【アネクドート7】先進国の人と発展途上国の人と未開の地の人が対話することになり、発展途上国の人が遅れて来た。

【先進国の人と発展途上国の人と未開の地の人が対話することになり、発展途上国の人が遅れて来た。

発展途上国の人「すまん、今度導入された少女愛禁止法とかいうものでうちの家族写真が規制に引っかかるかもとか言うから警察と揉めてな」

未開の地の人「少女愛禁止法ってなんだ?」

先進国の人「少女ってなんだ?」】



 同じ頃。黄金の昼下がり学園では異変が発生していた。

 体育の授業中、校庭での徒競走でのことだった。

 スタートの合図と同時、間戸井剛太はゴールにいた。

 またしても瞬間移動したのだ。傍らには、寄り添っていた飯里沙奈々が不可視化を解いて現れる。

 いつものように、〝EPRパラドックス〟での反則だった。いつものように、担当の体育教師はパートナーに叱られながらもブルマ女子たちをガン見していた。

 いつものように、同級生たちはクスクス笑声を漏らす。そこに、剛太と沙奈々は早まったピースサインを送ってしまった。

 ところがいつもと違って、教師は気づかないままだった。

 ツッコみ待ちのまま一分ぐらいが経過して、笑いが止んでいった。温まりかけた空気が南極の如く凍ってしまったのだ。


 剛太は苦悩の果てに、担当教師の肩を自ら叩くはめになった。

「……あ、あの。先生、お、おれたち今……」

 苦渋の決断だった。悔しそうに、剛太は唇を噛む。満身が震えていた。

 彼の体操着の裾をギュッとつかみ、沙奈々は涙ぐんで、恋人に代わって自白した。

「〝EPRパラドックス〟のロリサイで、反則をしやがりました!」

「え?」

 担当教師のおっさんは、困ったように言及した。

「ごめん、見てなかったからわからなかったよ。校長からも連絡なかったし」

 付近の森でカッコウがバカにしたように鳴く。白けた雰囲気が場を支配した。

 ……めっちゃスベッた。

 ウケを狙ったのに。剛太と沙奈々は、思いっきりスベッてしまったのだ。


 この些細な事件の連絡は、体育教師を通じて午後には副校長にも伝達された。内容は下らないとはいえ、学園長たちのロリサイが届かないことはめったにないからだ。

 いちおう、彼女は学園長室に様々な仕事のついでに出向いた際に報告もしてみたのだが、


「承知しているよ、すまなかったね。こちらも万能ではないし、プライベートな事情もある。それに――」


 などと〝光原輝郎〟が弁明した段階で「あっ」と誤解して、「すみません、でしたら結構です」と追及を中止し退出してしまっていた。

 学園長も〝若紫〟嬢も、スーツと振り袖という学校管理用のスタイルに着替えて普通にいたのだ。午前中に訪れたときの変な厚着はしていなかった。

 おそらく、謎のプレイに夢中になってしまったが故のミスだったのだろう。どうにせよ、悪戯っ子の生徒たちがスベッただけだと。

 思い直して、副校長は輝郎と若紫があの防寒着姿でどんな行為をしていたのかといろいろ妄想しながら去ったのだった。


 冗談はさておいても、珍しくはあるが実際にこれまでも学園長たちが完璧というわけではなかった。

 黄金の昼下がりゴールデン・アフタヌーン学園が創設されてからの数十年で、数十回はこういうこともあった。だいたい年一回のペースでミスはある。

 彼らの能力の制限のためでもあるが、ほとんどの事例は正午騎士団の手に余るほどの白雪姫の鏡スノーホワイトらロリテストや少女愛嫌悪者ロリフォビアなどによる突発的な紛争に緊急で対処し、校長の管理がおろそかになった場合だ。

 副校長の妄想もまんざら嘘ではなく、校長たちも人間なので学校運営中にたまに気を抜いてトラブルを見過ごしたこともある。なにより本来は、ネオテニーでもある授業の担当教師が自身のサイで生徒の反則的なロリサイを抑制するのが基本だ。新任の体育教師の大人が特別ぐうたらなだけ、という問題もあった。

