第14話




「「ファイア!」」


 二人同時に、火の初級魔法を相手に向けて放ち、横に跳ぶ。


 先ほどまで、二人がいた場所に火が上がる。


 ――やっぱり、似過ぎている。


 ノーマンとフーゴ、二人ともにそう思う。


 黒髪黒目、ヒョロガリとコレロに言われた体型、黒縁眼鏡と銀縁眼鏡、そういった見た目の話ではない。


「「ウォータル」」


 水の中級魔法が、二人の右手から放射され、ぶつかる。


 魔力量も魔法も、凡ではないが優には届かない。しかし確実に秀ではある。肉体的に恵まれていない。元々、強さを求められてもいない。ノーマンは生徒会長としての実務能力と判断力、フーゴは戦術考案と生き字引きとしての能力を買われている。


 水流の放射が弱まったかと思えば、互いに左手でナイフを投げてサイドステップ。ノーマンのナイフは直線的に投げられ、フーゴは視界から外れるように放物線を描いた。


 ――戦術も、同じところへ辿り着きましたか。


 力量は同じ程度、戦いに向かないこと、頭脳のレベルも同じ程度なのだろう。相手の魔装を削るのは、火が効果的だ。開幕の油断や固さがあるのならば、期待値は高い。代わりに己の硬直や油断で被弾しないよう、すぐに避ける。


 しかし、フーゴは笑った。


 ――僕には、勝つために思考を重ねた自信がある。




『向かない』というのは、魔法が優れていないからでも、恵まれていないからでもない。関係がない。


 相手を傷つけることへの恐れ、己が傷つくことの恐れ、それによる過度の緊張と判断の鈍化。その影響の強弱が、人によって違う。その影響が強い者を、フーゴは『向かない』と判断する。


 己も含めて、だ。相手が至近距離で拳を振り上げていると、緊張でいつも以上に体が動かない。脚を使って避けるにも腕を使って受けるにも、その脚と腕も動かない。目を瞑ってしまうことさえある。


 己が腹へ届く距離でナイフを握っていると、緊張で素早く刺せない。真っ直ぐにナイフを出せない。優しいとか、人格の良し悪しとは言わない。向かない者はそれぞれの理由で『向かない』のだ。


 フーゴはこの一週間で、ノーマンの実戦試験の相手になったことがある者、試験を見たことがある者に聞いて回っていた。


 勝った試合は、すべて遠距離の魔法で勝ち、負けた試合のほとんどは至近距離で打撃や斬撃を受けて魔装を削られていた。


 魔力で己を守る魔装は、魔法や物理攻撃を受けて削られていく。魔力量が多い者ほど、強く多い魔装を持つ。十分な魔装を持つ者は、易々と攻撃を受けない自信から『向いている』者になりやすいだろう。しかし、フーゴやノーマンのように元々恵まれていない者は戦いに『向かない』ようになりやすい。


 生徒会長ノーマンが『向かない』のは、己が同じだからこそ判った。


 学園に入学してからすぐに、フォール王子達五人の仲間でフーゴだけが『向かない』と己で理解できてしまった。だからこそ、勝つために思考を重ねた。


『向かない』己で、出来るだけ勝つ方法。同じように『向かない』人間に必ず勝つことだと結論付けた。


 侯爵家の二人、エーリとアンナは魔法こそ強いものの『向かない』人間だった。だからこそ、決闘への参戦を期待した。




 フーゴは、水流で目隠しした状況でノーマンの意識をナイフへと向けさせ、サイドステップから真っすぐに踏み込んで、左腕を顔の前に置いて前へ走った。右手にはナイフを握っている。


 向かない人間である己にとって、至近距離に行くことは恐怖である。しかし、相手が同様に向かない人間で、自分から行くのであれば有利になる。ノーマンの扱える属性は火と水だ。つまり、水魔法を付与した左腕を前に出しておけば、そうそう魔装は削られない。


 二人の放った水流は途絶えて視界が開けば、フーゴがさっきまでいた場所に右手をかざしているノーマンがいた。距離にして、あと三歩。驚いたようにこちらに右手を向ける。


 近づいた後の動きを決めていたフーゴは、勝利を確信しながらさらに踏み込む。半歩まで近づき、予定していた通りの動き。


 ノーマンの右手に左腕を押し当て、右手のナイフをノーマンの腹部へと前後させて滅多刺しにした。



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