第7話・滅びた村

「ねぇ、ジョン」

「なに、セラ」

「目的地ってここでいいんだよね」

「地図によればね」

「手持ちの地図、間違ってない?」

「それならいいんだけどね」


 目的地のテフ村に着くや否や僕たちはそんなやり取りをしていた。

 それもそのはず、やってきた村には人は一人としておらず、建物の残骸や、荒れ果てた畑があるのみだった。


「この村はもうとっくに廃村だったんじゃないの?」

「それならそれでいいんだけど……」


 畑には砕けた野菜がいくつか見える。

 生えているだけなら野生化した物かもしれない。もちろんこれが野生動物やモンスターの仕業かもしれない。ここには畑の世話をする人がいないので、荒されていたとしてもおかしくはないのだが、他にも少し気になる点があるので、少し調査をしたい。


 畑の方に寄ってみると、何匹かモンスターがいた。


「ん、放棄されてから大分経っているんじゃない? モンスターいるじゃん」

「村の人でも倒せるような弱いやつだけどね」


 土魔法でそれらを仕留めてから周りを見渡すが、いくつか野菜が残っている。


「確かに、放棄された村にモンスターが住みつくことはあるけど、その割には残っている野菜が多いし、住みついたモンスターも弱すぎる気がする」

「そうなの?」

「いや、まぁ、実際に何回も廃村を回ったことがある訳じゃないから、聞いた話とか文献とかに残された情報から判断しているだけだけど」


 廃村に住みつくモンスターは基本的には強い肉食系か雑食のものである。野菜などといった柔らかい植物が大量に生えていると、草食のモンスターが食べに来るのだが、ある程度すると、それを狙って肉食の動物がやってくる。そして、それを狙いに強力なモンスターがやってきて、強力なモンスターが根付いていると肉食獣がやって来にくくなるので、その間草食のモンスターはその付近で生活するようになり、辺りの植物がほぼ食べつくされるのだ。そして、食べられるものが少なくなると睡眠や休憩する時は戻って来るが、食事は別の場所でするようになって、その隙を肉食獣に狙われるので、住処まで獣を引き連れて戻り、それを強力なモンスターが食べるという形になる。

 廃村は畑の跡が残るので、それが起きる可能性があるということらしい。そして、廃村には建物跡などもあるので、モンスターが身を隠しておきやすいらしく、森の中で植物が大量発生したときよりもそれが起きやすいのではないかという学者もいる。


 こういったことが起きるのは、魔獣や動物と違って、モンスター同士は余程のことがない限り共食いをしないからである。それがたとえ別種のモンスターだとしても。

 そして、共食いするとしても、争いの果てに起きるのではなく、状況的にどちらかが死ぬような状態である場合、死ぬ側がその身をささげるように食べられるのである。

 そう言った関係性を始め、まるで何者かが操っているかのようなその不思議な習性たちは、学者の頭を悩ませているらしい。研究しようにも、決して人に懐くことがないモンスターたちをずっと観察するのは非常に困難なので、未だにあまり研究が進んでいないらしい。


 そんなことを長々と説明してもセラは聞いてくれないだろうし、「廃村にモンスターが住みつくなら、強いのが多いらしいよ」とだけ伝えておいた。


 畑を見る限り、砕けた野菜などが多く残されているし、そうじゃないものなどの中には結構形のいいものもある。まるで人が世話をしていたような感じだ。季節的に根菜類はそう御おっくないのだが、残されたものを見てみると結構なサイズのものもある。根菜はしっかり世話をしないと、サイズが小さくなるものだ。村時代に森に飛んで行ったであろう種から生えたものをいくつか取ったことがあるから分かる。


「一応、建物の方も見てみよう。大丈夫だとは思うけど、強めのモンスターがいないとも限らないし」


 初期段階でも住んでいないと言い切れるわけじゃない。一応、確認しておくに越したことはない。何も住みついていなかったら、ここいら一体の処理だけ済ませて別の村に移ればいいし、住んで居たら排除した後に処理をすればいい。いずれにせよ、人が住んでいないのなら放置は出来ない。柵くらいは残してもいいかもしれないが、畑と建物の後はちゃんと処理しないとモンスターを育ててしまいかねない。


