第二話 農耕民
千早はメインモニターを時々確認しつつ、スマホ画面を見ていた。
「ま、また戦闘系の依頼……」
何度読み込みをしても、千早のスマホに表示されるのは戦闘系の依頼ばかりだった。
群森高低大地の戦闘への介入があまりにも大きいらしい。実質的には戦闘を終結に導いたのだから、当然の評価ではある。
千早は依頼が並んでいる掲示板を下へとスクロールしていき、目当ての依頼が出ていないかを探していく。
結局、やりたい依頼は見つからずにスマホを横に置いた。
「なんでみんな、戦わせたがるの……?」
平和が一番じゃないか、と千早はため息をついた。
メインモニターの動きが止まっているのに気付いて、千早は反復アプリを再起動する。
モニターの向こうの新界で、貸出機のサイコロンが弧黒連峰の開拓に従事する。
重迫撃砲で耕された地点の木や根、ばらばらのスクラップになったEGHOなどを除去したその場所はいま、サイコロンによって土を掘り起こされている。
本来なら重労働の畑作りも、サイコロンと反復アプリによって自動化できるのだ。
千早は別のモニターに表示してある論文を見る。
新界の植物に関しての論文だ。農作物として見た場合の評価などが書かれている。
生育条件に付いての考察などを読みつつ、重要そうな部分をピックアップしてメモ帳にコピペする。
関係する依頼が見つかり次第、弧黒連峰で作っているこの畑で栽培するのだ。
調べ物をしながら片手間に開墾作業ができる文明の力に少し感動しつつ、千早は作業を進めていく。
時折ちらりと東の空を見るが、どららんはやってこない。
「ふっ……未練、か」
格好よく言ったつもりだが、声が震えていた。未だにどららん離れができていない千早である。
「……ん? また、鉄」
畑作りをしているだけで、鉄を少量含んだ石が産出される。資源探索アプリが度々引っかかってアラートを鳴らす。
千早は面倒がってアラートを切った。
弧黒連峰は鉄鉱山だが、千早は鉄を有効活用する伝手がない。
一応サンプルは取ってあるが、現状では宝の持ち腐れである。
メインモニターで開墾の進捗状況を見つつ、論文を読む。
論文は、門外漢であるアクターが読むことも前提にしてくれていて、専門用語も数が少なかったり、注釈が入っている。
親切だぁ、と千早はのんびり考えつつ論文を読み終えて、再びスマホを手に取った。
定期的に掲示板をチェックしておかなければならない。優先度が低い依頼は発注して数時間しか千早の掲示板に表示されない場合がある。
「……あ、これ、よさそう」
千早が興味を示したのは、以前群生地を吹き飛ばしたことのあるククメルカの栽培実験だった。
医療資源として注目されているものの、栽培方法などは考察されていないらしい。
どうやら、アクターは開拓よりも新界の新資源の発見に重点を置いて活動しているため、栽培など、発見された新資材に関する実験は滞っているようだ。
新しい資源を見つける方がお金になるため、地道な実験考察は見向きもされないのだ。
だからこそ、食い込む価値があると千早は意気込む。
新しい世界を冒険するような、危険が伴うことをしたくない千早にとって、自分の土地を開拓、開発していくのは性に合っている。
「報酬もいいし、やろうかな?」
アクターがやりたがらない依頼はおのずと報酬額が上がる。
案外、狙い目ではある。自由に使える土地を持っているアクターが少ない以上、栽培実験のように広い土地を必要とする依頼は受注者が少ないのだ。
格安で弧黒連峰を買い取って、土地が有り余っている千早にとってはありがたい依頼である。
「この依頼、成功させたら、直接依頼くる?」
栽培関係の直接依頼が舞い込むようになれば、安全に依頼をこなして収益を得られる。
戦闘が絡む依頼ばかりが並ぶ掲示板も、直接依頼が主体になればもはや関係ない。
そこまで考えが及べば、自然と笑みも浮かぶ。
「農耕民族の本領、発揮して、やる……」
うへへ、と笑いつつ、千早はククメルカに関する文献を漁り始めた。
医療作物として期待されていることもあり、ククメルカに関しての論文は多い。
しかし、中には論文発表のノルマ達成でも目指しているのかと思うほど雑な論文もある。素人目に見てもサンプルが足りていなかったり、栽培条件が他の論文の焼き増しでしかなかったりする。
「……追実験? こんなに、雑でいいの?」
千早には、どうにも雑な条件設定にしか見えない実験だった。
工業高校卒の自分には、農学系の知識はあまりない。実験についてもどこまで条件を突き詰めるべきなのか分からない。
だが、それでも実験内容があまりにも雑に見えた。
それというのも、門外漢のアクターが実験を主導しているため、本旨が分からずに実験内容が適切ではない場合があるからだ。
千早は首をかしげつついくつかの論文を読み、疑問符を重ねていく。
これではまともに依頼を完遂できないと、千早はネットで全く別の検索項目を打ち込んだ。
――新界、農業、講演
検索に引っかかった講演の予約チケットを注文し、千早はようやく人心地ついた。
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