第5話

 怪人ーー地球には宇宙人がいるらしい。その宇宙人には悪いやつがいるらしい。その悪い宇宙人が地球人を改造したのが「怪人」らしい。なぜ改造するかといえば、

「地球人の脳を採取するためだ」

 と、コンビニのスナック菓子をつまみ食いする小人の宇宙人、スカーレット大佐が話す。このスカーレット大佐はスポーツドリンクみたいな名前の宇宙なんちゃら軍人らしい。

「地球人の脳は高機能で優秀な一品。他の惑星の宇宙人は喉から手が出るほど欲しがる」

「そーなんだな。でも、お金はちゃんと払おうね」

 と、俺はポテチを取り上げた。

「怪人が作った魔界だから飲み放題、食い放題だぞ」

「そーなの?!」

「ついでに、魔界に地球人を連れ込み、あんなことやこんなこともやり放題だ。高橋メグミも、あの怪人に脳を食われる」

「本当にメグミ先輩はこんなところにいるのか?」

「魔界がある以上、怪人が連れ込んだに違いない」


 ウウウウウウウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオス!!!!!!


 コンビニ前で怪人が雄叫びを上げている。

「ほれ、赤間三等兵、早く倒せ!」

「倒せっつても、どーやって」

「地球人は想像力と創造力が長所だ。その想像力と創造力を使えばいい」

「だから、それをどーやれば」

「分からず屋だな、赤間三等兵は」

 スカーレット大佐はポテチを奪い取る。

「このポテチは、おやつで食べるスナックとして、ジャガイモをスライスして揚げたものだろ? それと同じだ。怪人を倒す武器はなんだ? それを想像して創造すればいい」

 俺は咄嗟にハンマーを思い浮かべた。それもスープの鶏ガラを砕くやつだ。

 すると、鎧が光り出し、その光が銀色のハンマーとなった。

「できるじゃないか! さー、戦え、赤間三等兵! やつをそのハンマーで叩き潰せ!」

 重々しいこのハンマー、これなら勝てる気がする。俺は覚悟を決めて、雄叫びを上げながら怪人に突撃した。


 ウオオオオオオ、ボゴんんんッッッ!!!!!!


 コンビニから別のコンビニに突撃するハメになった。怪人は俺を殴り飛ばした後、さらに追撃する。その太くて長い腕、鋭い爪で俺を何度も掻きむしった。

 鎧の装甲が剥がれていく。スカーレット大佐は倒れた棚に頭でも打ったか、気絶している。


 ウウウウウウウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオス!!!!!!


 怪人が叫んだ。耳を防ぐ気力も体力もない。俺は諦めた。そう、死ぬんだ。変な怪人に殺されて、そう死ぬんだ。


『なぜ千鶴子が死んで、お前が生きてるんだ。お前が生まれてこなきゃ、あの子は』


 大嫌いな祖母の言葉だ。あー、俺は生まれてこなければ、こんなことにーー


「戦え、赤間ユウマ!」《紅葉吹雪》


 誰かの声がした。店内が緋色に染まる。そして、おびただしい紅の葉が怪人を襲う。全身が切り刻まれ、俺の顔に生温い血がかかる。やがて、その巨体は倒れた


 そして、緋色の鎧をまとう女が俺に話しかけた。「赤間くん、大丈夫?」


 愛くるしい笑顔を振りまく普段の姿とはほど遠い、精悍な顔つきの高橋メグミ先輩だった。


 こうして俺は、地球上で怪人をめぐる宇宙人と地球人の戦いへと足を踏み入れる。何度も生きていることを悔いながら。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

はじめまして、宇宙人さん。 だいふく丸 @daifuku0

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