第十七話 傍から見るとバーサーカー
敵機を釣り出すことに成功したものの、千早の仕事は終わっていないらしい。
戦闘ができないジャッカロープを背に庇いつつ、骨董品と揶揄されるオールラウンダーで二機を相手取る必要がある。
無理に決まっている、と千早は及び腰だった。
重心が後ろに下がった千早の体勢を読み取り、オールラウンダーが後退する。
オールラウンダーの後退に合わせてジャッカロープも後ろに下がっていき、キーパーたちがハフロンディスを迎撃する戦場に背中合わせになった。
「おい、あまりこっちに寄るなって」
苦情が来て、千早は涙目になる。
「ごめ、ごめんなさい」
戦闘の邪魔をした申し訳なさから、なんとか誤魔化せないかと千早は各部のモニターを見る。
目についたのは巨大なワニのような生物ハフロンディスの死骸。キーパー達を抜けてジャッカロープを背後から奇襲しようとして、サイコロンの振り返り撃ちで殺された個体らしい。
硬い頭部ではなく胴体に数か所の銃創がある。非常に硬いハフロンディスの鱗は射程内でも銃弾が弾かれることがあるほどで、自然と接近戦に近い様相を呈している。
そんな戦場に後ろから詰めたのだから、千早の動きはかなり迷惑だっただろう。
千早は胃痛を激しくしながら、オールラウンダーでハフロンディスの死骸を持ち上げる。
名目上は建設機械だけあって、オールラウンダーは巨体のハフロンディスを軽々と片手で持ち上げた。
ジャッカロープが注意してくる。
「敵、距離七百。まもなく射程内です」
「ふひっ」
もう一か八かやるしかない。機体が損傷したら赤字も覚悟しなくてはいけない状況に千早の緊張はさらに増していた。
千早のオールラウンダーがハフロンディスの死骸を掲げて盾にしながら敵機の方角へ走り出す。
ジャッカロープは戦闘を避けるため、キーパー達のそばに残っていた。
迷彩カラーの機体が接近してくるのが木々の隙間から見える。特徴的な板バネの脚をもつ速度特化の機体リーフスプリンターだ。その後ろにはドローンでの援護を行うコンダクターの姿も見え隠れする。
リーフスプリンターが拳銃『穿岩』を構える。走りながら千早のオールラウンダーへ銃撃を浴びせ、さらに距離を詰めてきた。
全体の数的不利を覆すために、オールラウンダーを無理やり後退させてハフロンディスの群れと挟み撃ちにするつもりなのだろう。
距離を詰めるほどにハフロンディスの胴体を貫通したピアシング弾がオールラウンダーの装甲にあたる。
弾が装甲を貫通しないかと冷や冷やしながら、オールラウンダーを操作して片手で突撃銃を撃つ。片手で保持した状態ではうまく狙いが定まらず、リーフスプリンターは構わずに距離を詰めてきた。
もはや撃てばあたるほどの距離まで詰めてきたリーフスプリンターに対し、千早は盾にしていたハフロンディスの死骸を捨てて後退する。
ピアシング弾が貫通するため盾の用をなさなくなったから捨てたのだと、リーフスプリンターは判断したのだろう。
追い打ちをかけるように拳銃を構えたリーフスプリンターを無視して、千早はそばの巨木の裏にオールラウンダーを滑り込ませた。
当然、リーフスプリンターが後を追い、ハフロンディスの死骸のそばに進んだその瞬間――死骸が爆発した。
至近距離での爆破の衝撃にリーフスプリンターの脆い板バネ脚が吹き飛ぶ。
「死骸のお腹に手榴弾入れたの!?」
ジャッカロープのアクターが驚くと同時にえげつなさにドン引きする。
しかし、千早の耳には届かない。
まだ戦闘は終わっていないのだから。
木の陰から飛び出した千早のオールラウンダーはワイヤーアンカーをリーフスプリンターの残骸へとすれ違い様に打ち込み、残る敵機へと走る。
直接の戦闘能力を持たない敵機のコンダクターは慌てた様子でドローンを盾にしつつ背を向けた。
リーフスプリンターがやられた時点でもう勝負はついた。撤退して機体の保全に動くのは当然の心理だろう。
少なくとも、千早ならば撤退する。
だから、コンダクターの動きは読んでいたのだ。
ランノイド系であるコンダクターよりもオールラウンダーの方が速い。
千早はワイヤーアンカーの巻き取り機を作動させ、加速させたリーフスプリンターの残骸をコンダクターの背に叩きつける。
盾になって備え付けの銃を乱射していた大型ドローンはリーフスプリンターの残骸に蹴散らされて墜落する。
千早のオールラウンダーは走り込んだ勢いそのままにコンダクターへと体当たりをして地面に倒した。
「……ふへへっ」
ガンッ、と千早のオールラウンダーが機械の脚でコンダクターの両肩を踏みつける。
屈んだオールラウンダーは両手でコンダクターの背部装甲に手をかけ、バキバキと引きはがした。
コンダクターの内部基板や部品が白日の下にさらされる。
千早のオールラウンダーはコードをぶちぶちと引きちぎりながらコンダクターのブラックボックスを奪い取り、行動不能に追い込む。
緊張から不気味な笑い声を上げながら。
「ふひひひっ、勝った……ふへ」
ボイスチャットで聞かされていた周囲がどう思うかを考える余裕もないままに……。
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