第22話 あたしだって!
22.あたしだって!
「まったく、ここに来るまで、どんだけ日数かかってるのよ!」
なにやら聞き覚えのある声だ。
あっ、隠れなきゃ!
「誰なんです?」
「僕が前にいた勇者パーティです。ほら、ポリンピアで襲ってきたヤツらですよ」
「よくわからんですが、じゃ、アニキたちの敵なんで?」
ん? あ……!
なんでスキンヘッドまで一緒になって隠れてるんだ。しかも、アニキってなんだ?!
トリエッティ姫が僕たち二人の手を軽く引っ張りながら、「シッ」と口に指を当てた。ごめん、静かにしないとだな。
「すいません。色んな人に聞いてみたのですが、まずは冒険者登録をするといいと言われまして。すいません、すいません」
「パオロ。わたくしも来なきゃいけなかったのかしら、こんな汚いところに。もうっ!」
しきりに頭を下げている大男はパオロというらしい。僕の替わりに貴族パーティに加わったのだろうか。
そういえば、僕がみんなを連れて行った前の時はなにも言われなかったけど、そうか、クレシアは本音ではそんなことを思っていたのか。
「貴族の僕が、なぜ下等な冒険者登録をしなければならないのかな?」
声の主はドレッドだ。これは同じことを言われたな。あの時は、仕方なく僕だけ登録した。みんなが登録してくれれば、報酬ももっと貰えたかもしれないのに……。
やはり同じことになったようだ。パオロだけが登録するらしい。
ただし、前回と違うところがある。
もちろん、パオロと呼ばれた大男。
盾役が欲しいと言ってたので、恐らくそうなんだろうと思う。大きな斧を持っているところをみても、かなり力が強いはずだ。持っている盾もかなり強力そうである。
それだけではない。彼らが身につけている装備にも変化がある。
武器や防具に詳しくはないのでよくはわからないが、以前に比べてパワーアップしているように見える。
「ねぇパオロ。なんであなた、わたくしたちと一緒に座ってるわけ?」
「は?」
「まったく、気が利かないわね。ずっと食べてないんでお腹空いてるのよっ。全員の食事くらい持ってきたらどうなの?」
彼らの会話を聞いているだけで、気分が悪くなりそうだ。もうこの場所にいたくはないのだが、出口へ進むと見つかってしまうかもしれない。
きっとパオロはこの後、クエストを受け、一人で薬草を取りに行くことになるはずだ。そして、そのお金でみんなに食事を出すことになる。
だが、その食事が終わるまでどれだけの時間がかかるか……。その間、ずっとこうして隠れていないといけないのだろうか。
「彼らに見つかりたくないようですね、アニキ。ここから出ますか?」
スキンヘッドが僕に小声で話しかけて来た。
「みなさま、静かにこちらへ……」
僕の顔を見て承知したとばかりに手招きをしながら、部屋の壁伝いに、テーブルや人を彼らの死角になるよう屈んで進み、僕たちはカウンターの中へ入った。
スキンヘッドは先ほどの受付嬢に目配せをすると、カウンターへと奥に通される。
そこには外への扉があった。
「助かったよ!」
「いえいえ。さきほどのお詫びです、アニキ!」
「ア、アニキって……僕はあなたよりずっと年下だと思いますが……」
「いえ、アニキに助けられなかったら、きっと……」
そう言ってスキンヘッドはおずおずとマレッタ姫の方を向く。
「この子は、本気で撃ったりしないわよ」
ステラ姫がマレッタ姫を指さしながら、スキンヘッドの背中をバシンと叩いた。顔を強張らせたまま「ひゃあ!」と可愛らしい声を出し、スキンヘッドが小さく跳ねた。
あはははと笑うステラ姫とマレッタ姫。僕もつられて笑ってしまった。スキンヘッドも照れながら笑っていた……いかつい顔で。
だがその中で、トリエッティ姫だけが機嫌悪そうにふくれっ面をしている。
なぜだろうと僕が怪訝そうに見ていたら、ぼそっとつぶやいた。
「あ、あたしだってね、美人なんだからね!」
そうか。あの時「二人の美人」って言ってたな。それでか……。
「ぷっ!」
ステラ姫とマレッタ姫がさらに笑い、僕も笑ってしまった。
「もうっ! お姉ちゃんも、お兄ちゃんもひどいっ!」
追放された僕は、姫三姉妹+もふもふと旅することになりました。固有スキルの【空気】って、一度消えたら最強になるって知ってました? ちなみに僕は知らなかったです。(カクヨム版) べるきす @belkis_narou
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