第十三話 戦利品
「さぁ、お次はこちらぁ、ふへっ」
機関銃搭載のベルレットの腕を取り外しながら、千早は不気味に笑う。
新界において、アクタノイドのパーツは高く売れる。滅菌した状態でなければ新界に送れないため、いつだって品薄なのだ。
千早がいま使っている貸出機のオールラウンダーも共食い整備で動くようにしているくらいだ。
つまり、撃破したこのベルレットは余すことなく部品という名の換金物である。
「降伏勧告ができれば爆破で壊れない部品もあったんだけどなぁ」
ちょっともったいなかったと思うが、共倒れよりもいい結果だ。
ユニゾン人機テクノロジーのサイコロンやフサリアは後で回収部隊が来るという。千早が操作するオールラウンダーはそれなりに力持ちだが、ベルレットに加えて他の四機まで運搬するのは無理だ。
「わ、ワイヤーでまとめてー。ん? なんかメッセージ来てる」
アクターズクエストに入ったメッセージを見ながら、分解したベルレットを背負ったオールラウンダーをワイヤーの巻き取り機能でクレバスの上にあげる。
メッセージはユニゾン人機テクノロジーからだった。
襲撃者、ベルレットについて、ブラックボックスを含めて丸ごと買い取りたいという。
ブラックボックスに記録された通信記録を見れば、所属が判明するかもしれない。偽装されている可能性が高いものの、部品などからも読み取れる情報はある。
千早は少し考えたのち、了承する。
部品を売る場合、最寄りのガレージまで持っていく必要がある。そこで使える部品を選定、価格を評価してもらうことになるだろう。
だが、ここでユニゾン人機テクノロジーと取引してしまえば運搬する必要がない。さらに、使えない部品を買い取ってもらえる。なにしろ、どこの部品を使っているかを調べるのが目的であって、再利用は二の次だからだ。
ちなみに買取価格は百五十万らしい。手榴弾で爆破したベルレットの値段としては適正より少し高いくらいだろう。スプリンター系の持ち味である脚の部品などは落下の衝撃で歪んでしまっており、再利用もできない。
クレバスから離れた千早は他に襲撃者が来ないとも限らないからと、大破したサイコロンやフサリアを安全な場所に運び込もうと決める。
ちょうど、レアメタル鉱床の調査に使う機器を積んだ運搬車両があるのだからそこに入れてしまおうと、千早はオールラウンダーを進めた。
森のそばに運搬車両がある。和川を遡ってここまで走らせてきたその車両は小型車程度の大きさだ。
そんな運搬車両が横倒しになっていた。
「……ふ、ふひっ」
運搬車両の中身を引きずり出しているシダアシサソリを見て、千早は乾いた笑いをこぼす。
シダアシサソリが引っ張り出したそれは、掘削用爆薬だった。
どう考えても、あれは危ない。銃でも撃ち込もうモノなら大爆発だ。雪崩が起きてもおかしくない。
千早はオールラウンダーを静かにクレバスの中へ避難させた。
「なんでいるの……」
呟いて、千早はオールラウンダーの照明を消し、コーヒーを手に取る。
「おちつけー、向こうは気付いてないんだし、大丈夫」
案内の依頼は受けたが、積み荷を守る依頼は受けていない。あの掘削用爆薬がどうなろうと千早の知ったことではない。
そろりとクレバスの縁からオールラウンダーの頭を出してシダアシサソリの様子を窺う。
食べ物がないと分かったのか、シダアシサソリは尻尾に掘削用爆薬を引っかけたまま運搬車両から離れていった。
あの爆薬がどこへ行くのか、それはシダアシサソリのみが知る。願わくば、不発地雷のように埋まらないでいて欲しい。
一応の義理として、ユニゾン人機テクノロジーに動画を送る。
千早がベルレットの回収にこだわらず保全に動いていれば掘削用爆薬が奪われる事態にはならなかっただろうが、詮無いことだと向こうも分かっているらしく、情報提供に感謝しますとだけ返ってきた。
責められないで済んだことに千早は胸をなでおろし、オールラウンダーをクレバスの上に持ち上げてアクタノイドを運搬車両に詰め込む。
しっかりとドアを閉めた後、周囲にワイヤーを張ってシダアシサソリの襲撃を警戒しつつ、千早は夜明けを待つことになった。
「い、いつまでも気が抜けない……」
依頼を完了して突発的な戦闘にも勝利を収めたというのに、緊迫感が何ら変わらない。
それでも、戦うのはオールラウンダーであって、生身の千早ではない。命をかけなくて済むだけマシだろう。
せめて美味しいものでも食べないとやっていられないと、千早は夜食に出前を頼むことを決める。
依頼報酬に臨時収入も込みで大幅な黒字なのだ。今日くらいは贅沢が許されていい。
「……でも、この時間に食べて太るのも……そもそも、出前の人に会いたくないし……うーん」
優柔不断にグダグダと悩むその姿は、ベルレットのアクター菅野木が想像する決断力と判断力に優れるアクター像からはかけ離れていた。
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