第九話 直接依頼
和川ガレージにオールラウンダーを入れ、依頼主の新界化学産業宛てにセカンディアップルを発送する。
和川ガレージの近くに研究施設があるらしく、そこで成分分析や遺伝子解析を行うらしい。専門的なことはさっぱり分からないので、千早は指示に従って梱包するだけだ。
報酬の振り込みは明日とのことで、千早はオールラウンダーを政府がもつ倉庫に入れる。
使用した弾薬やバッテリー残量を計算してもらい、費用を支払う。総額十万円の費用は馬鹿にならない。
下手に銃を撃つと赤字になるとは聞いていたが、シダアシサソリとの戦闘だけを切り取れば完全に赤字だ。しかも、突撃銃による射撃は腹部へのトドメ以外まったく無駄だったのだから、少々泣きたくなる。
口座引き落としですぐに支払うのもなおさら世知辛い。
「早く報酬をください……」
ソファベッドに寝転んで、呟いた時、千早のスマホが鳴った。
アクター向けアプリ『アクターズクエスト』のアカウントに連絡が入ったらしい。
なんだろうと疑問に思いつつアカウント管理画面を開くと、新界資源庁からのメッセージと直接依頼が来ていた。
メッセージの内容は、依頼中に偶然発見したレアメタル鉱床の競売の結果について。
まさか昨日の今日で売却されるとは思っていなかった千早は、臨時収入にニヤニヤしながら明細を見て、ソファベッドから跳ね起きる。
「……二百万円!?」
ただの位置情報に二百万円の値がついていた。
座標を公開していないため、鉱脈を独占できるからかと千早は納得する。
レアメタルの鉱床としては安いのかもしれないが、新界資源庁があらかじめ評価額を定めてから競売にかけているため、相場以上なのだろう。
いずれにせよ、一個人である千早が一日で手に入れる額としては大金だった。
「……税金怖いなぁ」
小市民である。
しばらく呆けていた千早だったが、お茶を飲んで一息ついた後で直接依頼を見る。
新界資源庁を経由して届いた依頼だ。レアメタルの鉱床の位置情報を落札した企業から、現場までの案内をして欲しいとの依頼だった。
発見者情報の公開を避けるために競売にかけた以上、企業側に千早のアカウントが知らされていない。そこで、新界資源庁に仲介してもらったとのことが依頼の備考欄に書かれていた。
「依頼主は『ユニゾン人機テクノロジー』かぁ……吐きそう」
『ユニゾン人機テクノロジー』はアクタノイドの設計開発製造を行う国内企業だ。
アクタノイドの開発に注力している新しい企業だが、すでに実績も積んで国内に名が知られている。
この企業が開発したアクタノイドは、サイコロのような頭を持つラウンダー系アクタノイドの『サイコロン』やリオのカーニバルと揶揄されたランノイド系アクタノイドの『フサリア』など、見た目の癖が強い。
その癖のある見た目でネタ扱いされるアクタノイドを設計してばかりいるが、情報処理系では破格の強さを誇り、アクターの間では評価が高い企業でもある。
デビューして数日の新米アクターである千早が関わる相手としては、大きすぎる。
ばたり、とソファベッドに倒れ込み、千早は悩んだ。
次の依頼は決まっていない。家賃などは先ほどの二百万円のおかげで余裕があるものの、アクタノイドは弾薬費などでコストがかかり、アクターを続けるなら次々に依頼を受ける必要がある。
ぶっちゃけ、自転車操業がアクターの実態だ。
「断る理由はないんだけど……」
鉱床までの案内なのだから、当然他人を連れていくことになる。コミュ障の千早には荷が重い。それ以上に気が重い。
報酬次第だと、画面をスクロールする。
手付金二十万円、現場までの案内を完了すれば五十万円。必要経費は手付金に含む。
期間は三日。千早はオールラウンダーで現場との往復をほぼ一日で終わらせているが、ユニゾン人機テクノロジーのアクタノイドや採掘機械の運搬車の速度を加味すれば妥当な日数だろう。片道案内でもあるので、一日分の予備日も含まれていると考えられる。
条件としては普通だ。シダアシサソリなどもいるが、案内人の千早が戦闘に参加する義務はない。つまり、弾薬を消費しなくて済む。
自衛のために弾薬を消費しても、五十万円以上の利益は出る計算だ。
「断れない……」
ごろごろとソファベッドの上で転がりながら、千早はグダグダと悩み続ける。
ついでに依頼主のユニゾン人機テクノロジーについて調べてみる。
アクター向けのアプリであるアクターズクエストで検索すると、ユニゾン人機テクノロジーの公式アカウントがあった。
「依頼を発注するんだから、あるよね。へぇ。アクタノイドの貸し出しもしてる……」
いつの日か、お世話になることもありそうだ。ならば今回の依頼を断って心証を悪くするのも良くない。
「アカウントを作り直す手もあるけど……」
実績を全部なかったことにして再出発するアカウントの作り直しであれば、心証を悪くしても個人情報を抜かれない限り問題が起きない。
ユニゾン人機テクノロジーが発注した依頼の一覧を見ていた千早はあるデータを見て手を止める。
「アクタノイドの損耗率が高い……?」
依頼に参加したアクタノイドの三割か四割が大破する依頼が断続的に起きている。全滅した依頼もあった。
どうやら、新界奥地の開発にも積極的に動いているらしく、性能調査を兼ねた依頼も発注しているためアクタノイドの損耗率が高くなる傾向があるようだ。
だが、データを見ているとどこか引っかかりを覚える。
「なんだろ。わ、わかんない」
散々にうだうだグダグダした挙句、千早は依頼を受注した。
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