第15話・ウットテリムでの決着

 階段は埋め立てられ、ウォルターの作った道も爆破されたので、彼女が土魔法を使って外への道を作ろうとしているのが分かる。

 今がチャンスだ。

 首を落とされたら死んでいたが、ファメスという魔族にしたことへの意趣返しか、胸に券を突き刺し地面に縫い付けたあと、特に何かすることもなく彼女は僕の上から足をどけてこの場を離れた。

 正直な話、もう終わったかと思っていたが、これならばまだ何とかなるかもしれない。

 いうことを聞かなくなりつつある体を無理やり動かして、ポーチに手を伸ばす。すぐに動いたら首を落とされかねなかった。だから、脱出口を作るための魔法を使うまで待たなければいけなかったのだが、血が流れ過ぎだ。意識は朦朧とし始めてきているし、体の感覚もかなり薄れている。ギリギリといった所だろうか。

 最上級の回復薬を取り出して、急いで飲み込む。すると、すぐに激痛が戻ってくる。

 肉体強化も身体能力向上の効果もまだ残っている。押さえつけられていないのであれば、剣で地面に縫い付けられているといっても立ち上がれない訳じゃない。

 剣が刺さったまま急速に体が回復をしているので、胸がひどく痛む。人によってはこれだけで気絶しそうなくらいだ。というのも、諸刃の剣が刺さっているのだ、回復するそばから切り裂かれているような状態だからだ。

 力任せに剣を引き抜くが、これがまた尋常ならざる痛みをもたらして、うめき声を漏らしそうなってしまう。背中から突き刺されるような形だったのを引っ張り出したので、それがまた余計に痛覚を刺激していた。

 胸から引き抜いた剣を握りしめて、魔力を頼りにこっそりと移動する。そして、それを振り下ろしたが、軽く回避されて地面に深々と刺さるに終わった。


「しっかりと殺したと思うんだけど……なんで生きているのかな」

「そりゃ、あの程度じゃ即死はしない」

「ああ……魔核がないから……でも、胸を破壊すれば死ぬのは変わらないと思うが」

「たしかに……普通なら死ぬだろうけど、残念ながら回復が出来るのならばそうじゃない。魔核が破壊されたらどうあれ死ぬ魔族や魔物とは違って、人間は即死さえしなければ回復できる。ファメスへの冥土の土産に持っていくといいさ」


 剣を力づくで引き抜くが意外と刀身は傷が見当たらない。僕に突き刺していったけど意外と良い剣なのかもしれない。もしかしたら後で回収するつもりだったのかもしれない。

 それにしても、言わなくてもいいことまで口にした気がする。死の間際から戻って来たからだろうか、色々とやられたから無意識ながらになにか感じるところでもあったのだろうか。

 どちらでもいいが、先ほど死にかけて一つだけ反省したところがある。この前に続いて二つ目の本格的な反省だ

 この前は、セラと一緒に旅をする上での心持の問題だった。そして今回は、未知の相手を前にした心持だ。

 この前セラに注意しておきながら、自分も戦闘に集中できていなかったらしい。

 油断している訳では無かったが、後のことを考えていた。もちろん、この一戦で全てが終わる訳ではない以上、後のことを考えるのは必要なことだが、だが、それは手を抜くことではない。

 魔力などは貯蓄し直せばいいので全部使いきっても構わないくらいの気持ちではいたが、道具の方はそうもいかない。特に自作の物は素材や時間がなければ再び用意することも出来ない。だから、旅も始まったばかりの今、ちょっとしたものならともかく大がかりな物を出すのを控えていた。でも、それで窮地に追い込まれてはいけない。

 今回は運がよかった、前回もそうだった。だが、場合によっては普通に死んでいたはずだ。

 死んでしまったら後のことも何もない。負けるくらいなら全力を尽くす。普通の考えだが、大事なことだ。

 いくつか魔力入りのものをポーチから取り出して身に着けてから、光魔法を使い空間を照らす。こんかいは空間のいくつかの端から強烈な光を放つタイプのものにした。

 古代式で使う光魔法は対抗魔法の使用が難しい。大抵は光を放つ以外の効果をもらたさないので、光魔法は魔法以外の行動で対処されることが多いが、僕が使う物が空間を照らすだけのものだったからか、相手は特になにかするでもなく発動を許してくれた。