 そう思って、崩れた家の方に向かおうとしたのだが、セラがしゃがんで土を掘りはじめた。


「じゃあ、ここで待ってるねー」

「……うん、分かった、あんまり動かないでね」


 畑で残った野菜を見てるとか言うセラを置いて、一人で向かうことにした。まぁ、僕が対処できないクラスのモンスターがいたら、流石にもう少し話題とかあるだろうし大丈夫だろう。


 まずは一番大きかっただろう建物の近くまで寄って、その跡を見るが……やっぱり、これは、この建物は焼かれている。

 それなりに時間が経っているので、分かりにくいが、一部炭化している場所がある。それに家財も結構残されており、放棄された割には物が多い。


 この村は何者かの襲撃にあった? 焼かれたとなると、一度は可能性を排除したモンスターの可能性も出てくる。流石に住み着いているということはなさそうだけど、この辺りにいるとしたら注意はしないといけない。

 それと、可能性があるとしたら魔獣。あとは、この村が何かをやらかして討伐対象に指定されたとかだろうか。


 つい先日戦ったばかりなので魔族の可能性もちらつくが、その可能性はまずあり得ない。

 とはいえ、中央大陸のかなり南側である旧オーマスの方に魔族がいたので、いつもよりは可能性も高くはあるんだけど。この辺りに入り込んでいる可能性がゼロじゃないと言う証明になってしまっているし。


「ああ、ラテラルストリークフォクスか、一応は肉食だからいてもおかしくないのかな」


 そんな感じでいくつかの建物跡をみて回っていたのだが、3件目で肉食寄りの雑食のモンスターにであった。

 一応木の実とかも食べるらしいけど、ほぼ肉らしいし、肉食に分類しても良いだろう。


 こちらを確認するとすぐに飛び掛かって来るが、走るセラについて行くために色々と薬を服用した今の僕からすれば対処できないものではない。

 バッグの中から剣を取り出して、牙や爪を回避しつつ、すれ違いざまに、特徴である横筋に刃を突き立てて、勢いに任せモンスターを上下に切り裂いた。


 剣自体そこまで使える訳じゃないのだけど、相手が結構な速度で飛び掛かってきたので、それを利用させてもらった。


「あとは、別にいないかな」


 生活魔法の洗浄系のものをいくつか使い剣を綺麗にしたらバッグの中に戻して置いた。一応はセラの剣の予備だったのだが、やはりかなりいいものだった。結構装備にはお金がかかっているのだろう。僕の用意した道具や薬品なども素材などのことを考えると結構なのだが、セラの物は国の予算で用意している訳だし、一級品ばかりだ。村時代の僕に比べればそれらが消耗品として簡単に失われたとしても、まぁ、戦闘の上で迷っている暇はないので、破損や損耗も納得はいくし、仕方ないと割り切ることはできるけど、なにも思っていなさそうなセラと比べると、やっぱり少しは勿体なさを感じてしまう。

 セラほど何も感じていないのもどうかとは思うんだけど、前回の魔族戦では撤退前提の戦いをしていたこともあって少し出ししぶった結果、窮地に追い込まれたので、少し反省しなければいけない。

 魔族との戦いでは後のことを考えて節約はしても、遠慮をしてはいけない。いい教訓になった。


 村を見て回り、後処理のための道具や魔法陣を各所に設置した後、セラの場所に戻ると、セラが根菜類を掘り起こして集めていた。


「お、ほら、見てよジョン、沢山取れたよ」

「いや、沢山取れたよ、じゃないんだけど」


 装備もなんだか全体的に土が付いている。戦闘したわけでもないのに……


「モンスターいた?」

「いるにはいたよ、ほら」


 素材用のバッグから先ほど倒したラテラルストリークフォクスの顔を見せる。


「他には?」

「同じのがあともう一つ」


 食料保存庫だと思われる場所にももう一匹いたので、そちらは不意を突いて水魔法で窒息死させた。一応毛皮売れるし、そこまで気にしなくてもいいだろうけど、換金できるものはいくらあってもいいだろう。


