第八話 裏事情
ボマーから届いたメッセージを見て、厚穂澪は笑みを浮かべた。
ボマー用に急造したコンセプト機、童行李に興味を示してくれたようだ。
「第一関門突破ね」
今回のアクタノイド回収にボマーの戦力は心強い。戦闘が好きなボマーならば乗ってくるだろうとは思っていたが、多勢に無勢での戦闘を好むボマーのこと、守る側ではなく攻める側でやってこないとも限らない。
だからこそ、コンセプト機を作ってまで食いつかせた。
「このまま、ボマーをうまいこと依存させたいけど、どうなるかしらね」
オールラウンダーで多大な戦果を出すようなアクターだ。コンセプト機、童行李がお気に召さなければ依存などしないだろう。
せめて敵対しない方向に、と厚穂が考えた時、社内メールが入った。
デスクを見ると、部下が頷く。
「代表、回収任務についてです。Ωスタイル電工との連携ですが、いくつかの地点で電波が届かないそうです。付近の勢力図をまとめておいたので、ご覧ください」
「ありがとう」
社内メールに添付された資料をパスワードを打ち込んで開く。
アクタノイド回収任務の順路は極秘扱いだ。三社で共有しつつ、安全性や隠密性を重視して策定した順路である。
しかし、新界は広く、どうしても通信網の抜け穴が存在していた。
作戦地点の電波状況は戦略上、非常に重要な意味を持つ。
自陣営の電波が届かない地点ではどうしてもランノイド系アクタノイドを晒すことになるだけでなく、通信状況が劣悪になりがちだ。
敵対する勢力は晒されている弱点であるランノイド系アクタノイドに火力を集中したり、局所的な電波障害を引き起こすなどで襲撃を図ってくる。
通信網の構築は自身の勢力が利益を得るにあたり最重要の要素なのだ。
今回の淡鏡の海のガレージ化はユニゾン人機テクノロジーやシトロサイエンスグループ、Ωスタイル電工にとっての通信網の要になる。
三社と敵対する海援重工などの勢力の電波を利用していると、肝心なところで通信網に制限をかけてくる可能性がある。電波的に孤立させ、一方的に殲滅するのはアクタノイド戦での定石だ。
社内メールに添付された資料がまさに、電波的に孤立しかねない地域、襲撃予想地点である。
新界の各地の拠点に散らばっているため、移動距離が長い。
これでも、貸出機を特定のガレージへ集めた方だ。しかし、野武士討伐の前後から所属不明の機体による襲撃が相次ぎ個別での移動ができなくなった。
明らかに狙い撃ちされているため、敵対勢力による妨害なのは間違いない。問題は相手の狙撃能力と索敵能力だ。
現行の機体で可能な索敵範囲の外から狙撃されている。ドローン空撮での索敵が可能なコンダクターですら敵機を発見できずにいる。
狙撃しているのはオーダー系アクタノイドだと思われる。かなり厄介な相手だ。
狙われているのは百も承知だが、このタイミングでなければ分散した機体の回収が難しい。
「野武士争奪戦で主要な戦闘系の勢力が削れている今がチャンスよね」
アクタノイド開発企業として鎬を削る海援重工、なぜか目の敵にしてくるオーダーアクター、どちらの勢力も機体の多くが破損、大破している。どちらも部品は潤沢にあるためすぐに立て直すだろうが、いまは戦力の空白期だ。
その時、部下が口を挟んだ。
「角原グループ辺りは無傷ですけどね。一番危ないところですけど」
非合法な手段も政治の力でもみ消す角原グループは、現在では最も警戒すべき相手だ。
厚穂は静かに頷いた。
おそらく、狙撃してきているのも角原グループのオーダー系アクタノイド『EGHO』だろう。狙撃特化の機体だと噂がある。
しかし、角原グループにはシトロサイエンスグループが雇ったアクターのマークがついている。いまいち全貌が分からない勢力のため油断はできないが、二十機を越えるような戦力での大規模襲撃はできないだろう。
なにより、こちらには角原グループに煮え湯を飲ませ続けた心強い味方がいる。
「こちらにボマーがついているのが大きいわ」
戦闘力の高さから特筆されるアクターは数名知られている。
オーダーアクターの『トリガーハッピー』と引退したと噂の『ガオライオーン』、海援隊の『志士』、がっつり狩猟部の『フィズゥ』、角原グループの『EGHO』と『バンドマンの冴枝』だ。
最近では所属不明で神出鬼没の『ボマー』が加えられ、ネット上では最強談義が流行っている。
部下が眉を寄せてボマーの噂を口にする。
「野武士戦で勢力を潰し合わせた挙句に、餌の野武士を爆破解体して証拠隠滅したっていうのはマジネタなんですかね?」
「さて、どこまで本当かしらね。ボマーに関しては角原グループよりよっぽど底が見えないわ。最悪、工作員って噂のあるマスクガーデナーの一員かもしれないし」
仲間として背中を預けられるかどうか、この仕事で見極めたいと厚穂澪は思った。
※
角原グループ代表、角原為之は部下が掴んだユニゾン人機テクノロジー貸出機の大量輸送の予測を聞く。
「貸し出されてない機体が多すぎる、か。各個撃破された反省に、大量輸送に切り替えたか」
「どうしますか?」
伴場粋太の質問に、角原為之は煙草に火をつけながら答える。
「潰すに決まっている。現在のアクタノイド戦で港湾拠点を落とすのは困難だ。淡鏡の海を基点に周辺を制圧されかねん。伴場、バンドを七機率いて襲撃しろ。お前は姿をさらすなよ」
「了解です」
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