 相手としても、やはり光源的な知覚情報は合った方が良いのだろう、それを相手の魔力で出来るなら防ぐ理由がないといったところだろうか。

 古代魔法は現代魔法とは違い、自分の魔法を消すのにも魔力を使う。こっち都合で自在に消すことが出来るものでもない。今回は一刻分くらいは持つように魔力を込めた。これによって僕の手持ちの魔力は使い切った。ポーチやバッグから次の物を取り出さないと魔法は打ち止めとなるが、バッグはさっきまで潜伏したつもりでいた場所に置いてきてしまったので、ポーチの中から取り出したいくつか魔石や金属などを取り出して、腰の魔力籠の中身を入れ替える。

 魔力でいったら、取りあえずはこれで打ち止めだ。バッグの中にはまだあるが、どちらにせよ一旦回収しに行かないといけない。

 動きやすさや隠密性のためにバッグを置いて来たのはいいが、この状況からとりに行くのは少し面倒だ。

 相手にとってどれだけバックが意識に向かっているかは分からないが、こちらがそちらに真っ先に走っていったら警戒されることは間違いない。

 持ったままうごいていたら破損して大惨事になっていたことは間違いないので、そう考えれば置いてきたのは正解とも考えられるけど。

 狙うなら戦いの最中偶然転がっていくような感じが理想だが、さて、そういう風に出来るだろうか。


「その剣を返してもらおう」

「それなら、放置しなければよかったんじゃないか?」


 奪われないようにより一層力を込めて握りこむが、次の瞬間、手元から剣が消えた。

 急に感覚が消えたことで思わず視線を落としてしまうが、その直前に見えた光景が気になって視線を相手の方に戻すと、先ほどまで僕の手に合った剣は相手の手の中に戻っていた。


「すごいな……どんな魔法だ」

「………」


 あわよくば何かしら情報が得られないかと思ったが、

 剣を持たれた相手に流石に無手で戦うのは無理だ。バッグまで向かえないにしてもせめて剣は拾わないといけないだろうが、それを拾うにしても大分後ろまで引かないといけない。バッグの位置が右前方にあることを考えれば、それよりは簡単なんだろうけど……いや、むしろ、これならば……


 ポーチから毒ナイフを3本取り出して、1本目を投げ、間髪入れずに2本目も投げる。情報がいっているなら、受けるわけにはいかないことも分かるだろう。相手の装備は僕と同じで軽装だ、硬度ではじけるような箇所はなさそうだし、ナイフは回避するか剣で弾くしかない。

 僕は最後のナイフを自傷しないように握りこむと、背中を見せて走り出した。

 向かう先はバッグの方では無く、先ほどおいて来たセラの予備の剣がある方だ。

 地下空間に2回金属のぶつかる音が反響する。どういう対処をされたかは分からないが相手に直撃しなかったことだけは分かる。

 剣まではあと数歩というところだが、僕は振り向きながらナイフを振るった。

 気配、殺気、予感、どういった表現が正しいのか分からないが、説明の難しい知覚情報に頼った行動だったが、相手は既に僕の右横にいて剣を振れるような状態でいた。

 ここは手に持ったナイフで防ぐのも、回避する手もあるが、後のことを考えるならここは違う行動をとった方が良い。

 僕はナイフをつきだし、相手に突き刺そうとした。もしも、そのまま攻撃されたなら僕もただでは済まないが、相手も殺せる。そうなったとしても最低限の仕事はこなしたことになるのかもしれないが、出来れば避けたい結果となるのだが、この相手なら……やはりそう来るよなっ……


 ナイフをつきだした右手は、伸びきるよりも先に斬り飛ばされていた。

 だが一手だ、相手の剣は連続して振るわれない。その一手ナイフを防ぐために使わせた。ナイフじゃなくて腕ごと持っていかれたのは少し嫌だが、想定内だ。

 この状態で僕が左腕をポーチの伸ばしつつ、剣の方に向けて膝を曲げれば、相手は僕の素つ行動はポーチから道具を取り出せないようにすることと、剣に近づけないことなはずだ。それするにはうってつけの行動がある。


