第七話 高額運搬依頼
ユニゾン人機テクノロジーからの直接依頼は初めて見る内容だった。
現在、三社共同でガレージ化を急いでいる淡鏡の海仮設ガレージから内陸を回って、ユニゾン人機テクノロジーが方々に貸し出したアクタノイドの回収を行うというものだ。
千早の役割は回収業務に従事する企業所属クラン『ユニゾン』と、回収した機体の護衛である。
淡鏡の海の工事を行うにあたり、貸し出した機体を回収して作業させたいのだろう。
契約金額は二百万円。成功報酬も二百万円。破格の依頼だ。
ごくりと、喉を鳴らして、千早は考える。
オールラウンダーを新品で買えるほどの報酬だ。いくら企業とはいえ、個人アクターにポンと支払う金額ではない。
だが、おそらくこの金額は妥当な水準だ。
ガレージ化の工事に使う貸し出したアクタノイドということは、部品の摩耗が多少あっても破損はしていない、いつでも使える機体だろう。
等身大の人型であるアクタノイドは輸送車に数機乗せることができ、当然一台の車の価値が跳ね上がる。
盗賊アクターが知れば襲撃をかけてくるだろう。内密に輸送する必要があるのだ。
「口止め、料……」
ある程度付き合いがあるアクターに口止め料代わりの契約金を支払い、内々に依頼するのだから、報酬も高額になる。
まして、ユニゾン人機テクノロジー開発の機体は見た目に癖があるものの性能は高い。奪って売ればいい金額になる。
千早としては、口止め料を払ってくれる点が好印象だった。情報保護に力を入れている証拠だからだ。
「うーん、戦闘は怖いけど……」
口止め料も払っているくらいだから盗賊アクターに情報が筒抜けというのは考えにくい。しかし、内陸に移動する以上は野生動物に注意する必要がある。
なにより、千早は護衛の依頼を受けたことがない。逃げて隠れて爆破する戦い方だ。
どうしようかなと、いつも通りの優柔不断振りで悩みながら依頼が表示されたスマホ画面をスクロールする。
輸送車に積んだアクタノイドは、野生動物などの襲撃を受けた際に即座に戦闘に移ってくれるらしい。麾下のクラン『ユニゾン』のアクターが襲撃者に合わせた機体を積荷から選んで操作するという。
一台当たり十機以上のアクタノイドを積むため、襲撃を受けても初動さえ凌げば火力で圧倒できる。
千早に求められるのは周囲への警戒と戦闘開始時に味方のアクタノイドが展開する時間の確保、そして展開可能な前線スペースの維持だ。
いつも使っているオールラウンダーでは索敵能力が低すぎて無理な内容だ。
「よし、断ろう……」
こんな時だけ決断力を発揮する千早だったが、画面をスクロールして飛び込んできた情報を見て決断が鈍った。
ユニゾン人機テクノロジーの代表、厚穂澪からの追伸が記載されていたのだ。
『ユニゾン人機テクノロジー開発の機体、スプリンター系アクタノイドの『わらべ』の改造機『童行李』をお貸しします。試作品に近いものですので、大破しても修理費などは請求いたしません』
前回の水中スクーター『ドルフィン』などのテストと同じ条件だった。つまり、ノーリスクで最低でも契約金の二百万円が手に入る。
「……美味しい、依頼では?」
肝心の童行李のスペックにも興味を引かれる。
身長一メートルの小型機体であるわらべを基にした改造機だけあって、低身長で的になりにくい。
背中に行李箱のような収納スペースを持ち、積載重量が三十キログラムから八十キログラムに増加している。
腕の可動域を広げ、行李箱の両側面から物資を取り出せるほか、手元の動作の精密性が向上しているとのこと。ワイヤーを蝶々結びする動画が添付されていた。オールラウンダーと比較してもかなり滑らかな指先の動きで、硬いワイヤーを刺繍糸でも扱うような速さで結んでいく。
反面、指先の繊細な動きを再現するために複雑な構造をしているため、銃火器を扱うと反動で指の機能に支障をきたすらしい。
わらべはもともと、小さな体躯を生かして遮蔽物に隠れつつ狙撃を行うのが主流であり、従来の運用方法がこの童行李ではできないようだ。
童行李は小さな体を生かしたスプリンター系らしく、素早く現場に急行して物資を届けたり、細かい作業が得意なことを生かして工作活動を行うコンセプト機体なのだろう。
索敵能力も強化されており、音響索敵機能や映像の分析と動体の検出と強調機能、サーモグラフィなども搭載している。処理能力が高いため環境音から獣の唸り声やアクタノイドの駆動音を抽出、分析しおおよその位置を割り出す能力まであった。
「高スペック……」
千早は童行李のスペックに感心する。
そもそもこの機体、千早にとっては嬉しい機能がいろいろついている。
体高一メートルと被弾しにくい。積載重量も多く、かさ張りがちな爆発物を大量に持ち運び可能。スプリンター系がもとになっているため機敏に動ける。つまりは逃げ足が速い。小さいので障害物を避けやすく、追撃者を撒くのに適している。
直接の撃ち合いが嫌いな千早には銃器の使用制限も気にならない。
千早の立ち回りとの相性が良く、被弾面積の少なさと爆破範囲からの急速離脱が可能なため自損もしにくい。お財布に優しいのは金欠で悩まされた直後の千早の琴線に触れた。
この機会に使用感を確かめて、気に入ったらお金をためて買うのもいい。
「……い、依頼、受けます」
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