第2話・噂
あの後、村に戻ろうとするセラを一旦とめ、他の魔獣がいないかどうかの軽く森を回って、他に魔獣がいないこと確認した後に村に戻った。村に戻ろうとするセラを止めるのは苦労するかとも思ったが、村のことを考えてか、それともすこしは反省したのか、意外にも素直に従ってくれた。
セラを先に泊めてもらう部屋に帰し、討伐の報告を死に行ったところ、宴を開いてもらえる雰囲気になっていてよかった。
一応、討伐した魔獣の魔石を譲るだとか、他に魔獣は確認できなかっただとか、色々言って宴を開きやすいようにある程度誘導はしたのだが、最終手段である率直な要求にならなかったので全然良い。
確かに村を救った勇者の要求となれば断れないので宴は開かれるだろうが、この規模の村に打報酬として宴を要求するのは外聞が悪い。一応要求するとしても、数日閉じこもっていたことだろうし、村の民のためにも宴を開くのはいかがという感じに提案をする形にするとは思うが、それはあくまで婉曲表現に過ぎず、要求していることには変わりない。多少マシとはいえ、評判のことを考えるとやはりよくはないだろう。
魔石はいくらでも使い道があるから、出来るなら持っていきたかったのだが、この旅のことを考えるならば評判は大事にしたいものなので、仕方のないコストだと割り切るしかない。
セラのいる部屋に向かい、ノックをすると入っていいと声がかかって来たので、ドアを開ける。
「セラ、宴は開いてくれるって」
「ほんと⁉」
セラは振り返るが、着替え途中だったせいか下着姿だった。
どこが入っていい状態なのだろうか、全然良くないと思うのだが。
「せめて服くらいは来てよ。他の人と一緒だったらどうするつもりだったの」
部屋に入りすぐにドアを閉める。兄妹のような物だから、僕が今更セラの裸を見たところでどうもないけど、他の人もそうとは限らないだろう。その辺の人がセラを力でどうこうできるとも思わないが、その辺りのガードも女の子的には大事なことだと思う。
「大丈夫、他の人の気配なんてしなかったし、他の人がいたら流石にちょっと待ってもらっていたよ」
「そういう問題でもないような気はするけど、それなりに気は使っているのは良いと思うよ。出来れば、もっと気を付けてくれるともっと良いと思うよ」
「じゃあ、今度からそうする」
「頼むよ」
新しい服に着替えると、一応は剣を背負うセラ。
「よし、じゃあ宴に行こっか」
「待ってくれ」
「うわっ、と……」
セラがやる気満々で部屋からでようとしたので、背負った剣を引っ張ってそれを止めた。
「そんな早く準備が終わるわけがないでしょ」
「え、じゃあ手伝うって」
「この村の状況が良く分かってない僕らが手伝ってもあまり手助けにはならないだろうし、僕はともかく勇者のセラが手伝うと鳴ったら村の人は困ると思う。ここでじっとしているのが一番の手伝いだよ」
「えー」
「そんな風に口をとがらせも駄目なものは駄目だ、というか、普段から色々と注意したいことがあったし、この際いいタイミングだから、まとめて言わせてもらうことにするよ」
「えっ……あー、いやー、ボク、この部屋でじっとしてるし、それはまた今度ってことに出来ない?」
「出来ない」
「……はーい、分かりました」
「よろしい」
その後一時間ほどかけて、気まぐれでなにかすることと一国を代表する勇者という立場が合わさった時に何が起こるのかしっかり考えて動いてほしいと言ったことを言ったり、戦闘の際は安全地帯に戻るまで気を抜かないと言うようなことを注意したり、後は先ほどのガードの甘さを注意していた。
最初の方はしょぼくれながらもちゃんと聞いていたがちょっとしたあたりからだんだん態度が悪くなって言って、後半半分は聞き流されているような気がした。
「セラ、ちゃんと聞いている?」
「うん? うん、聞いてるよ」
「……まぁ、いいか、セラはこういうの無理に言っても聞いてくれなさそうだから」
「うん!」
「いや、そこは元気に返事されても困るんだけどね」
気持ちの切り替えのために小さくため息を吐いてから、マジックバッグからいくつか魔法陣用の薬品を取り出して、テーブルの上に並べていく。
「じゃあ、森で言った通り、いくつか魔法陣用の薬品を渡すから自分のマジックポーチに移していくと良いよ。まぁ、セラの場合、回復薬が最優先だから容量に余裕があればだけどね」
「まぁ、使い勝手のいいのを2つか3つは入れたいと思うけど、おすすめとかは?」
「それくらいなら入るかな、回復薬も基本的には僕の手持ちから使う物で、セラのポーチのは別行動している時とか緊急時のものだし」
セラのマジックポーチはかなり小さく、僕の物に比べてかなり容量が少ない。本人があまり色々と道具を使ったりしないので、動きやすさ重視で小さめの着けているのだ。
