第2話「二人だけの夜」

私のお姉ちゃんになってくれた人、私のたった一人の家族、その人の名前は上条未来、私の一番大好きな人です。

お姉ちゃんは真っ黒で綺麗な髪をショートボブにしててビー玉みたいに綺麗な黄色い目があって私よりちょっと細いけど抱きつくと結構柔らかくてとっても安心する。

そんなお姉ちゃんが血の繋がりもない私の事を妹にしてくれた日、その日はとても素晴らしい日でした。

「じゃあ、行こっか。」

私はこの一言で救われました。

この時、みんなには言ってなかったけど私は両親から虐待を受けていました。

今思えば不思議なことにどんなに酷いことを言われたりされたり殴られたり蹴たりしても全部自分が悪いんだ、自分がちゃんとしなきゃダメなんだって思ってどんどん自分を責めていってどんどん全部がイヤになっていきました。

そしてこの無限地獄から逃げ出す決意をしました。

でも私の持ち物はコンビニ弁当の空箱と冷水機の水、筆記用具と体操着、日本史と理科、国語に英語、そして数学の教科書、ノート、歴史資料集。

現金すらありません。

どうしようもなく近所の公園で過ごしていた時、お姉ちゃんに出会ったのです。

そして私はお姉ちゃんの家に案内されました。

「ただいまー、まっ誰もいないけどね。」

「あっ、あのご両親はどちらに…」

「んーとね、アメリカのココドコ州のアケロイト」

「ア、アメリカに…じゃあずっと一人で?」

今度はお姉ちゃんが泣きそうになりながら

「うん…」

って頷きました。

「確か初めてだったな…友達が家に来たの」

「そうなんですね…」

「ごめんね…こんな暗い話しちゃって」

「い、いえ、むしろ安心しました。ちゃんと未来ち、ちゃんも悲しいこととか辛いこととかあるんだなって。」

「へへへっ詩織ちゃんってちょっと面白いね。」

「あっそうだ。晩ごはん!今日カレーしかないけどいい?あと中辛で大丈夫?もしあれだったら新しいの買ってこようか?」

「は、はい…大丈夫です…」

それからお姉ちゃんがカレーを作ってる間テレビを見せてもらいました。

この時間帯はニュースしかやってないけど芸能人が街を散策するミニコーナーが気に入りました。

「詩織ちゃんすごい集中力、特撮番組観てる時の子供みたい。」

「あんまりテレビ観れたこと無くて…」

「そっか…私の家に居る時は好きなだけ観ていいからね。」

「…ありがとうございます…」

そうやってお話してるとあっという間に晩ごはんの時間です。

「「いただきまーす」」

「ど?美味しい?」

私は涙を流しながら答えました。

「美味しい…あったかくて美味しいです…」

「そんな泣かなくても…私がいつでも作ってあげるからね。よしよし、よしよし」

お姉ちゃんは私が震える手でスプーンを口に運ぶ間、ずっと頭を撫でてくれました。

それからしばらくして一緒にお風呂に入りました。

「ねえ詩織ちゃん」

頭を洗ってもらってる時にこう話しかけられました。

「今日ずっと私に気を遣ってたでしょ」

「えっ…そんな」

耳元に顔を近づけてさらに囁きました。

「ダメだよ…もっと素直にならなきゃ…」

「ひゃっ、耳…耳ペロペロ…ダメぇ…」

「いいんだよ…いっぱい甘えて…」

「…ちゃん…お姉ちゃん…未来お姉ちゃん…」

私は泣きじゃくりながらお姉ちゃんの胸に顔をうずめて強く抱きつきました。

「よしよし、辛かったね。苦しかったね。いいよ、私、今日から詩織ちゃんのお姉ちゃんになってあげるね。」

そう囁いて頭を撫でながら抱き返してくれました。

身体を拭いて髪を乾かした後、私たちはお姉ちゃんの部屋に向かいました。

私がベットの端っこに座るとお姉ちゃんが横に座って手を握ってくれましたそして…

「ねぇ…詩織ちゃん…舌、出して…」

「こう…ですか…?」

それが人生で初めての接吻でした。

今思えば1分もしてなかったのに10分も20分もしていたように感じて、ずっとこうしてたいって心の底から思いました。

「詩織ちゃん…私は、私だけは何があっても詩織ちゃんの味方だからね。もし、世界の全部が詩織ちゃんの敵になっても守ってあげる…だから、ずっと、ずーっと一緒にいてね…」

お姉ちゃんは添い寝しながら私の頭を撫でてそう囁いてくれました。

私たちはいつのまにか眠っていて小鳥のさえずりに優しく起こされました。

「ん、うーん…おはよう詩織ちゃん」

「おはようございます…」

「昨晩の詩織ちゃんとっても可愛かったよ。」

「そ、そんな恥ずかしいこと言わないでください…」

私は何も言わずにお姉ちゃんに抱きつきました。

「ん?もしかして今日は何にもしたくない?学校も行きたくない?」

こくんと頷くと私を抱き寄せて優しく頭を撫でながら囁いてくれました

「じゃあ一緒にサボっちゃおうか。これで私たち、本当に悪い子だね。」

そう言われた時、いろんな罪悪感に押しつぶされそうだったけどこの時は今まで生きてきた中で一番幸せな瞬間だと思いました。

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