 魔族の女はポーチを掴むと、僕のことを思い既蹴り飛ばした。

 腰に結び付けている紐は千切れ、ポーチは彼女の手に渡り、僕は後方へ飛ばされていく。しかも奪われたポーチを剣で切り裂いて遠くに放るのも見えた。

 裂かれたポーチは空間拡張の能力が失われ、本来は入らないはずのアイテムがあふれたかのように外にこぼれ落ちていく。

 拡張されたポーチの価値を考えるとかなりもったいない気もするが、それだけのコストをかけただけはある。

 僕は右腕を切り落とされ、ポーチを破壊され、蹴り飛ばされ、更に地面を擦ったが……バッグの位置まで戻ってくることが出来た。

 最後に何とかポーチから取り出せていた回復薬を飲んで、薬瓶を放り捨てると治ったばかりの右腕をバッグの方へ伸ばした。


 やはり特にバッグのことは気にしていなかったらしく、しまった、というような表情を一瞬見せたが、すぐに魔法を発動させようとしながらこちらに向かって来るのは流石としか言えない。

 だが、魔法戦は一つ可能性に気づいたので、それを溜めさせてもらおう。

 バッグの中から一枚のスクロールを取り出すと魔法陣が相手に見えるようにして魔力を流し始めた。

 このうちにいくつかの道具をバッグから取り出しておかないといけないが、推測が間違っていたら正直、困るを通り越して普通に殺されそうだ。


「な、お前、心中するつもりか」

「さて、ね、どうだろう」


 まずは予測通りだ。彼女は足を止めていくつかの魔法を使おうとし始めた。それらを止めるようなことはしないが、見た限り水魔法や土魔法で防御を固めようとしているようだ。

 やはり、相手も古代式で発動する火魔法を発動させなかったかのように防ぐことは難しいようだ。

 この魔法はかなり高火力の火魔法だ。この魔法を発動させれば、昨日セラが言っていたように村一つは焼き払えるほどだ。それも、火が燃え広がってではなく、魔法の一撃で灰に出来るほどに高温かつ広範囲に影響を及ぼせるほどである。

 この地下空間はそれなりの広さはあるが、この魔法の熱を逃がせるほどではない。発動させてしまえばたとえ水魔法で消したとしても、代わりにでてくる高温の蒸気で中にいる者は蒸し焼きになるだろう。

 相手は焦って守りを固めようとしているようだが、それが僕の狙いだ。

 僕は別にここで死ぬつもりはない。この魔法の発動のために大量に魔力を使っているが、あくまで発動に信憑性を持たせるためであり、本当に発動させるつもりはないのだ。

 欲しいのは時間だ。僕が作った道具や装備の中で大型の物。秘密兵器や決戦兵器とも言えるような道具の内の一つを取り出して装備するまでの時間稼ぎだ。

 スクロールを地面に置いて足で踏み、魔力を途切れさせないようにしつつ、バッグの中から、一繋がりの3つのパーツにわけられるような装備をとりだして、一番大きなものを背負い、残りの二つを両手に装着するようにして装備をする。

 装着自体は数秒で終わるが、変わった行動をしていれば相手からも注目される。相手からすればこちらが玉砕覚悟の行動でないと察したといったところだろうか。この装備の真の効果は分かっていないだろうし、状況的には自分の攻撃から身を護るためと考えるかもしれない。事実、防御用と思える魔法ばかりだったなかに新たにいくつか攻撃用と思われる魔法が混ざりはじめた。

 スクロールの魔法に全魔力を注いだいまそれらを防ぐことは出来ないが、防ぐ必要はない。

 スクロールに必要な魔力が溜まる。それと同じくらいのタイミングで、相手の水魔法や土魔法が展開された。

 土の壁、氷の壁、球状の水の分厚い壁。それらが術者を守るように展開されると同時に、いくつかの土魔法の攻撃が飛んでくる。狙いは僕自身というと言うよりは先ほど装備したこれのようだ。だが、それも狙い通り。

 相手の魔法の発動に対し僕の火魔法は、効果を示さなかった。こういった表現の仕方をすると無効化されたようにも感じられるが、実際には発動すらしていないといった状況だ。だが、これはミスをしたわけではなく、想定通りの行動だ。しかも、発動の見せかけのために使った魔力も8割がた回収できた。

 次に、右腕に着けた装備を振り回して、相手が放った土魔法に触れていく。すると、あるものは塵になり、あるものは勢いを失って地面に落ちた。

 うん、効果は十分だ。後は早く決着をつけるだけだ。

 氷の壁と土の壁で相手からこちらは見えていない。この装備が僕の想定通りの動きをしてくれているとしたら、魔力等の感知も出来ていないはずだ。

 右腕の装備で二つの壁を塵にして、相手に接近する。


 最後の水球も塵にして、驚いた表情をしている相手に向けて左腕の装備を突き出す。

 剣の刃で受け止められたが、装備の方は問題があるような傷はついていない。耐久性も想定通りにあるようだ。


「おまえ、なぜ……」

「こんなタイミングで使うつもりはなかったけど、それだけそっちが強かったということだから、あの世で誇ればいいよ。これは僕の最終兵器的な道具の内の一つだからね、それを引き出したんだから」


 剣で受け止められたが、それでも相変わらず左腕は向けられたままだ。それならば、十分にこの装備は役目を果たせる。

 あらゆる攻撃に耐えられるように色々と考えて作ってはあるが、そもそもこの装備は直接攻撃や強度による防御を想定して作られたものではない。

 これは対魔法用の最終兵器だ。

 一度起動させてしまえば、再びバッグに仕舞うことも出来ないし、15分ほどで壊れてしまう物だが、これがあればあらゆる魔法を無効化し、その魔力を自分の物として魔法を発動できる。

 その名も魔力変換機。魔法だけではない、魔力があるものから魔力を吸い出すことも出来る。たとえその魔力が誰のコントロール下にあったとしても、強制的に自分の物に出来る代物だ。

 金銭的にも時間的にも作るのにかかるコストが高いため、あまり出したくないものではあったのだが、これを出した以上、この程度の相手には負ける気がしない。


 使いたい魔法を思い浮かべながら、装備を少し操作する。こうするだけで魔法が放てる。通常の魔法に必要な工程をいくつか飛ばしているうえに、魔力を注ぐ時間も短縮できる。それに加えて、発動するまで魔法の内容の秘匿も出来る。

 これで決まるかと思想ったが、魔族は魔力に対して敏感なのだろう。なにか感じたように、相手はすぐにその場から離れた。その直後に左腕の装備から熱線が放たれ直線状にある壁を溶かして穴をあけた。


「な、なんだ、その魔法は……その発動速度で放てるものではないはずだ!」

「まぁ、本気を出したってことだよ」


 そうは言ってみるけど、相手もこの装備がパワーアップの理由と分かっていることだろう。放ってくる魔法は僕の装備を狙っているように見える。だが、それは効かない。

 右腕を振るって全てを無効化し、その魔法のために使われた魔力の何割かを回収する。

 そして左腕を相手の方へ向けて、蜘蛛の巣のようなものを発射する。

 土魔法の要素を加えた無属性魔法で、獣などを捕獲したり足止めする際に便利な魔法だが、それは剣で裂かれ上手く決まらなかった。だが、本命はこの後、糸を放った直後に、もう一つの魔法を足元に向けて発動させる。スクロールを使わずにこの発動速度で次々に魔法を使えるのもこの装備に強いところだ。

 水魔法の要素が強めの無属性魔法で、特殊な液体を作りだす魔法だ。

 魔族の女が立っている付近一帯を濡らす。もちろん相手の脚を巻き込んでだ。

 この液体は空気に触れると急激に粘度が上がり鳥もちのようになるものだ。相手の力を考えると動けなくなるということはないと思うが、それでもかなり動きが鈍くなるはずだ。


「それじゃあ、これで終わりかな」

「っく……」


 しっかりと狙いを定めて次の魔法を放つ。漆黒の球体が左腕の先から放たれ、真っ直ぐと進んでいく。これは闇属性の魔法で、触れるものを削り取って粒子に変換する危険な魔法だ。魔法発動の際に使った魔力量によって発動時間が変化するが、時間の終了か、あるいは強力な光魔法で対抗しなければ効果が終了するまで止まらないものだ。


 魔法の危険度は見てすぐに察したらしいが、どうやら止めるような手立てはないらしい、身体を動かして避けようと下みたいだが、魔法は彼女の胴を抉るようにして貫いた。


「っぐぅ……がっ……」


 うめき声をあげて相手は、その場に倒れた。


「魔石を砕けば、死が確定するんだっけ……その様子だとどっちにせよそのうち死ぬんだろうけど」

「……ふっ、なるほど……これほどとは、油断していたとはいえ、ファメスが負けるわけだ、彼女は研究要員でしかなかったからな、お前に勝てるはずがない」

「どうしたんだ、急に。命乞いでもするつもりか?」

「まさか、そんなはずがないだろう」

「そんなことを言っても。僕から近づくことはしないぞ、苦しんで死ぬのを見届けてから魔核を回収するだけだ」

「はっ、もう勝った気でいるのか」

「だって、そうだろう……そこから何ができるんだ。見るからに、死にかけだし、下半身はギリギリ繋がっているみたいだけど、その様子だと動かすことは出来ないだろ?」


 僕が挑発的にそう言ってみると、彼女は血を吐きながら笑った。


「だけど、腕は動く」


 そして、握りしめていた剣をこちらに投げて来た。

 かなりの速度で向かって来る凶器に咄嗟に右腕の装備で防ぐ。だが、次の瞬間、地面に引っ付いた下半身を無理やり引きはがしたからだろう、上半身だけとなった魔族が目の前にいた。


 声は出ていないが、口の動きで何を言っているかは分かった。

「おまえも道連れだ」

 そして、彼女は命に危険が及ぶであろうほどの魔力を使った火魔法を放った。


 僕は、それを左腕の装備で受けて、魔法の効果を打ち消した。


 驚きの表情と共に下に落下した彼女を右腕の装備で地面に押さえつけた。


「な、な……ぜ……」

「ああ、勘違いしたんだろうね。まぁ、そう思うように分かりやすく右で受けて左で魔法を使っていたから、こうやって動いてくると思ったけどね」


 右腕と左腕の装備は形状に違いはあるが、効果自体はほぼ同じだ。だから、左でも魔法を無効化できるし、右でも魔法を放てる。

 魔法を放つ際に得意不得意はあるが、どちらでも同じことが出来るのだ。


「致命的な隙作ってくれると待っていた。だから、今度こそ終わりだ」


 土魔法で金属の針を作り、それを打ち出す。針は彼女の頭を貫き、10秒も経たないうちに、彼女は魔核である魔石とボロボロになった装備を残して霧散した。


 ばら撒かれたポーチの中身は置いておくとして、魔石と剣は回収しておこう。

 べたつく魔法は魔力変換機で解除しながら、壁まで移動して土魔法を発動させる。


 上にはまだ魔族がいるかもしれない。セラのことだからもう倒している可能性もあるが、相手は魔族がどうなっているか分からないので、魔力変換機の残り時間があるうちに合流したい。

 そう思って、急いで外に出たのだが、そこに広がっていたのはボロボロになった城と、多くの亡骸だった。


 これはどういった状況なのかと、警戒しながら周りを見渡していると、聞きなれた声が耳に入って来た。


「おーい、ジョーン」


 城の上の方を見るとセラが手を振っていた。

 どうやら無事のようだが……これはどういった状態だろうか。笑顔で手を振っている様子や、周りから戦闘しているような音が聞こえないことから、一段落は付いているように感じるが。

 セラの方へ向かおうとしたところ、セラが城の上から飛び降りた。

 結構な高さがあるだけに少しびっくりしたが、普通に着地して何事もなくしている辺りから察するに、大丈夫なのだろう。


「あ、やっぱりジョンだ……って、なにそのごつい装備? そんなのしてたっけ?」


 降りてきてまず一言、そんなことを口にしたセラは首を傾げるのだった。

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