高品質の回復薬の瓶が5つと筋力強化と体力強化の薬瓶が1本ずつが入っているはずだ、出先で回収した何かを入れる分を考えても、魔法陣用の薬品2つ3つくらい入れる余裕はあるだろう。
「そうだね、取りあえずは森の中で僕が使ったものは結構いろんな場所で使えるから入れておくのがいいと思う」
「うん、えーっと、どれ?」
まぁ、瓶の外見はほぼ一緒だから分からないか。違いはふたに書いてある僕のメモだけだし。瓶を一つ手に取ってセラに渡す。
「えっと、陣用Bの3って書いてあるけど、これ?」
「ああ、Bは自然環境用のもので、数字は色のことなんだけど、まぁ、数字に関してはあんまり気にしないでそういうものとして見てくれればいいかな、自分用のメモでしかないし」
「うん、分かった」
セラがそれをポーチに入れたのを見てから、薬品の説明や注意点を話す。先ほどまでとは違い、しっかりと話を聞いている。興味のあることについてはそれなりに真面目になってくれるらしい。
いつもとは言わないが、もうちょっと興味のないことも真面目に聞いてくれるようになると嬉しい所ではある。いや、というより、別に聞き流してもいいけど、ある程度は取り繕うくらいは出来るようになってほしくあるというか。僕相手ならともかく、他の人には勇者の威厳的な物が必要になることのほうが多いだろうし。
「まぁ、外で使えるって言っても別にどこでも使えると言うわけじゃなくて、さっき渡した物は、舗装された市街地などでは使えないことも多いから気を付けることと、森の中でも秘匿性を高めるなら場所はある程度選ぶことってことかな」
「えっ、でも、ジョンは決まった時に効果的なところを雑に場所を選んでなかった?」
セラが驚いたようにそんなことを口にする。まぁ、確かにかかりやすいように魔獣が通るであろう場所のなかから、周りに剣を振る際に邪魔になる木々がない場所は選んだけど、ちゃんと隠匿可能な場所は選んだつもりだ。
「いや、あれは一応考えていたよ」
「えー、うっそだー」
「僕はちゃんと魔獣に踏み荒らされた場所を選んだでしょ」
「それはそこが通り道で罠にかかりやすいと思ったからでしょ」
「それもあるけど、後は踏み荒らされて草に土がかかっていてもおかしくない場所を選んだんだよ」
まぁ、余程注意深くないと分からないとはいえ、葉の大きい草がたくさん生えている場所などにそのまま使用したりすると、葉の上に載った泥とかで相手に魔法陣の存在を察せられる可能性がある。その場合は別の方法で隠匿したりも出来るのだが、セラの場合そこまでして罠を張ることなんてなさそうだ。
「注意しないと分からないなら、別にいっか」
「そうだね、セラなら別に相手にばれたところで問題なさそうな気がする」
「でしょー」
「まぁ、半分は褒めているので、その反応は半分だけ正解ということにしておく」
その後、陣用A-2、B-7を一つずつ渡してそれぞれの説明をした。
A-2は市街地など煉瓦で舗装されたところで使う物で、B-7は少し赤目の土が多めに混ぜられた物だ。これらの薬品をセラが本当に使うかどうかは正直怪しい所ではあるのだが、お相手が使う可能性もあるので覚えておいて損はないだろう。
セラに薬品で陣を描くとき用の蓋もしっかりと渡しておいてから、その後は村長のアレックスから呼ばれるまでの間、実践的な魔法陣の隠匿についてあれこれと教えていた。
単独で行動する際に知っているといないとでは対処できるかどうかに大きな差が生まれてくるだろうし、興味のある話題でこの部屋に釘づけにしておかないと宴の準備に加わりに行きそうだったからだ。
アレックスが迎えに来たのは日が沈みだして少しした後だが、その時間までセラをこの部屋の中に留めておくことができた。
「よし、宴にいこっか」
満面の笑みを浮かべて、セラが部屋を出る。念のため使った薬品を補充したポーチを持って、その後を急いでついて行く。
「いやー、どんな料理が出るんだろうね」
「魔核を渡したからそれなりに豪華な料理は出てくるかもしれないけど、王都で出た者に比べるとそこまででもないと思うよ」
「ほら、他にも出し物とか」
「いや、村の宴で出し物っていうほど期待できないと思うんだけど。セラもラフツで何回かは経験あるでしょ、その時も別の特に出し物なんてなかったでしょ」
そこまで長く過ごしたわけではないけど、それでも数年はいたので年一回はする宴の経験はあるはずだが、妙に楽しみにしている様子だ。
出る料理は村で出る中ではかなり豪華だが、王都のそれなりの料理店で出るものに比べても少し落ちるだろうし、村長など一部大人たちが少し喋るくらいで特に出し物なんてないと思うのだが、何を楽しみにしているのだろうか。宴と言っても、結局のところは村ぐるみでの屋外の食事でしかない。終わった後、セラが拗ねないといいんだけど、なんかそわそわしている今のセラを見ていると少し不安だ。
