第十五話 内通者(いない)

 伴場はいら立ちのあまり、床を踏みつけた。


「なんだ、あの爆発はっ!」


 次々と爆発が起こり、狙撃を防がれる。

 今思えば、狙撃ポイントへの移動中に捕捉されたのが不味かった。

 こちらの射角を知られたため、標的との間に射線が通る地点をことごとく爆破で邪魔される。


 今から狙撃ポイントを変えたいのは山々だが、EGHOは高度なレーダー探知などの情報処理を行うランノイド系だ。情報処理に優れる精密機械のため衝撃に弱く、移動速度は時速五十キロメートル。今から次の狙撃ポイントへ移動しようとしても輸送車に逃げ切られてしまう。


 移動中に捕捉されたのがつくづく痛い。こちらの移動速度を見抜かれたのだ。

 位置バレしているのだから今さらだと、破れかぶれで狙撃を試みる。しかし、爆破の衝撃に煽られて弾がブレ、かすりもしないようだ。

 レーダーで捉えている輸送車はいまだ健在。森の木々に隠れてモニターには映っていないが、EGHOの狙撃よりも投げ込まれる手榴弾の方がよほど怖いはずだ。


 この的確ながら無茶苦茶な爆破。爆弾を多用する戦法は聞き知っている。


「オールラウンダーから乗り換えたボマーだな……」


 わらべの改造機を先に止めなければ輸送車への攻撃ができない。

 一応、木を倒して道を塞いでいるが――

 その時、輸送車とは別の場所で爆発が起きる。その爆破地点に倒木を用意していた伴場は怒りで歯ぎしりした。


「次から次へと……」


 EGHOを操作し、狙撃銃『与一』の銃口をボマーへ向ける。

 最初の狙撃からずっと位置だけは捉えていた。EGHOの索敵能力ならば造作もないことだ。

 しかし、森の中を高速で走る、低身長機体のわらべを狙撃するのは流石に難しい。位置は分かっているが、ボマーも自分が狙われていることは百も承知らしい。

 小さな体躯を生かしてちょこまかと、森を走り回っている。木が密集している地点を選んで走れるのがわらべの利点だ。

 人間を含むあらゆる生物の視線に怯えて生きてきたのではないかと疑うほどに、射線を切るのが上手い。


 狙撃は困難。伴場が怒りを押し殺してボイスチャットで部下に指示を出す。


「指示通りに動け! ボマーを狙撃地点に追い立てる! 指示通りに動けない奴は物理で首が飛ぶぞ」


 脅しを加え、部下のバンド全七機を送り出し、狙撃が可能な道の上へと追い出しにかかる。

 時間はかけられない。輸送車が狙撃レンジから出るまでさほど時間がない。

 だというのに、わらべの改造機は異様に逃げるのが上手かった。


「伴場さん、スプリンター系じゃなきゃあれは無理ですよ!」


 命が掛かっているだけに必死になった部下がボイスチャットで抗議してくる。

 バンドは軽量で、それなりに足が速い機体ではあるが、スプリンター系と比べるとどうしても速度が劣る。

 頭数が揃っていても、わらべ相手に追いかけっこは少々分が悪いのは分かっていた。


 伴場は部下のバンドのメインカメラ映像を共有し、次々と切り替えてはEGHOのレーダーの反応を確認する。


「ネズミの生まれ変わりか、あいつは……」


 夜間で視界が悪い。バンドはもともと視野が狭い。だが、EGHOの索敵で位置は分かっているのだ。

 なのに、バンドたちのカメラに写らない。


 低身長のわらべの利点を生かして藪を盾にし、ワイヤーで樹上へ逃げたり、足止めの時限爆弾を置いていく。

 特に時限爆弾や遠隔爆弾が最悪だった。


 あのわらべの改造機は索敵能力が強化されているらしく、バンドの位置を把握して動いている節がある。距離を詰められそうになったり、先回りされそうになるたびに爆破で攪乱してくるのだ。

 森の木々を爆破で倒壊させてバンドの進路を妨害し、倒木を盾に走り抜けていく。低身長のわらべだからこその動きだ。

 どうなっている、と伴場は冷静になって考える。


 同じ動きをできるかと言われれば、伴場でも覚悟次第で十分可能だ。バンドを使っている部下たちでも可能な動きではある。

 わらべを使い捨てる覚悟があればの話だが、資金力次第で簡単に決まる覚悟だ。

 そう、ボマーの動きは特異的なアクターの技量によるものではない。

 戦略目標、戦場の状況、双方の機体相性が絡み合った結果、一方的にかき乱されているのだ。

 だからこそ、伴場は作為的な何かを感じていた。


「……ボマーはなんで乗り換えた?」


 オールラウンダーを使っていたボマーがこのタイミングで乗り換えた理由が問題だった。

 わらべの改造機は、あまりにもこの戦場に噛み合い過ぎている。

 以前、ボマーに潰された角原グループ下部組織、八儀テクノロジーの代表八儀は言っていた。


『我々の脅威になります』


 ボマーは角原グループと敵対している。

 八儀テクノロジーの一件だけでなく、赤鐘の森での一件でもシェパードを撃破されて妨害計画を潰された。

 加えて今回のわらべの改造機だ。


「……内部情報が洩れている?」


 襲撃の前にこちらの陣営がEGHOとバンド数機であると情報を掴んでいれば、オールラウンダーではなく相性のいいわらべの改造機を持ち出してくるだろう。

 だとすれば、バンド全機に追いかけさせて、オーダー系EGHOの護衛がいない今の状況は?


「――ちっ、全機戻れ! 撤収する!」


 EGHOのレーダー網に接近してくる敵機の反応はない。しかし、ステルス機能を持つオーダー系アクタノイドが準備されていないとは限らないのだ。

 ユニゾン人機テクノロジーの輸送車もわらべの改造機もすべて囮に、角原グループ最大戦力のEGHOを仕留める作戦だとすれば、この状況は無視できない。

 伴場はEGHOを撤退させながら、淡鏡の海へ向かう輸送車へと腹いせに狙撃を見舞う。途中の木にでも当たったか、輸送車はそのまま狙撃レンジの外へ出ていった。

 頭を掻きむしり、伴場はぼやく。


「あのパワハラ野郎にどやされるな。クソがっ」

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