第21話 エピローグ!!
同時刻。
『学園都市』九十一地区・第五居住区男子寮屋上。
「ああ。あなたは誰ですか?」
いかにもつまらなそうに、整然と並んだ校舎を眺めていた黒いフードの少年は、背後の気配に問いかける。もちろん振り返ることはしない。答えを期待してすらいない。つまるところ彼の誰何はただの気まぐれに過ぎなかった。
「剣柄白羽。怪獣狩りだ」
「・・・・はは。聞いてない情報までしゃべっちゃって良いんですか?名前くらいなら大丈夫だなんていうのは今の時代非常識ですよ。全ては変遷するんです。全ては変わりゆくんです。万物は流転するんです。同じ川に二度入ることはできないんですよ。ましてや自分の身分まで明かして、一体何がしたいんです?怪獣狩りと聞いて、僕が逃げ出すとでも思いましたか?あるいは先手を打つとでも?」
「特に理由はない。強いて言うなら気分の問題だな」
「そうですか」
少年は身をひるがえし、剣柄と向き合う。フードの端から覗く真っ白の肌。色を失った口唇が三日月形に歪められる。
「ええでもしかし、せっかく名乗ってもらったところ申し訳ありませんシラハ」
少年が次の句を継ぐまでの間、その数瞬の刹那。
剣柄は音もなく右足を踏み込んだ。おおよそ一歩で少年の眼前に迫り―居合切り。
渾身の力をもって振り抜かれた一撃は少年の腹部をえぐり、果ては断絶させるだけの威力を持っていた。確実に彼を絶命させるだけの力を持った斬撃。それはしかし当然ながら、対象に当たったときの結果予測に他ならない。
つまるところ。
「―――⁉」
彼女の日本刀は少年の背後にあった落下防止の柵を切り裂いていた。
そこに少年は居なかった。
意識の、外。そこに彼は居た。
とっさに刀を捨て、体勢を整えようと体をたわませる剣柄。
―瞬間。
彼女の口から、目から、耳から、鉄臭い液体が漏れ出始めた。くすんだ色のアスファルトに毒々しいほど真っ赤な花が咲く。
体が震えて動かない。手を伸ばそうにも伸ばせない。踏み込もうにも踏み出せない。状況の理解が追い付かない。
力なく体を横たえた彼女。薄れゆく意識の中で最後に見たのは、少年のおぞましい『貌』だった。この世の理不尽を体現したような恐怖をたたえたそれは、確かに嗤っていた。
「これでは勝負になりませんよね。―腐っても千年級の業物。当たっていればひとたまりもなかったでしょうが」
―驟雨は少女の体を濡らしていく。
花は水に溶け、やがて地面に染みて消えた。
イヴィル! Q.怪獣はヒーローになり得るか? 明け方 @203kouchi
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