「先に言っておくけど、あんまり期待しないでね。村民でもない僕が言うのもおかしな話ではあるんだけど」
「大丈夫、大丈夫、分かってるって、えへへー」
部屋に戻って、出発の準備でもしておこうかな。今すぐ旅を再開するって言われてもいいように。
一応は一泊すると言ったし、セラも渋々ながら了承はしていたけど、彼女が本気で出て行こうとすれば僕じゃ止められない。備えておくに越したことはないかもしれない。
「ちょっと忘れ物したから部屋に取りに言って来るよ」
「分かったー」
「僕が戻ってくるまで、あんまり村の人を困らせるようなことしないでね」
「そんなことしないってー」
よし、なるべく早く戻って来よう。
早足で部屋に戻り、外に出していた道具などをマジックバッグに仕舞っていく。これで、バッグとポーチさえ持てばいつでも出られるぞ。本当は村に置いておかせてもらう用にいくつか薬などを作っておこうと思ったが、この際仕方ない、作成済みのものを保存箱に移しておいて、これを置かせてもらおう。
少し時間はかかったが、宴が始まってからまだそう時間が経っていないだろうし、たぶん大丈夫だろう。
自分にそう言い聞かせながらも足を動かす速度はやや早めだ。
村の広場に戻ると、村民たちに囲まれているセラの姿があった……一体何をしたんだ。
「えっと、みなさん、なにかありましたか?」
大きめの石に腰を掛けたセラの元まで駆けつけて、周りに声をかけると、視線がこちらの方へ向けられる。
「あ、ジョン、遅かったね、忘れ物ってなんだったの?」
「まぁ、いくつかしまい忘れた調合機が合って、放置するはあれだったからしまっただけだよ」
「そうなんだー」
「それより、セラはなんでみんなに囲まれているんだい?」
「えっとそれはだねー」
「勇者様が魔法で芸を見せてくださると言っていたので、見させていただいていました」
村民にそう言われて、少しだけ安心した。別にやらかしたわけではなかった。
だが、それと同時に、お前が出しものをするのかよ、とも思った。今回に限らずだがセラは勇者という立場が分かっているのかいないのか……、まぁ、再会した最初に比べれば、今の方がセラらしさはあるので、問題さえ起こさなければある程度は好きにしてくれていいとは思うけど。
「よし、じゃあ、光りの玉でジャグリングしちゃうよー」
「おぉ……」
「わぁー、きれーい」
「おねーさん、きよーだね」
「そうでしょ、えへへ」
ぽんぽんと両の手で回していく光球を見て、村の大人たちは驚き、子供たちは目を輝かせた。
アレは実際に掴んで投げて受け止めてを繰り返している訳でなく、光球をコントロールしているので手先の器用さは関係ないわけだが、魔法のことを詳しく知らない村の子供たちから見れば、器用にジャグリングをしているように見えるのだろう。
まぁ、光魔法をあそこまで自在にコントロールしている時点で、相当なものなので着ようと言うのは間違ってはいないと、僕も思いはするけど。
術式からして古代魔法では無く、現代式だ。現実に直接干渉させる古代魔法ならともかく、現代式で光球を作るのは手間だろうし、あんなに自由に動かせるのも、なかなかヤバい。それを複数同時にやっているのだから、割とどうかしているのだが、黙っておこう。どうせ言っても伝わらないだろうし。
セラが楽しそうなので、しばらく好きにさせておいてもいいのだけど、見るところまだ食事に手を付けていなさそうだし、先に何か食べさせることにしよう。このままだと、満足するまでなにかしていてせっかく用意してくれた料理が冷めてしまうだろうし。
僕はいくつかの魔法を手の平に発動させてからセラの後ろに回る。
「はい、見世物は一旦ここまで、料理をいただこうセラ。せっかく作ってくれたんだから冷める前に食べないと失礼だよ」
光球の軌道上に手を置いてそれらを回収するように受け止めてから、両手で挟むように叩く。
パチンッ、高級が弾けて、小さな光の粒となって飛び散って消えていく。
「あっ、ジョン、何するの」
「こうでもしないと、何かしていたでしょ、料理冷めちゃうよ。何かするにしても先に食べるだけ食べよう。セラはどうか知らないけど、僕は結構お腹が空いたよ」
「先にジョンだけでも……は、駄目なんだっけ」
「よし、全部聞き流していたわけじゃないんだね、良く覚えているじゃないか」
部屋での注意は大半聞き流されていると思っていたが、ちゃんと聞いている部分もあったようで少しだけ安心だ。
「ということで、いったん終了、みんなもご飯を食べよう」
