第8話




 金髪の生徒は、男子生徒の制服を着て堂々とした立ち姿で凛としている。横に立つ公爵令嬢の女性らしい立ち姿と対照的に、男性らしさを感じるものだった。顔立ちもキリとしている。


 しかし、よくよく見ると長身の体のヒップラインから、女性なのだとわかる。金髪も女性にしては短いが、サラサラとして細い。


「公爵令嬢には、借りがある。……それを返すまでさ」


 生徒会長の問いに、聖騎士候補と呼ばれた彼女――ウラヌス・セーラムは短く応える。


「……ふぅん?」


「何だい」


「意外だなって。生徒会や役職はおろか、あんまり生徒と関わってはいなかったのに」


 それ以上話すつもりはないとでも言うように、横を向いた。




「……要らん」


 耳打ちしてまた情報を伝えようとしたフーゴを、フォール王子は苛立たしいように制す。


 フーゴの動きは、焦っているように速い。


 王子陣営でなくとも、聖騎士候補ウラヌス・セーラムの強さを学園で知らない者はいない。光魔力以外の全属性の魔法を使える天才であり、光の魔力を扱うことも出来る。光魔法を使えるのは聖女のリリィ・スワネルだけだが、光魔力を剣に乗せることが出来るのは、彼女だけだ。


 ――そんな! ウラヌス様!


 女子生徒の誰かが、悲鳴のような声を上げた。数人の生徒がその声に続く。


 王子は群を抜いているが、宰相の子も辺境伯の子も剣聖の子も、公爵家の弟も女性人気は高い。それでも学園での女子生徒の人気のツートップを挙げるなら、フォール王子と聖騎士候補ウラヌス・セーラムになる。


 女性ながら、だ。一部の生徒からは「王子よりも王子様」と呼ばれ、それを知っている王子の心中は穏やかではない。


 そんな彼女が敗軍に参加しようとしていることが、嫌なのだろう。


 強さについては、なおのことだ。王子陣営は、学園最強の五人と言われている。しかし、彼女は学生の身でありながら正規軍にも従軍している。別格とされているのだ。さすがに五人の誰も、勝利の確信を得られない。


 ――最善は四つの不戦勝。次点で全員の圧倒的な勝利を演出したかったのですが……。


 フーゴは、今度ははっきりと渋面を晒した。勝てはするだろうが、一戦は間違いなく苦戦することになる。


「……彼女は、僕が行きましょう」


 フーゴは少しずり落ちた銀縁眼鏡を上げて、難敵を引き受けようとしたが、


「いいや、俺がやる! アイツとはいつかやってみたかったんだ!」


とコレロが気を吐く。


 生徒達に別格とされてはいるが、コレロは己が負けているとは思っていない。むしろ、今のようにはっきりと勝敗を決する機会を望んでいた。


 しかし。


「イザーク、お前が行け」


 王子が決めた。コレロは食い下がろうとしたが、苛立つ王子を見て引いた。このお調子者も、おちゃらけるべきでないところは見分ける。


「なら――」


「姉さんは、僕が戦います。身内の恥は、身内で雪ぎます」


 言うが早いか、公爵家の青髪エトスが先取する。筋が通っているだけに、ここも覆せない。むしゃくしゃした様子を晒しながら、不名誉な戦いは避けたいと、コレロは珍しく頭をフル回転させる。


「――っ! そこのお前、赤髪坊主! お前が俺とだ!」


 お前も赤髪だろうと王子陣営は全員が思ったが、黙っておいた。


 残るは、小柄の生徒会長と、大柄の生徒会庶務だけだった。人に見られる試合なら、少しでも強敵と戦いたかったのだ。小柄の黒縁眼鏡を公衆の面前で倒すなど、コレロにとっては不名誉なことだった。


「フーゴと生徒会長で眼鏡対決! 俺と赤髪坊主が次鋒! 中堅がイザークと聖騎士女! 副将でエトスと悪徳令嬢の姉弟対決で、こっちの大将が王子でそっちが空白! それでいいだろ!」


 焦って頭を必死に使ったからか、コレロの割には順当な組み合わせを出した。


 観客の盛り上がりを考えても、これが納得できるということは生徒達の歓声でわかった。


 王子達は、互いにアイコンタクトで頷いた。




    先鋒  フーゴ・パントロン VS ノーマン・ネイル


    次鋒  コレロ・モシャル VS アラン・キーファカ


    中堅  イザーク・マリネ VS ウラヌス・セーラム


    副将  エトス・ヴェロ・クオーレ VS ヴェリート・ヴェロ・クオーレ


    大将  フォール・アレキス・メロ・アンダウィル VS 未定




 公爵令嬢側の実質的な大将である、ヴェリート・ヴェロ・クオーレは、壇上からの五人の視線に無表情のまま、静かに頷いた。


 ここに、リリィ・スワネルとヴェリート・ヴェロ・クオーレの決闘内容が決まった。


 ――決闘は、一週間後だ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る