食う寝る遊ぶ

@ju-n-ko

第1話 食う寝る遊ぶ

 朝起きたら、干し草の上に寝ていた。

 『ハイジか‼』と思わず突っ込む。アルプスの少女。ネタが古い。

 大体、床はフローリングどころか踏み固められた土そのものだし、その上に直接寝ていたし(腰が痛い…)、着ていたはずのストライプの付いた綿のパジャマも、見事なまでに粗雑で染色など施されていない麻の服で…

 はい?服が変わってる?

 『朝チュン』じゃないな、これ。

 よく見れば建物はモンゴルのパオのような、けれど、材質は布じゃなく藁というか、小枝というか。

 床、1段掘ってある。

 これって、昔教科書で見た?

 「縄文時代じゃん!?」

 思わず叫ぶ。

 え?タイムスリップ?縄文時代に?

 異世界転生の方が100倍マシじゃん‼

 あ、あそこ、縄目の模様の土器がある。

 縄文決定‼

 じゃなきゃ、壮大なドッキリ。フラッシュモブ、出てこい‼

 パニッていても仕方がないので、ノソノソと家を出る。

 自分を入れて5軒の集落、全て竪穴式住居。

 家を出た途端潮の香りがした。正面海岸。現代人の感覚上、超不用心。津波じゃなくとも、台風1発で消し飛びそう。

 その海岸で、人々が座り込んでいた。

 手を引かれ示されたのは、貝の採集。

 ああ、貝塚作成、分かりました♡(作成が目的じゃない)

 こうして彼(彼女)は時代に飲み込まれる…


 


 さてさて、パンダはなぜ竹を食べるか?

 本来は雑食の熊であるパンダは、進化の過程で『生き残る』ため、そのメインターゲットを竹に変えた。

 竹から栄養を取ることは難しい。効率が悪い。でも、お陰でライバルがいない。

 だから、あのかわいらしい風袋で竹を食べ続ける、不可解な生き物が爆誕した。

 現代動物園ではその限りではないが、パンダは食べ続けねばならない。休まず食べねば十分なカロリーが取れないから。

 で、縄文時代。

 彼(彼女)は食べ続けている。

 原因はメインターゲットである『貝』。

 貝ってカロリー少ないんだよね。いくら食べても十分にならない。

 このころになると視界に謎のバーが見え始め、HP(ハングリーポイント)は常に半分以下だ。

 下に落ちた1円を拾うために使うカロリーは2円分、と言うが、まさにそんな感じなのだ。

 労働とカロリーが見合わないよ⤵

 とにかく食べる。最近じゃ煮炊きも面倒で、そのまま生食する。縄文の海の清浄さを信じたい。

 でも、食べて寝るだけで精一杯で、グルグルの無限ループだ。もっとカロリーのあるもの(魚とか獣とかだね)を食べないと余裕が出ないのに、それを採りに行く時間も体力も残らない。

 ある日、限界だったのか普通なら絶対に食べない、真っ赤な貝に手を出した。殻を割って、身まで赤い、それを食べると?

 『幸運が1上がりました。』

 頭の中で声が響く。

 お?

 貝にスキルポイントついてるの?

 これが転生(タイムスリップ)特典ってやつ?

 直後、虹色に輝く、明らかに何か濃厚な貝を見つけた。

 期待と不安の中口に入れると?

 『特別ボーナスポイントが入ります。HPが1000入ります。』

 最近気づいた。

 HP(ヒットポイント)じゃないHP(ハングリーポイント)は、要はカロリー。

 満タンで3000。超肉体労働者だ。

 今まで1000以下をうろついていたバーが、初めて半分を超えた。

 貝には特別なものがある。

 うひょーっ‼

 よーし、採ったる‼この辺りの(特別な)貝、採りつくしたる‼

 その後、おなかを壊し1日休んだ。

 貝には毒のあるものもある。

 学習した。




 その後順調にラックを増やした彼(彼女)は、虹色の貝を2連続で引いた後、新たな採集に挑戦した。

 効率の悪い貝は捨てて、海で魚を釣ってやる‼

 いやいや、本当は捨てないよ。貝はお魚の餌にします。

 将来的に貝塚になる予定のゴミ捨て場から、ごっつい魚の骨を拾う。これが釣り針になります♡

 観察していて気が付いた。村から少し離れたところに、海に突き出す形の岬があり、仲間はそこで釣りをしていた。

 彼(彼女)以外の村人は、それぞれが家族のようだ。1つの家に数人で住み、手分けしているから余裕もある。

 独り者はつらい。

 でも、訳が分からずここに来た挙句、

 「ダーリン、わたしが妻よ!」とか、

 「ハニー、俺の可愛い嫁よ!」みたいに迫られたら厳し過ぎる。

 独り身万歳!

 とにかく釣りだ‼

 竿(竹製)も針も作ったし、糸は麻をより合わせたので若干どころじゃなく不格好だが、魚も純粋なこの時代、そしてラックも100超えの自分なら大丈夫だろう。

 幸いにも5匹釣れた。巨大な真鯛だ。

 超ラッキーと小躍りする。

 村に帰ると、他の4軒の人がこちらを見ていた。

 『仲間になりたそうにしている?』

 縄文時代はホスピタリティーにあふれた時代だ。

 けがや病気で動けない人を見捨てない。

 大けがを負ってから何年も成長が観察される(誰かが面倒を見た?)人骨など、発掘されている。 

 だから分けた。

 みんなで分けた。

 うん、こっちは1匹あれば十分だよ。

 以後、彼らからもおすそ分けがもらえるようになり、生活はより一層充実した。




 転生、またはタイムスリップから1年ほど。

 いろいろあった。

 ホント、いろいろ。

 案の定直撃した台風で命からがら村中で逃げたり、森でイノシシに遭遇したり。

 ここに来て初めてHPがフルになったその日。

 彼(彼女)はまた転生する。




 「Sランクハンターの〇〇だ‼」

 「なんだ、あれは‼」

 「まさかドラゴンか‼」

 続いての転生先は普通(?)の異世界。

 縄文時代に食べた貝の数がそのままG(ゴールド)になったから、最初から超お金持ち。

 ラックの数値もそのまま持ち越し、HP(今度はヒットポイントです)も3000のままだったから、完全無双状態だった。

 この世界、一般人のHPが100くらい、1000もあれば英雄だってさ。

 俺(私)TUEEE。

 ただ普通の異世界だから、寝込みを襲おうとするやつがいて(財産狙い)、ハニートラップや暗殺や、殺伐としたことも多い。

 多過ぎる。

 時々あの海辺が懐かしくなる。

 富めるものが生まれると、その富をめぐって争いがおこる。

 あの海辺は今も平等だろうか?

 今自分が戻ったら、そこに貧富の差を生んでしまい社会を発展させかねない。

 ある1点において、『発展』は『正義』ではない。




 その夜、今1度起こった転生の機会。

 今度は選ばせてくれるらしい。

 どちらの世界を選びますか?




 元の世界に戻る選択肢がないことは…

 超、お約束だった。







 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

食う寝る遊ぶ @ju-n-ko

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