第24話 燃える第二中央防衛線


  魔族の軍勢が作り出した多数の火炎弾が、次々と防衛部隊と砦に向かって降り注ぐ。


 「敵の攻撃が飛んでくるぞ!各員散開し、攻撃を避けろぉ!」

 既に出陣済みであった先遣部隊は、先遣部隊長の指示通り素早く角印散開を開始。

 降り注ぐ火炎弾に対して回避や防御といった防衛行為をとる事で、各々対処しようとする。

 だが、雨あられの如く降り注ぐ火炎弾を、先遣部隊全員が躱し防ぐ事など到底出来ず、火炎弾を躱せなかった者や、防ぎきれなかった者は、次々と降り注ぐ火炎弾の餌食となり、その身を劫火で焼かれる事となる。


 火炎弾の餌食となり、その身を業火に晒さた者達の末路は、息絶えるまで悶え苦しむその姿は、まさに地獄絵図と呼ぶにふさわしい光景だった。

 目の前で地獄絵図を目の当たりにしてしまった傭兵の中には、恐れをなした事で及び腰となりった事で足の動きが鈍り、その結果更に火炎弾の餌食となる者が増える悪循環が始まる。

 そしてここにも、目の前で繰り広げられる地獄絵図に恐れをなしてしまった事で、足の動きが止まってしまった者が一人。

 恐怖で思うように足が思うように動かせない彼は、己に向かって落ちてくる火炎弾を避ける事が遅れる。

 間一髪で避けた事で直撃こそしなかったものの、その結果火炎弾が間近で着弾した事で発生した衝撃をモロに受け、男は派手に吹き飛ばされる。


 派手に吹き飛ばされ、地面に無様に転がる男は、昨日今日とベーオウルフに難癖付ける事で、ベーオウルフを戦場から遠ざけようとしていた不器用なエルフの男だった。

 この男も実戦に何度か参加し、命のやり取りを経験している以上、戦でその身も心も鍛えられた者の一人であった。

 そんな実戦経験で心身共に鍛えられた傭兵であっても、自軍の圧倒的な火力を持った新兵器を無力化し、防衛部隊が反撃不可能な距離から一方的に魔法による制圧攻撃にて、あっという間に傭兵部隊の仲間達を次々と火達磨変え、今まで見た事のない地獄絵図作り出されれば、幾ら実戦で鍛え上げられた傭兵といえど、その心は恐怖と絶望によって折れる寸前まで追い詰められていた。


 吹き飛ばされた衝撃で、地面にを転がっていたエルフの男は、何とか立ち上がるべく顔を上げる。

 しかし顔を上げた先は無常かつ非情であり、エルフの男の目前には、新たな火炎弾が降り注ごうとしていた。

 目の前に迫る死の恐怖に怯えてガタガタと震えるエルフ族の傭兵に火炎弾が直撃しようとした瞬間。

 誰かがその傭兵を蹴り飛ばし、降り注ぐ火炎弾からエルフの男を救った。

 蹴り飛ばされ地面を転がされたエルフの男は、思いっ切り蹴り飛ばされた個所に痛みを感じつつ、自分を蹴り飛ばす荒っぽい奴が誰なのか確認しようと再び顔を上げると、言葉を失った。

 なぜなら、己を蹴り飛ばして火炎弾から救った男が、昨日今日と自分が戦場から遠ざけようとして罵ったベーオウルフと呼ばれる新米の傭兵だったからだ。


 そして恐怖でロクに動くことが出来なっていた傭兵を、ベーオウルフが庇った事で、ベーオウルフは火炎弾の直撃を受けた結果。火達磨となって地面に転がっている。

 

 (最悪だ…戦場から遠ざけようと罵ったヤツに助けられて、俺はおめおめと生きているだと?)

 言葉を失い目の前で起きた現実を唖然と見続けるエルフの男。

 だが唖然と見ていた傭兵の顔は徐々に苛立ちと悔しさと怒りよって鬼気迫る表情へと変化し、地面に寝転がっていた傭兵は力強く立ち上がった。

 そして敵陣を激しく睨みつけると、そのまま敵陣に向かって走り出す。


 「胸糞悪い死に方しやがって!あのクソ野郎!!

 このまま何もしないで黙って俺が殺されるとか、ますます俺の胸糞悪くなるだろうが!

 これだから勢いだけで行動するアホは嫌いなんだよぉ」

 エルフ族の男は胸に秘めた怒りを大声で叫び、自分の胸の内を明かす。

 戦場で遠ざけるべきと思った命に命を救われたという事実が許せない怒り。敵の攻撃に怖じ気付いてしまった己の不甲斐なさに感じた怒り。

 その二つの怒りが、先程まで己を支配し、動きを鈍らせていた恐怖を完全に跳ねのけたのだ。

 エルフの男は、その身に怒りを宿して敵陣に突撃すると、エルフの男は魔族部隊の前衛であり、自分達が圧倒的に有利だと思ったのか、調子に乗って前に出ていたオークに向けて全力を込めた一撃を放つ。


 「俺は…俺はもうお前らに臆する事はないと思え!

 一人でも多く殺してやる!覚悟しろ!