セラが立ち上がってそう言うと、子供たちは散って行った。大人たちもそれを追ってこの場から離れていく。
「適当に料理を貰ってこようか」
「そうだね、確かに温かいうちに食べた方が美味しいだろうし」
村長から大きめの皿を受け取って、作った人の話を聞きながら、いくつかの料理を貰ってから、ジャグリングしていたセラが座っていた石の場所まで戻ってきた。
石の端の方に腰を掛けたセラが、皿の上の肉をつまんで口まで運んだ。
「ん、結構おいしい」
「そっか、それは良かった」
どんどんと食べていくのかとも思ったが、セラはこちらをじっと見ている。
なにか用だろうか……ああ、そう言うことか。結構幅も大きいし、この石なら二人でも座れるだろう。隣に腰を掛けて、小さな花が練り込まれたパンを手にする。
パンを食べていると、セラがまたこちらの方へ視線を向けてきていた。
「どうしたの?」
「さっきのはどうやったの?」
「さっきのって?」
「ボクのボールをキャッチしたじゃん」
「ああ、あれね……」
アレは簡単なことだ。セラは光球に実体があるように見せていたから途中で軌道を変えはしないだろうから、通り道に手を置いていただけだ。
そう言うと、セラが不満そうにほっぺを膨らませていた。食べ物を口いっぱいにほ奪ったってわけじゃなさそうだし、それはいいんだけど、何が不満なのだろうか。
「ボクはどうやってキャッチしたかを聞いているんだよ、ボールに実体ないことくらいジョンも分かっているでしょ」
「ああ、それは簡単だよ、というかセラだってあれくらいのことは出来るでしょ」
「そりゃ、出来るけど……ジョンがあんまりにも簡単そうにやるからどうやってるのかなって思って」
「ああ、なるほど……そういうことね」
たぶんセラのことだから難しく考えすぎているのだろう。なまじそれを出来てしまうのだから仕方ないとも言えるのだが。
「僕が使ったのは、一時的に術の権限を奪う魔法。現代式の魔法には効きやすいでしょ」
「それは分かるけど、それだけじゃアレは難しいでしょ」
「まぁ、セラほどコントロールできるわけじゃないし、それはそうだけど、アレをするだけなら簡単だよ、魔法の書き換えと挿入をしただけ」
光源の移動の部分を消して空いた部分に固定の魔法式を挿入した。あとは、もう片方の手に魔法を消去するような魔法を用意して手を叩けば済むって話だ。
説明してあげれば、納得したようにセラは頷いた。言えば理解はしてくれるが、楽に動こうという意識が薄いのか、説明されたこととそれに近しいこと以外は無駄の多いゴリ押しをしがちだ。国で一番の魔法学園を出たって聞いたけど、そこの学習内容は大丈夫なのだろうか。それとも単純にセラにそれをその気がないだけなのだろうか。
「なるほどねー、ボクから完全にコントロール奪ったと思ったけど、そうじゃなかったんだ」
「いや、権限を奪ったのは一瞬で、すぐに返却されたでしょ」
「そうだけど、全然動かせないんだもん、気のせいかと思ったよ」
「まぁ、固定の式を入れたからね、中身を見ればセラもすぐに分かったと思うんだけどね」
「だから、ボクはてっきりジョンはコントロール奪った後、その場に留めて、魔法を消すと同時に別の光魔法を発動させて沢山の光の粒を飛ばしたのかと思ってびっくりしたんだよ、流石は賢者の弟子だなーって」
「いや、それ師匠でも絶対やらないから」
師匠ならやってできないことはないんだろうけど、無駄が多すぎる。僕は……うん、まぁ、時間をかけて下準備をすればやってやれないことはない。そんな得の無いことは絶対にやらないけど。
「それに、セラの言う消去って多分
「じゃあ、どうやったの?」
「まぁ、使ったものが
「じゃあ、光の粒は? あれは最初のボールの数より明らかに多かったと思うけど」
「あれは単純に分割しただけだよ、魔法の分割は分かるでしょ、術の複製と出力低下。正確には複製する際に魔力を使うから出力が下がるだけではあるんだけど、出力が下がればその分早く消えるでしょ、現代式の火魔法とかなら、結構有効な消しかただと思うよ」
現代式の火魔法はその仕様上、範囲だけは広いので、全部消去していたら魔力が勿体ないというかなんというか。
「なるほどね、賢い!」
「いや、セラが全然考えないだけだと思うよ、考えれば出来ると思うんだけど」
そんな風に会話しながら食事をしていると、村長のアレックスが近づいてきた。
「どうでしょうか、料理の方は」
「ええ、美味しくいただいています」
「それは、良かったです」
僕がアレックスと会話していると、セラは皿の上の料理をさっさと食べ終えて、また子供たちに魔法を見せに行ってしまった。まぁ、いいか、変に恐れられるよりは庶民派ってことで……いいのか?