「それで、セラの方はモンスターは?」

「そこそこいたけど面倒だったから、全部雷で倒したよ、たぶんその辺にあるんじゃない?」

「わかった、それは後で回収しておくけど……その野菜どうするの?」


 移動中と違い回収できそうなので、売れそうだったり使えそうなモンスターの死体を拾って来ようと、素材用のバッグを手にしていると、セラが野菜を抱きかかえてこちらの方に視線を向けて来ていた。

 伝えようとしていることは分かるけど、そんなことあまりしたくないんだけど。


「これも回収しよ」

「回収しよって言われても……」

「ほらほら、バッグを開いて」

「いや、ちょっと……せめて、入れるとしても食料入れの方かな……」


 持って歩く必要はない気もするんだけど、断固として断る理由もないし、セラのことだし断ったら、自分の持ち物に加えかねない。それをされれるくらいなら、僕が持っている食料用のマジックバッグに入れた方が良いだろう。

 大型マジックバッグから、食料用のバッグもとりだして、セラが取って来た野菜を入れていった。

 食料用にしているこれは見た目の割に用量は少ないが、時間遅延の効果がある。入れておけば腐りにくくはなるけど、未調理の野菜って、旅するうえでそこまで必要性ないんだけど。保存食や携帯食と違って料理しないとだし、料理が食べたいなら寄った町や村で買えばいいし。まぁ、どこかしらの野宿の際に使っていこう。腐りにくいとはいえ、あんまり放置過ぎれば腐るし。


 食料用のマジッグバッグをしまった後は、モンスターの方も回収を済ませ、この村の処理をすることをセラに伝えた。


「えー、野菜とか全部だめになるじゃん」

「そうするために魔法使うんだけど、モンスターとか寄って来ないように」

「それじゃあ、残された野菜たちはどうするの?」

「いや、知らないよ、というか、なんでセラは自分が育てたわけでもない野菜にそんなに執心してるのさ」

「えー、だってもったいないじゃん」


 必用性は分かっているのだろう、そうは言いながらも、特になにかするでもなく一緒に村の外まで付いて来てくれた。


「全部焼いてもいいけど、森に火がいかないようにするのは面倒だし、今回は建物だけ焼いて地面をある程度の深さでひっくり返すよ」

「燃やす必要なくない?」

「まぁ、ないと言えばないけど、焼いておいた方が脆くなるから、ひっくり返す際に失敗しにくいんだよ」


 強い力がいる分、魔力も多く必要になる。だけど、それだけの魔力があるとも思えないので結果的に建物を一回焼いたほうが必要な魔力量も減ると判断した。


「あ、燃えてるね」

「まぁ、村を出る時に着火は済ませて来たしね、意外と火が回るのに時間はかかったけどあとは時間が経ったら、ひっくり返す方も起動すると思うし、次の村に行こう」

「え、ちゃんと見て行かなくていいの?」

「本当は最後まで見て行った方が良いのかもしれないけど、ある程度時間はかかるし、なにもない場所に留まるほどじゃないし、セラも別にここに留まりたいわけじゃないでしょ」


 こう言っておけば、移動する気になるかなと思ったけど、返ってきた言葉は想定していたものと違った。


「いやー、燃えてるもの見るの意外と楽しいしそれでもいいよー」

「……じゃあ、僕が早く次の村に行きたいから移動してもいい?」


 燃えるのは人が住んでいたであろう建物なので、その発言はちょっと物騒な気がしないでもないけど、気にしないでおこう。

 実は建物の中でいくつか遺体を発見したので、この村が何かしらによって滅ぼされたことが分かったのだ。

 ラテラルストリークフォクスはそれを狙って屋内にいたのだろう。見つけた遺体は腐敗とは別に齧られて骨が露出していたりしたので、多分、間違いない。

 齧られていたり、夏場だったりするので、腐敗からいつ滅んだのかは分からなかったが、遺体が残っている辺りそこまで昔というわけではなさそうだ。それなら別の村も確認しなければいけない。もしかしたら、ここ以外も被害が出ているかもしれない。

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