第25話 タダでは死ぬな!死ぬ前に一矢報いて見せろ!!


  激しく燃え上がる要塞の門が勢いよく開く。

 要塞の門が開くと同時に、激しく燃え上がる要塞から生き残った正規軍の者達が勢いよく飛び出した時、彼らの目に最初に飛び込んで来た光景は、門の中と大差ない地獄絵図だった。

 先遣部隊の大半の者が、魔族部隊の放った火炎弾の雨の餌食となった事で、門の前には多数の火達磨となって地面に転がっている。

 この光景を見れば、先遣部隊が壊滅的な被害を受けている事は、誰の目から見ても明らかだった。


 一方、何とか火炎弾を雨から逃れ、果敢にも敵部隊に突撃を仕掛けた先遣部隊の傭兵達も多くいたが、そんな果敢に敵に挑んだ彼らも、そのほとんどが地面に転がって動く様子すら見せない物言わぬ仏と化している。

 そんな中にも、生き延びて敵部隊と交戦を続ける傭兵達もまだそれなりに存在するのだが、その数僅か100名ほどであり、先遣部隊の戦力はもはや出陣当初の5分の1しか残っていない。

 それに対して魔族部隊は、魔族115名から成る部隊であり、兵の数だけで言えば、生き残った傭兵達と兵の数に大きな差はない。

 だが、人族より個の力で勝る魔族相手に、人族が同じ数を揃えて立ち向かった所で、マトモに相手が出来る訳がなかった。

 その証拠に、魔族部隊で現在戦闘に参加している者はたったの20名だけであり、傭兵100名は敵の総軍の五分の一以下の戦力に、一方的に蹂躙されていた。


 「ほ~ら、ほ~ら!

 足元気にしてないと、そこで寝転がってるお仲間みたいになっちゃうわよ~?」

 傭兵達に挑発的な態度をとっているのは、美しい女性のような外見のドライアドの女戦士だった。

 ドライアドの女戦士は、傭兵達の下半身目掛けて無数に伸びる木の根のような足を伸ばし、傭兵達の下半身に自分の足を絡ませて、傭兵達の動きを封じようとしていた。


 「また来るぞ!」

 傭兵達はドライアド族の根のような足に捕まらないように足を常に動かし、ドライアドの木の根のような足に捕まりそうになれば、武器を使い木の根のような足を切断して抵抗を続けている。


 「ッう!痛いじゃないの!

 レディの足を平然と切り裂くなんて、人族は野蛮な男しかいないのかしら!」

 か弱い仕草をしつつ自分の足が着られた事に対して、傭兵達に避難の言葉をドライアドの女戦士は浴びせつつ、ドライアド族の女戦士は痛がる様子を見せる。

 だがその言動とは裏腹に、切られた木の根のような足は次々と再生しているし、切られて本当に痛みを感じている割には、攻撃の手を一切緩める様子はなかった。


 「クッソ!切っても切ってもスグに再生しやがる」

 ドライアドの簡単に再生する足に対して、忌々しい表情を見せる傭兵達。

 ちなみにドライアドとは、人のような上半身と木の根のような下半身を持った魔族であり、植物の根のような下半身は、高い伸縮性を持つと同時に、植物以上の再生力を有した特徴を持つ魔族であった。


 「痛みなんて感じてないくせに、大げさに痛がりやがって!

 いくら仲間とは言え、バレバレの嘘を間近で見せられれると、虫唾が走るな」

 ドライアドの女戦士の言動を隣で貶すのは、ミノタウロスと呼ばれる人族のような二足歩行の体に、牛の頭を被せたような魔族の戦士だった。

 ミノタウロスは人より遥かに優れた身体能力を持っており、特に腕力が優れた種族である。

 その優れた腕力を示すかの如く、ミノタウロスの戦士の両手には、強引に引きちぎって血まみれとなった傭兵の頭が握られている。


 「ゴズンったら酷い事言うのね?私、泣いてしまいそう」

 そう言ってドライアドの女戦士は、両手で顔を覆って泣いている仕草をとった。それも見たゴズンと呼ばれるミノタウロスの戦士は


 「いい加減にしろモクメ!戦闘中だぞ」

 どうやらゴズンは、戦闘中にふざけた態度をとっているモクメに対して苛立ちを感じているようだった。

 モクメの態度に対して苛立ちを隠せないゴズンは、その鬱憤を晴らすかの如く両手にそれぞれ鷲摑みにした傭兵の頭を、傭兵達目掛けて投げつけるが、ゴズンが投げた生首は、傭兵に当たる事はなかった。