「そういえば、お二人は魔王を倒すために旅をするのでしたよね」
「ええ、そうですね、この村を撤退予定地の一つとして使わせていただくのは、緊急時、逃げる先を複数用意しておきたいからですね。魔族相手ではどうなるのか分かりませんから」
「魔獣をあれ程早く倒して戻ってきたお二人がそう言うのならさぞ恐ろしい相手なのでしょう」
「ええ、魔獣は魔族にとっては、われわれでいうところのモンスターに値すると昔の資料で見たことがありますから、油断はできません」
「……それでなのですが、ジョンソンさん、一つお耳に入れたいことが……」
「話の流れ的に、魔族絡みですか?」
「ええ……」
アレックスの話を聞いたところ、魔獣のことを調べて、急いで戻ってきたアレックスやアランとは別に、念のため街に残った村民が今日の日暮れに帰って来たらしいのだが、最近魔族が現れたという話を街の方で聞いたらしい。その者は魔獣が現れたことと何か関係があるのか、それについて色々聞いて回っていたらしく、そこそこ情報が集まっていた。
「だいぶ先にはなりますが、北西の方角にオーマスという街があったことは知っていますか……」
「ああ、50年ほど前に襲撃されて滅んだという……」
前線以外では、いや、前線を含めても比較的最近滅んだ市街だ。住民の八割は無事だったらしいが、街は復興不可とされて跡地は放棄された。周辺のことを学ぶ際に師匠に聞かされた。一人の魔族の仕業らしいが、師匠やその仲間たちによって、主犯の魔族は討伐されたらしいが、街は酷い惨状だったらしい。
「どうやら、そこで魔族を見たという情報もあったそうです」
「なるほど……ちょっと怪しいけど、その怪しさが逆に信用できるということですね」
アレックスが小さくうなずく。
その町からは森の魔獣を討伐しに来る者がいなかった。なのに、魔族を目撃して無事に帰って来られると言うのは少しおかしい。
魔獣と魔族では根本的に知性が違う。
前線付近ならまだしも、明らかに人間が統治する土地に訪れるほどの魔族ならば、誰かに目撃されてそれに気づかないとは思えない。だとしたら、目撃者が街まで戻って来られたということは、分かっていて見逃されたか、そもそも目撃者などいないかのどちらかである可能性が高い。
もちろん、人間の吐いた嘘の可能性もあるし、それをする理由や目的があるだろう人達にも心当たりがないわけではないだろうが、確率的には五分五分程度だろうと見ている。
「魔族の罠か、あるいは……いや、どちらにせよか……」
「それで、どうしますか?」
「そうですね……もう少しこの村に滞在することにかも知れないです、僕らは明日からオーマスに向かいます。その際厳しいと思ったら転移の魔法陣を使ってこの村へ撤退してくるかもしれません」
「分かりました」
「それで、魔法陣はどのあたりに設置させていただけるのでしょうか」
「それならば、今お二人が使っている部屋などはいかがでしょうか」
「なるほど、村長の家の中なら、管理は大丈夫そうですね、そちらがよろしければ、それでよろしくお願いします」
「分かりました」
さて、今回のことは魔族が絡んでいるのかどうか。もしも、その市街地跡に魔族がいたのなら、魔族との初戦闘となるかもしれない。しかも、そうなったら相手が先にいる分、こちらの方が不利となるだろう。噂が流れるのをよしとしているのか、自ら流したのか、いずれにせよ、そうなっている時点で、こちらが来ても問題がないと考えているどころか、誘っている。
魔族相手ならセラも油断しないだろうから、そこは信頼できるのだが相手の強さが未知数だ。なるべくなら、人間の誰かがついた嘘であってほしいと思う。
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