 エルフの男の鬼気迫る勢いに気圧された事で反応が遅れたオークは、エルフの男の一撃を防ぎきる事が出来ず、そのまま切り伏せられる。

 鬼気迫る勢いてオークを切り伏せたエルフの男の姿に触発された傭兵達は、彼に続いて火炎弾が降り注ぎ続ける大地を全力で駆け抜け、敵陣へと次々と突撃を開始した。



 一方、火炎弾が降り注いだ先は先遣部隊だけではなかった。防衛線上に聳え立つ要塞にも、大量の火炎弾が降り注いでいたのだ。

 防衛要塞を火の海にはさせまい!と火炎弾を防ぐべく、砦に配置された魔導士達は持てる全ての力を持って魔法による防御壁を展開し、次々と降り注いで来る火炎弾から砦を守ろうと試みる。

 しかし魔導士達が展開した防御壁は、火炎弾を何発か防ぐ事はできても、絶える事無く次々と降り注ぐ火炎弾の防ぎ続けるには至らず、遂に降り注ぎ続ける火炎弾の勢いを抑える事が出来なくなった魔法防壁は限界を迎え、要塞を護る防御壁は次々と打ち破られる。

 そして進路を遮るモノが無くなった火炎弾は、容赦なく次々と防衛要塞に降り注ぐ。。


 火炎弾が次々と要塞に降り注いだ事で、要塞内は一瞬にして火の海と化した。

 要塞内で燃え広がった炎は、要塞の防衛に当たる兵士達や、鳴り物入りで導入された新兵器。そして新兵器の関係者達といったありとあらゆるモノを次々と焼き尽くすべく、火の海の範囲を瞬く間に広げ炎の海と化していく。


 「よし、魔法部隊は攻撃を停止しろ。

 もうこれであの砦も人族の新兵器も使いモノになるまい!」

 魔族部隊の隊長は魔導部隊に火炎弾による攻撃を中止させる。

 

 「後は燃え上がった巣から、飛び出て来た生き残り狩って終わりだ」

 燃え上がる砦を見ながらそう言った魔族部隊の隊長は、自軍の勝利を確信しているようだった。


 防衛要塞に火炎弾による攻撃が止んだが、要塞内は既に十分過ぎる程炎が燃え広がった結果。要塞内はもはや壊滅状だった。

何とか降り注ぐ火炎弾と、燃え広がる炎の海にその身を焼かれる事なく生き残った者達の殆どは、絶望の面持ちをしながら、炎の海の被害が少ない要塞の門の前に集まっていた。


 「生き残った者達はこれだけか…恐らく500名にも満たないだろうな」

 タルクウィーニオ少将は現状で残った兵力を口にした。


 「敵の攻撃を受けて10分もしないで砦は陥落し、砦内に残った兵力の三分の二を失ったという事ですか…

 おまけに退路も火の手が回って完全に断たれているこの状況。悪夢であるなら今すぐにでも覚めてほしいと願いたくなる状況ですな」

 アレッサンドロ大尉は現在の最悪な被害状況の更なる詳細を、タルクウィーニオ少将に伝える。


 「…認めたくはないが、魔族が連帯と連係を駆使した戦術にしてやられるとは夢にも思ってもいなかったな」


 「屈強な兵士が集まっている東部第一防衛要塞が、短時間で攻略された理由が、ようやく分かりましたね」


 「そうだな…だかな!だからと言って我々は尻尾を巻いて逃げる訳にはいかないのだ。

 もはや我らに残された道は一つだけ!

 早馬に乗せた伝令をこの戦場から速やかに離脱させ、この状況を王都に知らせるのだ」


 「つまり我々は、伝令が戦線を離脱するまでの囮となって死ねという訳ですか?」

 アレッサンドロ大尉は皮肉っぽく言った。

 アレッサンドロ大尉の言葉に対してタルクウィーニオ少将は”フッ”っと一瞬あざ笑うような表情を見せるが、過ぎに鬼のような形相をとると大声で次の言葉を発する。

 

 「そうだ!私は終え達に死ねと今から命令する。しかしだ。タダの囮となって死ぬ事は一切許さんぞ!

 一人でも多くの敵の首を打ち取り、出来るだけ多くの敵を道連れにしてから死ね!

 このまま何もせずして死ぬなど生き恥も良い所だ!

 いくら敵が圧倒的な力を持った魔族であろうが関係ない。追い詰められた我らの人持つ底力の恐ろしさを、魔族連中に教えてやるのだ!」

 鬼気迫るタルクウィーニオ少将の表情から放たれた言葉を聞いて、絶望の表情に染まった兵士達の表情は、覚悟の決まった者の顔つきへと表情が変化する。


 「フッ…お前達少しはマシな顔つきになったきたではないか!いいか、良く聞け!

 これより第二中央防衛部隊は、最後の突撃を開始する。

 先程タルクウィーニオ少将の言った通り、調子に乗っている魔族共に、我らの底力見せてやろうではないか!

 少将の言う通り時間稼ぎだからと言って決してタダでは死んでやるな。一人でも多くの敵を道連れにしてやろうぞ!」

 続いてアレッサンドロ大尉が更なる激を飛ばした事で、生き残った兵士たちの顔は闘志に満ち溢れた顔へと変貌する。


 「覚悟は決まったようだな。では行くぞ!

 これより第二中央防衛部隊は、最後の突撃を開始する!

 者共、私に続け!!」

 タルクウィーニオ少将の合図によって、燃え盛る砦の門は開かれた。

 そして開かれた門から烈火の如き勢いで飛び出した第二中央防衛部隊は、最後の特攻を仕掛けるのであった。

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