第5話 恋のはじまり

「いやあ。彼女なんているわけないじゃん。てか俺、恋愛とか興味ないし。」



え?



「この前まではバドミントンにしか興味なかったから。今はもう、受験のことで頭いっぱいだし。」




嘘をつくな。


そんなはずがない。


言え。


言ってくれ。


私を好きだと___



でも彼の口調に嘘は無くて、本当に恋なんて興味ないんだろうなって


そう分かったとき、私は、訳も分からず逃げ出していた。


「咲希!?」


由衣が叫んだのを無視して、私は走った。

行く先なんて考えずに、ただ、ただ走った。






好きだって聞いたから、彼を知った。

好きだって聞いたから、彼を意識した。

好きだって聞いたから、私は恋に落ちた。



全部、全部、

私を好きだと言ったから。










祭りを出て、人のいない路地裏に座り込んだ。


シャツが汗で重くなるのを感じる。

浴衣で来なくて、良かった。



並ぶ一軒家の隙間に輝く星。

彼のことを想う。


何だったんだろう。私の気持ちは。


勝手に意識して、勘違いして、恋に落ちて。


「情けないな、本当に。」


空が滲んでくる。


泣きたくない。

泣いてたまるか。


泣いて__


「咲希!!」


薄暗い路地裏に、叫び声が響いた。


振り向いたら、由衣が立っていた。



「まだ終わってないよ。」


中学に入って、毎日一緒に過ごしてきたのに、こんな真剣な彼女は初めて見た。


「確かに沖田は咲希のことを好きじゃなかったかもしれない。でもさ、別に咲希が振られた訳じゃないじゃん!」


息を切らしながら、彼女は言った。


「絶対に負けない恋なんてないよ!みんな怖くて、でも好きだから、勇気を出して想いを告げるんだよ。」


走ったせいか、かわいいピンクの浴衣は形が崩れ、せっかく留めた髪もぼさぼさになっている。


でも、その時の彼女は、今までで一番、きれいに見えた。


「咲希の本当の恋は、これからだよ。」


絶対に負けない恋愛だなんて、何て自惚れだろう。


「私のことを好きな彼」ではなく、「沖田拓海」に純粋に恋をする。


そのスタートラインに、やっと私は立ったんだ。


滲んでいた視界が、晴れていく。



私はもう、迷わない。


「ごめん、由衣。ありがとう。」


「うん。頑張ろ、咲希。」


「でも私、沖田のこと好きなんて言ったことないよ。なんで分かったの?」


そう聞くと、由衣はニヤっと笑って言った。




「伊達に恋してないですよ。」




この子には敵わないなあ。

心から、そう思った。

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私を好きだと言ったから 木林森 @mori_07_cp

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