【アネクドート5】世間の風潮を受けて、これまで気にしていなかった子供の頃に撮影された写真や動画で傷ついたと思うようになった大人たちが集まっていた。
【世間の風潮を受けて、これまで気にしていなかった子供の頃に撮影された写真や動画で傷ついたと思うようになった大人たちが集まっていた。
そこに天使が降臨して言った。
「ここに傷ついた子供がたくさんいるというので、助けに参りました」
人々は喜び、口々に自分の被害を訴えた。
ひととおり聞いたあとで天使は言った。
「なるほど。それで傷ついた子供は、今、どこにいるのですか?」】
「キローめ、やはりか」
遠く離れた
彼は『黄金の昼下がり学園』についてはもちろん、裏が最大の対立組織である
長たる光源氏と若紫が自ら動くことはめったにない。まさかと案じて、無限に拡張した聴力でそこへの盗聴を試みていたのだ。
いつもならそんなものは向こうのロリサイで阻まれる。しかし、今回はあえて防御がはずしてあった。
証拠に、綺羅坂富美香と傘枝悠斗の関係に触れられた時点で会話は聞けなくなった。
富美香がいるのも彼女の正体も承知していたし、可能な限り行方も追跡していた。そのパートナーが出現するのが最も恐れていた事態だからだ。
あの少女は曾祖母の魅力を存分に受け継いでいる。祖母や母親もそうだった。
ために少女愛を迫害する世界連合は恐れ、密かに監視警戒し隙あらば確保や暗殺をしようとしていた。
望んでアイドルとなり最も輝いていた時期に少女アイドル規制法で〝無理やり活動させられていた被害者〟と勝手に大人たちから決められ、自身の全作品とまとめて文化史から葬られた富美恵の悲運。
それを伝えられてきた子孫たちは窮状から逃れようと、やがて最大のネオテニー組織である
以後、代々彼女らは不思議の国で保護されてきた。
どんな人間をも少女愛者にしてしまうとさえ賛美される冨美恵の血筋は、全ネオテニーにとって重要だ。経験した悲劇から、目覚めるロリサイも期待されていた。
仮にそこまでのものでなくとも、知名度から宣伝効果としても活用できるだろう。
だが、あくまで少女と大人の本心からの両想いでしかサイは身に付かない。富美香の代まで、富美恵の子孫の女子がそういった恋に落ちることはなかった。
それが、ここに来て実現したらしい。
「大丈夫ですか、王子様? なんだか具合が悪そうですわ」
いつからか、白雪姫が傍らにいて憂いていた。玉座の手摺りに力を込めていたアルベルトの拳に、そっと新雪のような掌を重ねる。
「……心配させてすまない」アルベルトは空元気で頼む。「たいしたことではないんだ。少々外の空気でも吸って、いや空気はないが気分転換でもしよう」
途端、二人の姿はそこから消失した。
アジトたる地中の洞窟を抜け、地上に進出したのだ。草木もなく、岩石と金属を砂で彩られた灰色の大地。
彼らはヘームス山脈の頂上から、玄武岩の層で覆われた幾分暗く平坦な〝海〟と呼称される複数の地のうち、〝静かの海〟を望んだ。暗闇に、そこの大半だけ半透明の巨大なドームに覆われた建造物群に人工の照明が灯っていた。
月まで及んだロリ大戦で荒廃した跡地を修復するように世連主導で建国された、人類唯一の月面国『世界連合共和国』だ。いくらか普通の人間でも住める環境に
実際は月内部にも、非戦闘員かつ世界各地の一般市民含むネオテニーら少女愛を主な理由に迫害された者たちによる白雪姫の鏡が、大都市よろしく息づいている。
「忌々しい」世連共和国を俯瞰して、アルベルトは毒づく。「なぜ進化した我々が、これくらいしか連中と離別できんのだ」
視線を星空に巡らせた。
白い星々。内で巨大な、一個だけ青が際立つ惑星。
地球を睨みつける。
「なあキロー。光原輝郎よ、おまえは理解しているのだろう」
ここは月だった。
迫害に耐えかねたネオテニーたちも、ロリサイで旧人類たちから遠く離れた惑星を独自に
だのに。
そんなことができても、どのようなロリサイを用いても、どういうわけかネオテニーたちは、彼ら以外の人類が居住していることを認識できるところでしかそれを発揮できなかった。人類自体は火星にも到達していたが、住んではいない。
故にか、そこにも旅立てなかった。
〝旧人類の存在を把握できる範囲でないと論理超能力が機能しない〟
どうやらこれも、この才能の奇怪な摂理らしかった。
旧人類から最も距離を置こうとした白雪姫の鏡たちさえも、月内部に居を構えるのが精一杯なのだ。現在は地下の構造で、共和国の生活音や廃棄物、盗撮映像、換気された空気の一部を取り入れることで、あちらに住む人の証拠を実感できるようにしてやっとそいつを実現している。
『やあアル、盗み聞きはどうかと思うぞ』
忌々しい謎と対峙していた王子と白雪姫の脳内に、覚えのある軽口が響いた。馴れ馴れしい呼び掛けはテレパシーによるもの。今度はあちらから接触してきたわけだ。
『わざと隙を作っておいてよく言えたものだなキローよ、なんの用事だ』
予期していたのでたいして驚きもせずに、アルベルトは心中で応じた。