 なのでこの時点ではまだ、背後に潜む重大な出来事の予兆に副校長は気付けていなかったのだ。



「べらんめえこんちくしょー、やってらんねーぜ!」

「ホント、なにしてたのよ校長ジジイってば!!」


 夕食時。

 学園の食堂に併設されたテラス席で、剛太と沙奈々が今日の失態を飲みながら愚痴っていた。ジュースで。

「まあまあ」

 同じテーブルに着く戸塚輪恵兎が、自分たちへのロリコン扱いへの反感を込めながらもいちおうの友人を宥める。

「しょせんこんな学校の校長なんてそんなもんでしょ」

 パートナーで一つ歳下でしかない赤山春伽も、同様の心境でからかう。

「だよねぇ。あるいは、悪戯が過ぎるからわざと懲らしめられたのかも~」

「そりゃないぜ!」炭酸を飲み干したジョッキを乱暴に卓上へ置き、剛太は吼えた。「直接怒られたほうがマシだよ!!」


「ど、どうしたんですか?」


 唐突に、四人しかいなかったテラスに五人目の声が割り込んだ。元の四人が見ると、食堂から通じる扉を開けた格好で固まる二人がいた。


 悠斗と富美香だった。


 話しかけてきたのは少年側だ。

 さらに先客たちは、来客らが先日見学をしていた二人ということも思い出した。なにより、スベッたときの剛太は誰もがほっといてやりたくなるほど哀れだと周知されていたので、既存の生徒たちで他にテラスへ出る者はいなかった。パートナーと、特に親しい友人のカップルを除いては。

 そこまでは富美香も知らなかったために、前回の機会で見学し忘れていたここを何となく恋人に紹介してみて偶然遭遇したというわけだった。


「あっちゃ~、恥ずかしいとこ目撃されちゃったわね」

 恵兎が、わざとらしく剛太に目をやる。

「お、おう」慣れ親しんだ相手以外の登場に、居住まいを正して彼は応対した。「前に席を譲った後輩か、いや悪い。たいしたことじゃないんだ」

「剛太がボケでスベッったことをジュースで酔っ払った振りして愚痴ってただけよねー」

「って、おおーい!」

 春伽が詳細に暴露して、された側がツッコむ。が、悠斗は別なことに着目した。

「席を譲ったって。もしかして、見学の昼食のときの?」


 思い当たる節があった。

 あのときは、なぜか混雑していた近くの席が不自然に二つ空いたので座ることができたのだ。そこに、恵兎と春伽が招いてくれたのである。

 言われてみれば、そのとき椅子から退いた二人は剛太と沙奈々に似ていた。


「いかにも」ない胸を張って、沙奈々は自慢した。「路頭に迷ってたあなた達があんまり哀れだったから、あたしとゴリラダーリンが譲ってあげたんだよ!」

「そうだったわね、忘れてたわ」補完したのは恵兎だ。

「「忘れんなよ!」」

 剛太と沙奈々のそろったツッコみを華麗にスルーして、春伽が続けた。

「あたしたち四人、だいたいいっつもつるんでる友達同士なのよー」

「へえ~、そだったんだぁ。新情報ゲット♥」

 富美香が、目を真ん丸にして新鮮な驚きの声を上げる。どうやら、そこについても無知だったらしい。


 彼女の学園内の知識は、引きこもりがちではあっても退屈した際に正午騎士団の助力で不可視化してそっと寮の外に遊びに行くうちに、みんなを観察してどうにか身につけたものだと悠斗は本人に聞いていた。こんな近間でも未知のことはまだあるのだろう。

 新たな真実を学習できて、富美香は嬉しそうだった。そんな喜びに、パートナーも共感していた。


「じゃあ今日から♥」キティとツインテールをもじもじと揺すりながら、富美香は切り出した。「あたしたちも、友達にしてくれないかなぁ♥」

 いきなりの提案だった。だが、いい案だと悠斗も思った。だから乗った。

「なら、おれからもお願いしたいな」

「もっちろん、いいよー!」

 真っ先にあっさり受け入れたのは春伽だ。

「あたしもよ、あのときから話してて楽しかったしね」

 パートナーの恵兎も了承してくれた。

「おれも全然いいぜ」剛太も許諾する。「断る理由もないしな、情けないとこ覗かれちまったし」

「なら、今日から沙奈たちと腐れ縁のお友達だねっ」

 沙奈々は、さっそく新たに迎えた外見上歳の近い友人の両手を取って嬉々として飛び跳ねた。すぐに、冨美香も応じてはしゃぎだす。

「いえーい。嬉っしい、ありがと。いっぱいサービスしちゃうよ!!♥」

 歓喜するパートナーの富美香に心温まる気持ちになって、悠斗も改めて先輩の四人に挨拶をした。

「おれもありがたいよ。まだ論理超能力も扱えてないけど、不思議の国ワンダーランドに定住することは決めたから。これからよろしく!」

 剛太と沙奈々と恵兎と春伽は、快く歓待してくれた。


 悠斗と富美香は両想いであるとは認めたものの、ネオテニーとして論理超能力には未だ覚醒していないとされている。ここには、少女愛を差別しないだけでネオテニー用ではない学び舎もあるので、今はそちらに通っていた。

 少女愛者が必ず恋人を得ているわけでもないし、子供同士の歳の差カップルもいる。さらには護身の術たるサイもない少年愛支持者ロリショタンらも同類としてまとめて迫害されているので、みな同様に匿われていた。

 彼らの家族や、少年愛者や少女愛者の当人ではないもののそれらを擁護する世界各地の多様な人々も、迫害から逃れて山内部の街に住む者たちがいるのだ。

 これが、不思議の国だった。

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