絵の具を以て

智依四羽

絵の具を以て

絵の具を以て、何を描こうか。

果てなく広がる水色の空?

遠くにそびえる緑の山?

近くに生えた茶色の木?

棚に置かれた紫の葡萄?


絵の具を以て、何を描こうか。

飲み込まれるような紺色の夜空?

ポツンと輝く黄色の月?

風に揺れる白いカーテン?

手元を照らす薄暗い橙色の灯火?


絵の具を以て、何を描こうか。

ヒラヒラと舞う春の桜?

もくもくと浮かぶ夏の雲?

枯葉を巻き込む秋の風?

静かに降り続ける冬の雪?


絵の具を以て、何を描こうか。

そう考えたとて、描けるものは限られる。

病床とこに伏せる私は、視界が狭いのだ。

窓枠よりも下は、見えないし、分からない。

そんな私に描けるのは、上か、手、くらい。


絵の具を以て、何を描こうか。

嗚呼、こんなにも鮮やかなのか。

春夏秋冬のどれよりも美しい。

私は、漸く描きたいものを見つけた。

それは、掌に付着した、自らの吐血だった。


絵の具を以て、何を描こうか。

もう少しで、見える景色が変わるのか。

もっと、描きたいものが見つかるのか。


絵の具を以て、何を描いたのか。

それは来世に期待する、殴り描きだった。


次は、何を描けるのだろうか。

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絵の具を以て 智依四羽 @ZO-KALAR

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