エイトバトル VS 邪神教③。
持ち物は全て取り上げられていたはずなのだが、荷車の中で寝転んだままのテガタが懐から何かを取り出した。それをこすり合わせると足音のする方向へと弧を描く様に放り投げる。
バン、バンバンバンバン!!
洞窟内に響き渡る軽い破裂音と共に、多くの煙が吹き上がった。
『今です、ローン君!』
小声でそう言いながら荷車を飛び出し、煙の中へと飛び込んで行くテガタ。ローンも荷車飛び出し、荷車を押して走り出す。進んで来た道を戻るには荷車の向きを変えて引くよりそのまま押した方が早いと考えたからだ。
多少整備されてるとはいえ、元はただの洞窟だ。全力で荷車を押していると荒れた路面でガタガタと大きく揺れたり跳ねたりした。振動で頭を打ち付けたキャッシュが目を覚ます。
「痛いぃ、もっと優しくしてよ!」
「無理ぃ!」
この状況で何を言ってるんだコイツは。重い荷車を一人で押している俺はムッとして即答で否定した。その瞬間、俺に向かって右の手のひらを真っ直ぐこちらに向けた彼女はこう叫んだ。
「ファイアアロー!」
火の矢はローンの頭のすぐ横を走り抜ける。
「危なっ……」
「ギャァァァアァッ!」
ローンの言葉が終わらぬうちに、すぐ後ろから悲鳴が上がる。彼のすぐ後ろまで邪神教徒が迫っていたようだ。
満面の笑みでグウッ!っとサムズアップするキャッシュだが、炎の矢は彼の顔をかすめてもみあげを少し焼いていた。少しも『グウッ!』じゃねぇんだよ、『グウッ!』じゃ!!
そうこうしているうちにも荷車を逃がすまいと邪神教徒達が進路に立ち塞がるのだが、十人近い人数が乗せられたドデカイ荷車を俺が全力で押しているのだ。何人立ち塞がろうが、そう簡単に止められる物ではない。ローンは大声で叫びながら教徒たちを跳ね飛ばして行く。
「俺の押す荷車と雪だるま式に増える借金の利息はそう簡単には止まらないぜ!」
「ローン……それ、ダッサイわ」
『うっせぇわ!』
心の中で悪態をつく。彼の後方から迫る信徒たちに向かって
キャッシュのツッコミに憮然としながらも、荷車を押すスピードは緩めない。むしろ飛び出してくる邪信徒たちを次々と全力で跳ね飛ばすのがちょっとだけ楽しくなり始めていた。
だが、調子に乗るとだいたいろくな事にならない。前方から迫りくる大勢の邪信徒を跳ね飛ばそうと少しだけ荷車の角度を変えたのだが、それがまずかった。多少整備された道ではあるが、元は洞窟である。かなり隆起した部分を車輪が踏んでしまい勢い良く派手にひっくり返った。
「わぁお!」
キャッシュを含めた生贄の人々が、荷車と共に、そりゃあもうド派手に吹っ飛んだ。俺達の進路を阻もうとして集まっていた邪神教徒達は、勢い良く吹っ飛んできた荷車と乗っていた人々に巻き込まれ、跳ね飛ばされたり、押し潰されたりと散々な目に合っている。
キャッシュは邪神教徒をちゃっかり下敷きにして無傷で着地していたが、眠らされていた生贄の人々は派手に体を打ち付けた人が多くほぼ全員が覚醒していた。戸惑う彼らには目も向けず、俺はキャッシュに向かって叫んだ!
「キャッシュ、そいつ等を連れて逃げろ!」
「でも…、」
珍しくこちらを見て心配そうに口ごもる。でも彼にはあるのだ。キャッシュをその気に一言が。
「全員無事に逃がせば国から金が出る。」
「了解!!」
さすがキャッシュだ。気持ちが切り替わると行動が早い! その場にへたり込み混乱する捕まっていた人々に向かって、複数のファイヤーボールを叩き込んだ。
「死にたくなければ洞窟の外へ逃げなさい!」
考えるよりも先に行動させる為の手段であり、もちろん当てる気のない魔法なのだろうが、いくつか当たってる様にも見えた。雑な
キャッシュに追い立てられる様に生贄さんたちは必死に出口へと向かって走り出した。そしてそれを逃がすまいと邪神教徒たちも洞窟出口を固め始める。
火魔法で応戦するキャッシュだが敵の数が多く、明らかに手が足りない。
「ローン!」
不安げに俺の名を呼びながらチラリとこちらに視線を送るキャッシュ。それにローンも大きな声で応えた。
「まかせろ! 来い、エクスカリバ―――!!」
ローンの叫び声と共に洞窟出口の奥から激しく岩を砕く破砕音と、空気を切り裂く様なヒュンヒュンという音が近づいてきた。思わず振り返る邪神教徒たち。
彼らの目に映ったのは、高速で回転する巨大な何かが、自分たちに向かって飛び込んで来るところだった。
「みんな、伏せて!」
言うなりキャッシュは生贄さん達の頭部に向かってファイヤーボールを放つ! 多くの者は慌てて炎から逃げる様に伏せる。残りはファイヤーボールがかすって当たった反動で倒れて伏せた。酷い。
洞窟から飛び出したエクスカリバーは、出口を囲んでいた邪神教徒たちをなぎ倒し、伏せたキャッシュや生贄さん達の上を飛び越えて、頭上へと伸ばしたローンの右手に収まった。
キャッシュはそれを見ることなく、自らの頭上をエクスカリバーが通過した瞬間にダッシュで動き出す。エクスカリバーにはじき飛ばされなかった残り数名の邪神教徒の顔面にファイヤーボールと当て身を食らわせて無力化した。所詮、数さえ少なければ、戦闘職ではない邪神教徒たちなど彼女の敵ではなかった。
キャッシュは新手が来ないうちにと、出口へ生贄さんたちを追い立てた。だが、何かふと気になって後ろを振り返る。
「ローン?」
ローンは動かずその場に立っていた。エクスカリバーを携えたまま、その場に立ち尽くし煙幕の立ち込める洞窟の奥へと視線を向けていた。彼女がもう一言声を掛けるよりも早くローンは呟いた。
「スポンサーを助けてくる。
状況は良くわからないが、今までの様にただ逃げるのではなくちゃんと報酬を得ようとするローンの姿勢をキャッシュは快く思った。
「了解!」
返事と同時に出口へと走り出すキャッシュ。そしてそちらを振り返る事もなく洞窟の奥へと走り出すローン。二人の口元は少しだけ笑っているように見えた。
ーつづくー
選ばれし貧乏勇者は、希望の明日の夢を見る。 闇次 朗 @Yamiji-Rou
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