第十四話 勉強会=説教

 千早はシェパードの売却金額を見て複雑な顔をしていた。


「三十万円……」


 ランノイド系であるシェパードは非常に高価な機体だ。

 だが、至近距離での爆破により肝心のセンサー類や回線装置類が破損していたため、価値がかなり落ちていた。

 さらに、大破までいかずとも千早が使っていたオールラウンダーもかなりの損壊具合だった。その修理を差し引いた売却金額が三十万円となっていたのだ。


 今まで三桁万円での売却金額ばかりを見てきたため、少なく感じてしまう。だが、実際にはそれなりにまとまったお金だ。

 さらに、戦果がもう一つあった。


「狙撃銃、いいね……」


 うへへ、と千早はシェパードから鹵獲したAI搭載型狙撃銃『与一』を見る。

 迷彩仕様に塗り替えられた与一だ。なかなかスマートな外見をしている。射程は千メートル以上で、AIによる命中補正は評価が高い。

 今までは貸出機のオプションパーツや標準武装を借りていたが、この与一は正真正銘、千早にとっての初の所有武装である。


「戦いたくないのに身を守るために武器を持たないといけないこの矛盾……。使わないで済みますように……」


 なにはともあれ、いざ使わなければならなくなった時に使い方が分からないのでは意味がない。鹵獲品なので説明書などがついているわけでもない。

 製作会社である海援重工のホームページで使い方を読みつつ、千早は新しく借り受けたオールラウンダーに接続する。


 和川ガレージの倉庫からオールラウンダーを発進させ、ガレージの外にある射撃場へと向かわせた。

 安くない金額の銃弾を購入して、オールラウンダーを射撃場に入場させる。


 射撃場は木製の的が二百メートルおきに設置されていた。天井がない。アクタノイドでの依頼は悪天候時でも戦闘になる可能性があるため、雨の日にあえて訓練するアクターが多いからだ。

 オールラウンダーに与一を構えさせ、説明書を読みつつ操作を確認していく。


「……リンク、できない」


 与一のAIはアクタノイドのモニターを参照して命中率をより高める効果がある。しかし、千早が主に使うオールラウンダーは処理能力が低い機体で、AIとのリンクができなかった。

 オールラウンダーの膂力のおかげで射撃時にブレることがないため、人間が撃つよりも命中率は高いだろう。

 しかし、ラグが発生している以上、動く的に当てるのは至難の業だ。

 AIの補正はアクタノイドに直接リンクして、日本にいるアクターを介さず現場判断での射撃ができる利点でラグを無視している。

 つまり、千早にとっての与一は無用のAIがくっついているだけの、静止物以外は撃てない狙撃銃になってしまっていた。

 完全に良さが死んでいる。


 がっかりしつつも、手放すには少々惜しい銃だ。

 遠距離から一方的に撃てるのだから、機体を壊される心配が少ない。どうにか当てられるようになれば心強い味方になるだろう。


「どうしよう……」


 AIとのリンクができる機体はいくつかある。

 軽ラウンダー系のサイコロンあたりなら、オールラウンダーの上位互換として動かせるだろう。広い視野で索敵にも秀でるため、不意打ちを食らいにくいのも助かる。

 サイコロンの貸出機に乗り換えを検討すべきかもしれない。そう思いながらも、優柔不断な千早はグダグダ悩んでいた。


 第一に、サイコロンは高価な機体だ。オールラウンダーに比べて安い機体などそうありはしないが、サイコロンは映像解析機能や映像からの精密な姿勢制御機能など、映像や画像関連の機能が多数搭載された機体である。

 狙撃銃を使うとしても、相手が多数だった場合には接近される。そうなれば、広範囲を一度に攻撃するために手榴弾を使うこともあるだろう。

 早い話、爆発物を多用している千早とは相性が悪い。


「も、もしかして、狙撃って、一人でやることではないのでは?」


 人目を忍ぶような理由がない限り、最低でも周辺への警戒と護衛を兼ねた相棒が必要だ。

 そう、コミュ障・ザ・ぼっちの千早に狙撃銃は過ぎたるもの。

 理解してもなお、千早は与一を売ろうとは考えなかった。


「い、いつか、使うかもしれないし……」


 貧乏性の千早はリスの冬支度のように与一を倉庫に預ける。リス同様、思い出すことはないのだろうと思いつつ。

 オールラウンダーを倉庫に戻して一段落つき、千早は一階のリビングへと上がる。

 階段を上っていると、ポケットの中でスマホが振動した。


「……修理頻度の高いアクターへの勉強会?」


 新界資源庁から送られてきたそのメッセージは、機体を中、大破させる頻度が高いアクターに対しての勉強会だった。

 勉強会と書かれているが、実際には注意と説教の意味合いが強い。


 新界開発はアクターだけが揃っていても意味がない。新界で直接の作業にあたるアクタノイドなしには成り立たない。


『だというのに、短期間に何機もアクタノイドを壊しやがって、どれほど繊細に作られて、どれほど丁寧に修理しているかを見学して反省しやがれ、不良アクター共め』


 そんな恨み節が聞こえてきそうな勉強会の内容に、千早は目を逸らす。


「だって、しょうがなかったんだもん……」

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