第4話 夏祭りで
七月は、何もしないまま去って行った。
流石にこのままじゃいけない、そんな焦りがを感じて、私は由衣を夏祭りに誘った。
「咲希ー。久しぶりー。」
集合場所に着くと、浴衣に身を包んだ由衣が見えた。
私も着てくればよかったかな、と少しだけ思う。
「十日会ってないだけじゃん。」
そう言いながらも、私は由衣に会えて嬉しかった。
「てか、彼氏はいいの?私と来て大丈夫?」
「あー、いいの。一輝とは明日来るから。」
「私との夏祭りは下見かよ。」
祭りは二日間開催される。
由衣は、初日は私と周り、二日目は彼氏と来るつもりらしかった。
「いいから行こ。ウチ、りんご飴食べたい。」
ピンクの浴衣を着た由衣と、タンスの1番上にあったシャツを引っ張り出して着ている私は、なんだか釣り合っていない気もしたけど、時間が経つとそんなことも忘れ、お祭りに夢中になっていた。
「疲れたあ。やっぱ下駄って歩きにくいなあ。」
歩き回って疲れたのか、由衣がベンチに座り込んだ。
私も隣に座る。
横に見えるわたあめの屋台には、小学生が並んでいる。
目を引いたのは、一人だけ混ざっている、背の高い、黒い浴衣を着た男子――
彼だった。
「ねえ咲希、あれって沖田だよね。」
由衣も気づいたらしい。
そうだ。沖田拓海、一か月追い続けた彼だ。
私が頷くと、何を思ったか、彼女は立ちあがり、彼の方へ向かっていった。
「ちょっと由衣、待って!」
私の静止を振り切り、由衣は彼に話しかける。
「沖田くんだよね?」
彼は、驚いたようにこっちを見た。
「ああ、クラスの。」
一か月追い続けた彼が、今、目の前にいる。
やっぱり浴衣、着てくればよかったな。
心臓が飛び出そうになるのを抑え、なんとかして気持ちを落ち着かせる。
落ち着け、私。彼だって緊張しているはずだ。
だって彼は私のことが___
「沖田くん、ひとり?」
由衣が尋ねる。
「いや、弟と来た。今は疲れて休んでるから、わたあめ買ってやろうって思って。」
「へー。沖田くんモテそうだから、彼女と来てるのかと思った。」
嘘つき。
モテそうなんて、思ったこともない癖に。
心の中で毒づくと同時に、由衣の狙いに気づいた。
彼の恋愛事情を、探ろうとしてるんだ。
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