俺のことをこう呼ぶ。


『ド腐れ寝取り野郎』と。


「いや、なんで?! カズイ後輩の一件は綺麗に片付いたはずだろ?!」

 

 委員長からその事実を聞かされ、俺は教室だということも忘れて叫んでしまった。


「その筈ですが。……いえ、普段の行いを考えれば別に然程不思議でも」

「くそう、俺を不当に貶めようなんて、これが世界の悪意ってやつかよ……」

「聞いてくださいよ」


 俺が頭を悩ませていると、おずおずと手を涼香ちゃんが手を挙げた。


「あー、ごめん。それ私のせいかも」

「涼香ちゃんの?」

「うん。この前さ、裕也と腕組んで歩いてたことあったでしょ? それ、陸上部の男子にも見られたみたいで」


 二人でゲーセン帰りに飯食いに行った時だったっけ。

 確かにその時はちょっとデートっぽいこともしたし、腕組んだりキスしたりもしたけどさ。


「でね、その男子って、私に告白してきた人でさー。なんか、『ド腐れ寝取り野郎に涼香をNTRされたー』とか騒いでるらしくって」

「ちなみにその相手と付き合ってたりは?」

「するわけないじゃん。そ、そういうアレも、裕也としかしてないし」


 寝てないどころか付き合ってもいないのにNTRとはこれいかに。

 というか面識もない相手からの不当な悪評って普通に訴えてもいいレベルだと思う。


「それ全然寝取られじゃないだろ。ただお前が失恋しただけじゃん。というか、カズイ後輩の件もBSSですらないし。皆もっと寝取られは定義を踏まえて正しく使おうよ……」

「いえ、定義どうこう以前に貴方は自らの行いを正すべきでは」

「可愛い女の子に惹かれるのは、思春期男子の正しい情動だとチャラ男的には思います……」

「それで複数人と行為に及ぶのが問題だと言ってるんですよクズバナ君」


 正論は耳に入れない方向で。

 とりあえず、妙な絡み方をしてきた後輩を退けた結果。

 俺はセフレとヤッてただけなのにド腐れ寝取り野郎と呼ばれるようになりましたとさ。




 おしまい

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俺氏、セフレとヤッてただけなのにド腐れ寝取り野郎と呼ばれる 西基央 @hide0026

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