第3話(終)「空に輝く明星の下で」
「じゃあ一緒にサボっちゃおうか。」
そう軽々しく言ってしまったが私自身は少し不安だった。
先生に心配かけちゃうな、お父さんとお母さんが知ったらどう思うかな、そんな不安が頭の中で蠢いていた。
詩織ちゃんは私にぎゅっと何も言わずに抱きついている。
ふと時計に目をやるともう7時だ。
7時半には家を出ないと閉門時間の8時には間に合わない。
「もう…いいや…私には詩織ちゃんがいるから…」
そう呟くと意識が遠のいていった。
はっと目を覚ますと充電器に刺さったスマホのロック画面をチェックする。
11時14分の数字と共に大量の『不在着信:学校』の文字が出てきた。
あぁやってしまったな。
もうそれぐらいにしか思わなかった。
そんなことよりも目の前にあるこの世で最もかわいくて尊い寝顔の方が大事だ。
「ねぇ、そろそろご飯、食べよっか。」
私のかわいい妹がダルそうに体を起こす。
「ん、うーん」
背伸びをして昨日学校で使った体操着を着ながら私の寝室がある二階から一階のリビングまで降りてくる妹は昨日までのクラスの隅でどこか悲しそうな顔をして一人で黄昏ていたただのクラスメートではない。
今はもう私だけのモノ、私だけがお姉ちゃん。
「カップ麺でいい?」
「ほ、他に何かありますか?」
「あとは買ってこないとないかな。」
「じゃあ、それで。」
お昼を食べた後は適当にテレビゲームしたり地上波放送の映画の録画を観たりした。
「さっきのタイタニック号の映画、どこで一番感動した?」
「やっぱり氷山を回避するシーンですね。レシプロエンジンを逆転させるところがよかったです。」
もう詩織ちゃんの緊張もすっかりほぐれて言葉を詰まらせずに話せるようになっていた。
時計に目をやるともうそろそろ4時だ。
そろそろ学校の授業が終わる頃だろうか。
「もうすぐ夕方のニュースあるけど、観る?」
「観たいです!お姉ちゃんも一緒に…」
「もー分かってるよー。でも、晩ごはんの用意があるから5時までね。」
チャンネルを回すと刑事ドラマの再放送をやっていた。
主人公の刑事が犯人らしき男が屋上まで追い詰められて動機を殺人の話している。
『ぜっ、全部あいつが悪いんだ!俺の事を詮索しやがって!クソッ!おかげで俺の人生めちゃくちゃだ!』
『上司の妻と不倫しそれを目撃した同僚を口封じに殺した、それが人を殺していい理由になるのか!』
それと同時にナイフを持って突進してくる男を躱し、ナイフを取り上げて手錠をかける。
「…人の心を壊しても、別に殺人にはならないもんね。」
私はこう呟いた。
「お姉ちゃん…?」
「なんでもないよ」
ただでさえ傷ついている妹に対して心配をかけた事を後悔した。
「よし、やっぱり庭のお掃除をしようか。」
「えっ、お掃除って?」
「草むしりだよ。最近あんまりしてなかったし、どっから種が飛んできたのかイバラまで生えてくるし。」
「そうですね。私も手伝いますよ。」
「よーし、じゃあ気合い入れて行くよー!」
私は立ち上がると同時に自分の尻を両手で叩き気合いを入れる。
少し日が傾き、西日がテニスコート1個分ほどの我が家庭を焼き付ける。
日向の部分はサラダ油を引いたフライパンのように厚くなっていた。
「棘とかは危ないから私がやるね。詩織ちゃんは落ち葉はいたりとかカタバミとか抜いといてー」
「はーい」
黙々と、というほどではないがほとんど会話せずに掃除は終わってしまった。
6時になるとあたりが暗くなり始める。
「詩織ちゃん、明日は学校いけそう?」
「はい、お姉ちゃんが一緒なら大丈夫です。」
「そっか、いい子だね、よしよし。」
勝手口の前に座り込んで西の空に輝く明星を眺めながら二人で黄昏ていた。
そんな時、ふと詩織ちゃんが悲しそうな顔をしていた。
さっきの独り言のせいだろうか。
「ねぇ詩織ちゃん、この2つ棘、こっちが私の苦しいよーとか、悲しいよーって気持ちでもう一個は詩織ちゃんのおんなじ気持ち。」
棘を握った私の手には
さらに2つの棘を花の冠を作る要領で編んで
「でもね、こうすると…?」
棘の刺で血まみれになった両手で自分の頭に冠を乗せる。
「詩織ちゃんの苦しいこと、悲しいこと、ぜーんぶなくなっちゃった。」
「で、でもお姉ちゃんが…」
「いいの、詩織ちゃんは今まで十分傷ついたもん。」
結局、妹を泣かせてしまった。
でもこれが間違いだったのか、それともいい事だったのかわからない。
何故なら、嬉し泣きしてるようにも見えたからだ。
私と貴女のココロのスキマ 輝波明 @juniku
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