第十六話 スプリンター系わらべ

「……な、なんか来た!」


 千早はスマホに届いた依頼に驚きのあまり硬直する。

 ユニゾン人機テクノロジーからの直接依頼、それも、戦闘系ではない依頼が二つも同時に発注されている。

 わなわな震え、ニマニマ笑い、千早はベッドの上でゴロゴロと嬉しさに悶える。


 考えてみれば、ユニゾン人機テクノロジーはいつも戦闘系ではない依頼を発注してくれている。なぜか毎回、なし崩しに戦闘に入るだけだ。

 しかも、今回はユニゾン人機テクノロジーを狙っていた八儀テクノロジーが新界事業から撤退しているため、今までの依頼とは危険性が違う。


「ふふへっ、お得意様だよ、ね。大事に、しよう」


 ぱたぱたとベッドの上で足を動かして嬉しさを紛らわせ、直接依頼の内容を見る。

 一つは、スプリンター系アクタノイド『わらべ』を貸与するので、水中爆薬を内包した時限式爆弾『水毬爆』と水中スクーター『ドルフィン』の使用感を確かめて欲しいとの内容だった。

 もう一つは、シトロサイエンスグループの依頼である『淡鏡の海』の海洋、海底調査に参加してほしいというものだ。


 新装備のテスターついでに新しい企業との繋がりを作ってくれる。なんておいしい依頼だろう。

 しかも、新界の海だ。汚染されていないため、さぞきれいな景色が見られそうだった。

 千早は二つ返事で受注して、ベッドから起き上がった。


「練習、しておこう……」


 ぶっつけ本番で慣れていない機体を操るのは怖い。しかも、海の中で操作するとなれば難易度も跳ね上がる。身動きが満足に取れない中で爆弾も使うのなら、自機を巻き込まないように操作に慣れておくべきだ。


 地下のアクタールームへと階段を降りながら、千早はスマホでわらべについて調べる。

 以前、大破した機体や孤立した機体を回収する依頼で参加者の一人が使っていたのがわらべだった。


 ユニゾン人機テクノロジー開発のスプリンター系に分類され、身長一メートルの小型機。被弾面積が少なく、藪などに隠れ潜むこともでき、スプリンター系だけあって障害物を自動回避するAIも搭載している。

 スプリンター系は軽量化を行うため速度が出るものの、銃器の反動に耐えられない場合が多い。機関銃などは扱えないのだ。

 その点を、わらべは機体そのものを小型化することで軽量化を施しつつ、反動が大きな火器を扱えるように全体的に太く作られているらしい。身長分の重量を筋肉に回したと考えればわかりやすい。

 軽量化と火器の使用を両立するため、反動を殺すことに特化した構造をしており、積載重量は三十キロしかない。火器と弾丸で積載重量をほぼ埋め尽くす。


「採集依頼とかでは使えない機体かぁ」


 反面、小型故に岩の隙間などに潜って潜伏したり、遮蔽物に隠れながら隠密狙撃ができるなどの利点を併せ持つ。撃った獲物を自力で回収できないため、狩猟でも仲間が必要になる。

 ボッチな千早が使いこなせない機体であった。

 だが、絶景写真の撮影や測量の依頼であれば十分に利用可能だ。小柄なため、洞窟の調査なども行える。


 ちょうど使われていないわらべの貸出機があったため、千早はレンタル料を支払って機体に接続する。

 モニターにわらべの視界が共有された瞬間、千早は練習を始めてよかったと確信した。


「低い……」


 低身長機体故の視線の低さ。いつも使っているオールラウンダーの半分近い身長のため、見通しが利きにくい。

 隣にある貸出機のオールラウンダーを見上げて、その圧迫感に千早はしり込みした。何もかもが覆いかぶさってくるような威圧感を放ってくる。

 貸出機の倉庫を出て、軽く走らせるつもりで感圧式のマットレスを踏む。


「――わっ!?」


 空気抵抗が少ないスプリンター系だけあって、加速力がオールラウンダーの比ではない。あっという間に時速八十キロメートルをマークし、まだまだ余裕があるのも分かる。

 公称スペックでは最高時速二百キロメートルとのことだが、そんな速度を出せる場所は限られる。いくら障害物を自動で避けてくれるとしても、ラグを考慮すれば突発的な事態に対処できるか怪しい。


 低身長だけあって足の動きもせわしない。歩幅が小さく、その分足を何度も地面に下ろすことになるため、マキビシ草のようなトラップを踏み抜きそうで怖い。

 当然ながら腕も短い。オールラウンダーと同じ感覚でモノを取ろうとして空ぶることが多々あった。


「くせが、強い……」


 オールラウンダーとは完全に分けて考えないと事故の元だ。

 操作感に癖があるものの、オールラウンダーと比べるとあらゆる動作が機敏に行なえる。

 スプリンター系は斥候偵察を本分としているため、機敏に動作しないと野生動物に対応できない。また、多少電波環境が悪くても動けるように設計されているらしい。

 標準武装を確認してみると、大口径拳銃『穿岩』に散弾銃『ワンライン』、変わったところでは粉塵手榴弾がある。


「初めて見た。なに、これ?」


 粉塵手榴弾を手に取り、ネットで検索をかけてみる。

 煙幕代わりにもなる粒子をまき散らす手榴弾らしい。獣を相手に逃げる際に使うようだ。

 だが、ネットでは別の使い方も書かれていた。

 アクタノイドに使用すると、空冷式フィルターに取りつき、フィルターを汚染、目を詰まらせて空冷が利かなくするらしい。


「シネヤカフン的な?」


 中々凶悪な代物だった。

 オールラウンダーやバンドなど熱暴走に弱い機体に効果があるものの、ランノイド系など粉塵対策が施されている機体や水冷式に換装された機体には効果が少ない。

 環境に優しい分解性の粒子なので好きに使っていいらしい。


 なお、わらべは粉塵対策済みの水冷式仕様なので、この粉塵手榴弾を好きにばらまいて一方的に空冷式のアクタノイドを攻撃できる。


「面白いけど、そもそも戦わなくてよくない?」


 わらべの最高時速を思い浮かべつつ、千早は首をかしげた。

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