 「クソ!躱しやがって」


 「馬鹿力はあっても、投げつける精度は相変わらず残念な精度ね。

 そんな事よりちょっとは私の事心配してくれてもいいんじゃない?実際切られるとほんのちょっとだけチクってするのよ」

 モクメはゴズンに対して自分に対する扱いを不満げに口にするが、その事に対してゴズンは更なる苛立ちを感じたようで、二人は敵が目前に居ると言うにのに、平然と口喧嘩を始める。

 

 「舐めやがって…」

 先遣部隊の隊長が悔しそうに答える。

 先程からこの調子で傭兵達は、二人の魔族の攻撃により確実に仲間を減らされているというのに、先程から目の前で戦闘している二人の魔族は、自分達がまだ戦っている最中だというのに、平然と余所見をしながら口論を繰り広げているのだ。

 そんな事を平然と目のまでやられる先遣部隊の隊長の苛立ちと悔しさは、相当な物であろう。


 しかし実際の所、この二人の魔族の連帯はかなり厄介な物であった。

 まずモクメが、足止めとなる攻撃を仕掛け、その攻撃で足止めを喰らった者や、隙を晒した者をゴズンが確実に仕留めて敵の数を確実に減らす。

 一見単純な連係攻撃に見えるが、魔族より基本身体能力が大きく劣っている人族からしたら、この単純な連係攻撃すら、十分過ぎるほど脅威の連係攻撃となるのだ。

 実際この二人魔族以外にも、現在抗戦している魔族部隊の者達は、組んだ相手によって多種多様な連係攻撃を仕掛ける事で、魔族部隊の者達は、次々と生き残った先遣部隊の者達を一方的に蹂躙しているのだ。

