セブンスバトル VS 邪神教②。
俺は薄暗い闇の中、少しずつだが意識が覚醒して来たのを自覚した。邪神教リーダーの催眠魔法【
『私の勇者くんを守って!【光の加護】』
彼女の加護が効いたのか眠りはしたものの、非常に浅い眠りで済んだようだ。先程の現場からはまだ動いていない。体は動かなかったものの若干だが意識だけは覚醒しつつある。『神殿へ運べ!』とのリーダーの言葉に村人達が俺の周りに集まって来ている為、人の気配が多く、とても今は目を開けることは出来なそうだ。
数人掛かりで俺を運ぼうとしているのか腕や足を掴んで引っ張られるが、エクスカリバーが重過ぎて動かせないようだ。
「あまり無理に引くな! 催眠が解けるぞ」
リーダーの声に全員がビクリとするとゆっくりと手を離した。諦めて剣の鞘を固定する革のベルトを外しに掛かる。ちょっとくすぐったいのを必死で我慢した。
革のベルトが外されると数人に引きずられて行く俺、体が痛い。先に捕まっていた黒装束とキャッシュは担がれているのに俺だけ扱いが酷い。
村の中に用意されていた大きめの荷車に乗せられ、村の最奥にある洞窟の中へと運ばれて行く。眠らされ捕まっていたのは俺たちだけでは無かった。他にも十数人が荷車に乗せられている。洞窟内の道はかなり整備されているようで荷車はあまり揺れる事なく奥へ奥へと進んでいく。そのままかなり奥まで進んだだろうか、天井の高いかなり開けた空間へと辿り着いた。
ここが神殿なのだろうか、石で作られた大きな像が最奥に鎮座している。俺たちは荷車ごとその前に置き去りにされた。人の去って行く気配を確認してから、うす目を開けて周りの状況を確認する。
すぐ目の前には明らかに神でも女神でもない巨大な石像が見える。頭には前にせり出す様に巨大な二本の角と、額に赤く光る単眼を含む三つの目を持ち、やや絞った様に開いた口からは上に向かってせり上がる様に二本の牙をのぞかせ、憤怒の表情でこちらを見下ろしている。また、その引き締まった鋼のような肉体には四本の腕を持ち、二本は胸の前で組み、更に二本ある腕で巨大な棍を一本ずつ持って身構えている。あぐらをかいて座しているにも関わらず、建物の二階よりデカそうな巨大な像……これが彼らの邪神像なのか? 見ているだけで悪寒が走り、身震いしたくなるような感覚に陥る、そんな感じの像だ。
その魔神像に向けてローブを被った村人達が一斉に呪文の様な物を唱え始めた。何を言っているのか分からないが一定のリズムで抑揚を付けずに唱えるそれはまるで経文のようにも聞こえる。
その詠唱に混じってかすかに声が聞こえた。
「声を上げず、騒がず聞いて欲しい、私は王国騎士団隠密調査部隊のテガタ。テガタ・キリヒトだ。誰か、この声が聞こえている者、目を覚ましている者はいるか? いるなら何か合図を送って欲しい」
「……」
「目覚めている者の気配は無しか……ならば一人で何とか切り抜ける以外ない」
王国騎士を名乗るこの黒装束を信じて良いものか迷って無言を貫いていたのだが、現状を打開するにも一人では難しい。意を決して足を蹴って合図を送る事にした。
こちらの合図に気づいたテガタはこちらに向けてゆっくりと視線を送り俺に目線を合わせた。
「君は先程の……」
「俺の名はローン。 村人達は離れて行ったが、あんたを信用していいのか分からなくて様子を見てた」
邪神教リーダーに強力な催眠魔術を掛けられたのに、すでに目覚めているという事を若干
とはいえ。目覚めているのは俺たち二人しかいない。この現状では協力するか否かなので、どのみち胡散臭くても警戒しながら協力するしか道はないだろう。
「こちらは追われる身なんでね、そうそう熟眠なんてしてられないですから」
とりあえず俺はそんな軽口をたたいてみた。実際は剣の精霊が守ってくれたみたいたが、この場でそんな話しをしても余計疑われるだけだ。
「すでに仲間の騎士達へ連絡は送った。数日で応援が来るだろう、それまでの辛抱だ」
「数日持ちますかね、この状況……」
荷車の中からは全体が見える訳ではないのだが、邪神像の前にはいくつもの遺体が山の様に積み上げられており、腐臭を放っている。その数は二十や三十では済まない、白骨化している物も数多く混じっており、あの中にもう生きている人はいないだろう。
そして俺たちの様に彼らに捕まったり攫われたりした人々を日常的に生贄として捧げているという事なのだろう。今まで色々な黒づくめに追われて来たが、こいつ等はマジで最悪だ、狂ってやがる。
ここに置かれた時点で、俺たちの順番が来るまでそう時間はないだろう。
「で……どうします。皆を叩き起こして逃げますか?」
「いや、それは難しいだろう。もし一人でもパニックになって騒がれたら入口を封鎖されてしまう。俺が騒ぎを起こして囮になる。奴らの注意が俺に向いたら君はこの荷車を引いて入口から脱出してくれ」
「俺一人でですか? この荷車、結構重たいんですけど」
「あの重たい剣を扱える君なら何とかなるのだろ」
バレてらっしゃる。正直、キャッシュを助けるの構わないが他の人を助ける義理はない。俺は騎士でもなければ正義の味方でもないのだ。
「あからさまに嫌そうだな」
「そりゃまあただ働きですから」
正直に答えた俺に、テガタは王都に戻ったら必ずこの働きに見合った報奨金を出すと約束してくれた。生きてここを《出られれば》だが。ただ働きよりは大分マシだ。
だが、ここで予想外の事態が起こった。
「お金出るなら私もやるーっ!! むにゃ〜。」
キャッシュの盛大な寝言が洞窟内に響き渡った。むにゃ〜じゃねぇよ、むにゃ〜じゃ、この銭ゲバ娘が! 先ほどまで続いていた村人たちの経文の詠唱が止まった。周りが見えている訳ではないが、完全に邪神教徒たちの視線が荷車に集まっているのが俺にでも分かる。続けて数人の足音が近づいてくる。やばい大ピンチだ。どうする俺、どうする……!
ーつづくー
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます