第10話・山賊アジトと魔族

 セラが剣を振るい、山賊の首を落としていく。

 一応洗脳されているときいたので、最初の方は腕とか脚を斬り落としていたのだが、死なない限り止まらないし、どんどんと向かって来るので、途中からは遠慮なく殺して行っている。まぁ、犯罪集団ではあるから、咎める必要はないだろうし、気を取られた隙を魔族につかれるよりはずっといいだろう。


「ああ、もう、鬱陶しいなあ」


 そう言って、セラは周囲の山賊の心臓を一突きずつして、一瞬のうちに10人ほどを仕留めた。

 それにしても結構な人数だ。外に出ていた山賊を戻してきたのだろうか。そうだとしても結構な人数だ。騎士たちが来たこともあるとしたらどれほどの規模だったんだ、この山賊。


「自信があるだけはあるね、これだけの数をものともしないなんて」

「魔族なら分かるだろうけど、戦力差が開けば数の暴力も意味をなさなくなる」

「たしかにそれはそうだけど……遠慮なく殺すね、人間同士だし、洗脳されているだけなのに」

「それはあたりまえだろ、元々山賊なんてやっていたんだ、討伐されるくらい覚悟を決めてるだろ」

「なるほどね、結構非情だね」

「それをさせているお前には言われたくない」


 セラが山賊たちを処理している間、僕は魔族と魔法戦をしていた。

 この会話の間にも、魔法の打ち合いを繰り広げている。

 流石は魔族と言った所だろう。魔法の発動速度も威力も流石だと言える。だが、あの魔族に比べると、やはり何とかなる気がする強さだ。

 もちろん、まだ本気は出していないのだろうが、そうだとしても、魔法の使い方や戦略、身体捌きが全然違う。


 相手の得意な魔法は土属性。土屋岩の中であるこの場所と相性がいいから使っているだけかもしれないが、にしては他属性の魔法をほとんど使っていないので、間違いないだろう。

 たまに魔力そのものをぶつけてくるような無属性の物も使ってきているので、その辺りも得意なのかもしれないが、こっちは誰でも簡単に使える初歩みたいなものなので分からない。


「わざわざ、ここまで来たのは失敗だったのではないか?」

「どうだろうね、最悪道連れには出来ると思うけど?」


 個人的には魔族の存在を確認できただけ、情報が手に入ったのでプラスではあるが、セラが全力を出せないでいるのは確かにマイナスかもしれない。

 相手の魔族がこんなことを言うのは、戦い始めの方は僕とセラの役回りが逆だったからだ。

 しかし、セラの魔法にこの空間のほうが耐えられていなかったために、すぐに交替したというわけだ。


 撃ち合いをしているうちのいくつかが壁に当たった結果、この空間も来たときに比べると2割ほど狭くなっている。あと何発か当たったらこの場所自体が無くなってもおかしくないため、セラは物理的な威力を伴う魔法をさけて、剣をメインに戦っている。


「強いね、本当に人間?」

「まぁ、そっちと違って魔法を使うのにも一苦労なんだけどね」


 自前で生産出来ている魔族と違って、こっちはあらかじめ用意したものを消費しているに過ぎない。長期的に戦うほどにコストが嵩んでいく。


「あっそう、じゃあ、そろそろ終わりにしてあげようかな」


 そう言って、相手が土魔法を使った。相手の周りに礫が浮かび上がる。

 あの魔法は礫を飛ばすもので、オーマスで僕が設置した魔法陣のものに近いだろう……こういう魔法を使ってくれるのを待っていた。


 相手の魔法発動に合わせて、僕はあらかじめ相手の近くの地面に仕込んでおいた魔法式を起動させた。


「岩に貫かれて死ぬといいよ!」


 そして、いくつもの礫がこちらに飛んでくるが。こちらも土魔法を使い、壁を作りそれらを防ぐ。

 その魔法は一方から放つだけだと物理的な壁で防がれやすいのが弱点だ。使いやすさから僕も良く使うので、その辺りは良く分かっているつもりだ。

 一応警戒しながら、魔法を操って壁を崩すと、身体を礫に受けてボロボロの魔族が椅子にもたれ掛るように座っていた。どうやらうまく決まったらしい。


「な、何をした……」

「簡単だよ、最初のうちにさっき使ったのと似た魔法の式を、足元に打ち込ませてもらった」

「なに?」


 これは前回の戦いで学んだことだ。魔法を行使していると、起動していない魔術式を放たれても気づきにくい。あの魔族との戦いは本格的な魔法戦だったので、学ぶところも多くあった。

 最初はどこかのタイミングで発動して仕留めようとしたが、相手が土魔法を得意としているのが分かったので、作戦を変更した。

 こちらは物理的な要素の強い魔法を使うのを避けていれば、こちらを仕留めるために、礫や岩を飛ばすような魔法を使って来ると思ったのだ。

 そして狙い通りにつかってくれたので、魔法式を起動、浮かび上がらせたものの中にこちらの魔法を紛れ込んでも普通は気づかない。

 あとはさっきやったようにこっちが今まで使ってなかった魔法を使えば少しは気を取られるだろうし、自分の発動した魔法が、干渉も何もされていないのに自分に向かって来るなんて考えてもいないだろうから、不意を突けるというわけだ。


「なるほど、だけど、この程度じゃ、私達魔族は……」

「いや、終わりだよ」


 ナイフを取り出して投げる。僕がさっきやったように岩壁を作り防ごうとしているのが見えたが……その発動方式は現代式に近い。それじゃあ、せっかくの土魔法でも攻撃を防げない。せめて、環境を利用すればよかったのに。


 魔法の解除と反発の効果が付与されたそのナイフは、魔力を練り上げて作られた岩壁を簡単に切り裂いてその先にいる魔族の方に突き刺さった。


「うっ……解除と反発……人間のくせに……なんでこれほど魔法戦に慣れている……」

「まぁ、普通は魔法は最初の方に打ち切って終わりだろうしね、そういう感想もあるかもしれないけど」


 見る見る弱っていく魔族から視線を逸らすことなく、ナイフを回収する。


「魔族と言っても本当に差はあるんだねー」


 回収したナイフを取り出して魔法で洗浄していると、セラが同じようにして剣を綺麗にしながらこちらに歩いて来た。


「そっちは終わったの?」

「うん、面倒だから向かってきたのは全員殺したけど」

「こっち来るまで僕が無力化したのが20人ほどはいたと思うから、洗脳関係はそっちを見ればいいから、大丈夫だよ」


「それにしても、あっさりナイフが当たったね、やっぱり、この前のは強い人だったんだねー」

「ああ、それは僕も実感している」

「この前の……君たち、まさか、魔族の者と戦うのは初めてじゃないのかい?」


 随分と顔色が悪くなった魔族は驚いた表情をして、絞り出したような声でそんなことを口にした。やはり、つい3日前ということもあって、戦いのことは知られていないようだった。

 魔族戦の経験があることを口にするかどうか迷ったが、ここまで話したら、相手もほぼ確証を持っているだろう。


「……まぁ、いいか。そうだね、僕たちは魔族と戦ったことがある。だから、お前が魔族と聞いて警戒していたが、思ったより強くはなかったから正直なところ拍子抜けしている」

「そんな……それじゃあ、私が勝てるわけないじゃん……研究にきただけだよ……なのに……」

「それは災難だったね、でも、人間に被害が出ている以上、お前は見逃せない」

「どうする? 首でも刎ねる?」

「それもいいけど、毒の効きを見たいからもう少しだけはこのままでいいかな?」

「毒……毒、そうか、さっきのナイフ……だから、身体が……くそっ……」


 なるほど、あの男にはかすりもしなかったため分からなかったが、効果はちゃんとあるようだ。

 苦悶の表情を浮かべた魔族の女はそれから8分ほどした辺りで、身体が魔力に変換されていき、魔核と服だけを残して消えて行った。


「術者が死んだら洗脳魔法は効力を失うと言っていたけど、それの確認もしないとだね」

「じゃあ、引きずってくる?」

「いや、集めるのは違いないけど、変にダメージを与えないようにね」

「分かった」


 一応暴れられても困るし、死体の処理はしておこうか。


「僕は死体とか処理しておくから、先に集めてくれる?」

「じゃあ、外の死体は燃やしておくね」

「まぁ、そうだね、腐敗してもあれだし、僕もそうしておくよ」


 これだけの死体を燃やすと何かと問題が起きそうだから、先にけっかいでとじこめるとか別室を作るだとかしないといけないかな。

 流石に埋めただけだと、後々腐敗とかで問題起きそうだし、焼く必要はある気がするんだけど、どうしようかな……

 魔核や装備を回収しながら死体の処理について考える。

 巨大な窯のようなものを作って焼くとしても、普通に焼くだけだとどう考えても煙で大変なことになるよな。密閉空間だし……

 仕方ない、生き残りをここに集めるのではなくて、外に集めることにして、ここは一度焼き払ってしまおう。


 油だけばら撒いて、外へ向かうことにした。


「あ、ジョン、死体の処理終わった?」

「それなんだけど、思ったより数が多くて一つ一つ焼いていたら僕らの方が大変なことになるし、かといって全部外に持ち出すのは面倒だから、生き残りの方を外に連れて行こうと思って」

「じゃあ、その後でこの中を全部焼けばいい?」

「そうだね、セラがやってくれるなら助かる」

「よし、任せて」


 道中少しでも燃えやすいように油をまきつつ、無力化した山賊たち抱えて外へ向かう。魔法を使っても良かったが、単純に魔力の無駄な気がしたので、面倒だが、一人ずつ運び出していこうとしたのだが、セラが面倒なのは嫌だと言って、浮遊魔法と土魔法を使ってまとめて運び出した。


「これで全部かな?」

「全部かどうかは分からないけど、一通り連れだしたし、良いと思うよ」

「よし、じゃあ燃やすね」


 セラは火魔法と風魔法を組み合わせて、どんどんと洞窟内に炎を送っていく。

 油を撒いておいたおかげもあって、すぐに火は奥まで燃え広がって言っているのが見える。

 それよりも山賊の方たちを調べて行こう。

 脈を見たり、魔法を遣ったりして、一人一人見ていくが……これは酷いな。

 運んでいる時になんとなく分かっていたけど、気絶させたり眠らせていたはずの者達だが、大半は死んでいる。

 22人連れ出してきたのだが、生きているのは4人か……正確には5人だが、うち一人は体が生きているだけのようで全く意識が戻らない。治療を施したら呼吸だけはするようになったが……放置したら死ぬような状態だ。


「えっと、俺達は、何をして……そもそも、あんたたちは誰なんだ、なんで俺達のアジトを焼いているんだ」

「それは説明するから動くな」

「うがっ……」


 目覚めさせたら目覚めさせたで、こんな感じに飛び掛かって来たものもいたが、なんだったら洗脳されていた時の方がマシだった。土魔法で簡単に拘束出来た。魔法も使えない人間なので、腕同士を繋ぎ留め、足を地面に縛り付けるだけで動けなくなる。簡単な作業だ。


「なんで俺達のアジトを焼いているんだっ! 仲間たちはどうしたんだ」

「お前たち以外は死んだ、というか、状況が分かっているのか?」

「状況って、そりゃ、いつの間にか俺達が捕まっていて、アジトが焼かれているに決まっているだろ! 寝ている時を狙ったのかっ!」

「なるほど……何も覚えていないと言うわけか……」

「なにも覚えていないだとっ! なにを言っているんだっ!」


 その言葉に続き、他の山賊も色々と言って来るが、これは困ったな。戦の兎さr手いる間の記憶は全く無いみたいだし、あちら側の被害は甚大。そして今は、アジトの中を焼いているとくると説明が面倒臭そうだ。


 男たちのうるさい声に一応耳を傾けながら、セラがこちらに来るのを待つことにした。

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