夜明け
「トントン、おーい、生きてるか?」
はっと目が覚めた。時計は8時半を指していた。
「はい! なんとか」
私がそう答えると、妻の声は
「朝ごはん置いとくね」
それだけ言って去っていった。
(夢か……)
一応確認すると、今日は診断された翌日で間違いなさそうだった。それにしても変な夢だった。夢っていうものは恐ろしい。かすかな不安や恐怖の断片を、勝手に色々と繋げて、それがあたかも正しいような映像に仕上げられてしまう。とにかく夢でよかった。
「あ、あとそれから……」
妻の声にびくっとなった。
「あんまり顔出さないでね。みんなにうつったら殺すから」
扉越しに捨て台詞を吐いていった。
言葉自体は恐ろしいが、こんなことを言えるのもまだ大丈夫だからだよな、と思いながら、愛娘の果穂を抱きしめるまでは何がなんでも死ねないぞ、と気合を入れ直したのだった。抱きしめられるようになるまでの十日間は果てしなく遠い。
(了)
コロナと思ったら……あれ? 木沢 真流 @k1sh
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