 この連係攻撃を突破する事も、崩す事が出来ない傭兵達は、確実に戦力を消耗させられているのだった。

 そしてその光景を遠くから観察する者達がいた。


 「我が部隊に戦闘を仕掛けて来た敵の数も、大分減って来たな。

 残りは80人程度っと言った所か?」

 戦闘が起きている場所から僅かに離れた場所で、戦況を観察しているのは魔族部隊の隊長だった。


 「最初から外に出てた奴らの生き残りはそれ位の数まで減ったかな…いや、待て。

 今から出て来るぞ。本命が!」

 魔族部隊の隊長の隣に立つ魔族が、燃え上がる砦から飛び出てきた人族の正規軍を見つける。

 砦から飛び出して来た正規軍は、その勢いを止める事無く、もはや全滅一歩手前と言えるまで数を減らした先遣部隊の元に向かう。

 そう、生き残った者達で力を合わせて魔族部隊を打つために。

 そして正規軍が現れた事に反応するかの如く、この戦闘が開始してからずっと座り込んでいた一人魔族の男が、ゆらりと立ち上がる。


 「ザクロ。お前が出るのか?」

 魔族の隊長にザクロと呼ばれたのは魔族の男は、デミーマと呼ばれる種の魔族だった。

 ザクロが戦闘に参加すべく歩き出した事が、以外だと言わんばかりの様子を魔族部隊の隊長は見せる。


 「ああ。この部隊が結成されてから今まで一度も戦闘に参加していなかったからそろそろ参加してやろうと思ってな。

 いい加減体を動かしとかないと、そろそろ体が鈍り過ぎて、いい加減腐りそうな気がしてきた。

 それにあの中には、俺のアロンダイトの試し切りの相手になりそうな腕を持った奴が、何人がいそうだしな」

 そう言った後ザクロは、自分の足元に置いていた赤い剣を拾いあげると、背中に赤い剣を背負うと、戦闘が発生している場所にゆっくりと向かい出す。


 「ザクロが出るか…この戦相手には気の毒だが、より一方的な展開となって予定より更に早く終わりそうだな」

 魔族部隊の隊長は、ザクロと呼んだ剣士がこの戦に参加する事で、これから敵に起こりえる事を考える。

 その事を考えると、幾ら人族が憎むべき戦争相手であるとは言え、敵である人族軍の事が少しだけ気の毒だと魔族部隊の隊長は考える。なぜなら今から戦闘に参加しようとしているザクロという剣士の実力は、この部隊最強の剣士なのだ。

 現状こちらが圧勝している戦況であるというのに、そこにこの部隊最強候補の一角であるあの男が加わるという事を考れば、いくら敵対する相手であっても、多少は同情の念が生まれたようだ。


 「いま戦闘に参加している奴らに伝えろ。

 『今からザクロが参戦する。お前等獲物を横取りされないように気を付けろろよ!』とな。

 …もっともこんな事言った所で、ザクロに得物を横取りされたと言って一悶着起きるのは、避けられなさそうだがな…」

 そう言って、魔族部隊の隊長は大きなため息をついた後、再び戦況の観察を始める。



 一方、敵陣に突撃を開始した正規軍から構成される防衛部隊の本隊は、直ぐに先遣隊の生き残りと合流すると、生き残った先遣隊の者達の前に出て戦闘を開始する。


 「今まで良く持ちこたえてくれた事に礼を言う!しかしお前達もこのまま奴らにやらっれぱなしでは癪であろう?

 我々が来たのだから、今度は此方が魔族共を攻め立て、お前達が味わった屈辱を奴らにも味あわせ、奴ら魔族に一矢報いてやろうぞ!」

 タルクウィーニオ少将は高らかに先遣部隊の生き残り達に向かって叫ぶ。

 その言葉を聞いた傭兵達は、先程まで敵に確実に追い詰められ続け、すっかり絶望に染まって完全に折れる一歩手前の心に、熱い灯が再び宿る感覚を感じた。

 例え心の何処かで、相手の力が強大でこのまま戦い続けても決して敵わぬ相手だと完全に理解しているにも関わらず、タルクウィーニオ少将の言葉で絶望に染まりきっていた傭兵達の心に、新たな闘志の火が宿ったのだ。


 「へッ―このまま無様にやられて終わりかと思ったけど、もうちょっと生きられそうな気がしてきましたよ。タルクウィーニオ少将殿!」

 消えかけた闘志に再び火が付いたのと同時に、この先の展開を既に悟っている先遣部隊隊長は、普段決して自分より目上の人物に言う事がない皮肉めいた言葉を発するが、タルクウィーニオにはその事に対して一切咎める様子を見せなかった。


 「もうちょっと?ふざけるでない。

 『可能な限り生き残り、一人でも多くの敵を殲滅してみせよ!』

 分かったか!ベネデット先遣部隊隊長!!」


 「へーいへい。とんでもない無茶をいってくれますねぇ少将殿は」

 ベネデットは上官の無茶振りに対して、無茶を言うなよ!っと言わんばかりの態度を示した後、生き残った傭兵達に向かって大声で叫んだ。


 「おい、お前ら!お前等だってこのままやられっぱなしってのは、やっぱろ性に合わねぇよな?

 だったら今からでも遅くねぇ。魔族の奴らに傭兵の意地ってのを見せて、一人でも多く地獄に送ってやろうじゃねぇか!」

 ベネデットが最期に飛ばした激を受けた傭兵達は更なる盛り上がりを見せ、雄叫びをあげながら再び魔族部隊と戦闘を再開する。

 こうして十分士気の高まった第二中央防衛線防衛部隊の生き残り550名は、魔族部隊と最後の戦闘を開始したのであった。

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 異邦の妃と帝 -Romancing History- 黒本 常化 @th753

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