『盗聴を認めたってことかな』光源氏も見抜いていた。『なら、大規模な変化を把握済みのはずだ。久々に直接会って対話してみないか。二人で、――四人だけでだ。事前に君の使者たちにも言伝を頼んだはずだが』
ハンバートとロリータのことだろう。
ぎゅっと自分の手元への握力が強まるのを、王子は感じた。傍らの白雪姫とは目配せだけで意思疎通ができた。
結果アルベルト・プリンスは、地球の旧友へと回答したのだった。
『いいだろう。わしとおまえと双方のパートナーとだけでだな、提案に乗ってやる』
――光原輝郎は第二次世界大戦時アメリカに住んでいたため、敵性市民として日系人収容所に収監された。
戦後、それが連合国側の批判した敵対者ナチス・ドイツによる強制収容所と大差なかったことを学び、人の所業に疑問を抱いたのだ。さらにはナチスら特有の悪行のように語られた優生学に基づき人の優劣を決め、遺伝子的に劣っているとした人間を排除する差別がその後も戦勝国である連合国を始め世界的に継続していることに反発した。
やがて故郷である日本に渡り、優生思想に基づく優生保護法による障害者らへの迫害と戦っていたとき、アルベルトと邂逅したのだった。
二人は類似した過去と理念から当初は意気投合していた。優生保護法の犠牲者からおそらく原初のネオテニーが出現したのはそんなときである。
ほぼ同時期に、アルベルトと輝郎も白雪姫と若紫を得て覚醒した。
これらによって巻き起こった一連の事態はまもなく解決したものの、彼らは旧人類への対応を巡って争い、方針の相違から袂を分かち、現在まで対立している。
「あ、あのー」
地球では悠斗が、冨美香が冨美恵の曾孫だという真実に少しの間衝撃を受けていた。だが、我に返ったとき目を瞑って固まっていたのはなぜか光原輝郎の方だったので、恐る恐る問いかけてみたのだ。
「本当に本当なんですか、さっきの話。っていうか、いきなりどうしたんです?」
ややあって、校長はゆっくりと目蓋を開けてほざく。
「寝てた」
「はあっ!?」
実際は月の好敵手とテレパシーで会話していたのだが、まだそこまで明かす段階ではないのでものすごく下手にごまかした。
そんなことなど知る由もない男子高校生は、身を乗り出して抗議する。
「ふざけないでください! この子が冨美香の子孫で、ぼくも彼女も互いに惚れてるだなんて変なこと教えといて!! そそそそんなわけ……」
「動揺しまくりではないか。わらわらが読心もできるのは見学してきたはずじゃぞ」
言葉に詰まった理由を、意地悪く若紫が突いてくる。
悠斗の胸が高鳴った。
――冨美香が冨美恵の子孫という点については、ここに到って嘘をつく必要もないだろう。でなければ彼らのほとんどの言動を怪しまざるを得なくなる。
難題は恋愛感情だ。
恋ならしたことはある。あのネオテニーになり損なった夫婦に憧れていた頃の、同年代相手で過去のものだが。酷似した感覚が今隣にあることは自覚していた。
おっかなびっくり隣人を確認すると、恥ずかしそうな少女と目線がぶつかった。途端、自分も紅潮してしまう。
「ほらな!」その様を得意げに指差し、多少イラッとした悠斗を差し置いて学園長は提案する。「どうだね、この学校で一緒に過ごしてみては? 空き部屋もあるしな。無理強いはしないがね。帰るのならば、秘密を守るために記憶を一部サイで忘失してもらうことにはなるが」
男子高校生は悩んだ。
改めて、富美香を確認する。彼女は、期待の籠もった真っ直ぐな瞳を向けてきていた。
やべえ断る勇気もねー。……正直、嬉しくもある。
かくして悠斗は、光源氏と若紫にもう一度対面すると決断したのだった。
「しょ、しょうがないですね。試してみましょう」
一刻の後。『黄金の昼下がり学園』の一室で、悠斗は愕然としていた。
とりあえず学校に併設されている寮に泊めてもらうことになったのだが、個室と総室があり、校長によって前者を勧められた。というか、そこは冨美香の部屋だった。
彼女は、不思議の国の正午騎士団にも属するメンバー専用の寮に住んでいた。
寮内では有名人なようで、入寮するなり友達であろう生徒たちが彼女に挨拶してきたりして、悠斗もちょっと安心した。訊けば、自身や無関係な生徒を護るために、学園内でも騎士以外にはほとんど出自が内緒にされてきたのだという。
たまの遠出も厳重な警備の下という条件で許可されていたそうだ。悠斗と出会ったカトリック教会に偽装した拠点も、たまには旅行したいという富美香の希望で出向いた隠れロリシタンによるネットワークの一ヶ所だったらしい。
幸運か運悪くか、摘発された時期と重なったわけだが。
そこはまあいい。
富美香が重要人物だからだろう、部屋はよそと比べて広めだそうだ。いつパートナーが発見されてもいいように、当初から二人暮しが前提のようにも造られたらしい。
そこもまだいい。
なぜか風呂場はかなり透けてる磨りガラスで全面囲まれ、ベッドは小型のダブルが一台だった。
「ちょっと待てぇい!!」
状況をひと通り把握して、じきじきに案内してきた光源氏と若紫へとツッコむ。が。
「では、ごゆっくりお楽しみください」などと、校長はとどめを刺して新たなカップルを置きざりに戸を閉めた。
「言い方!」
即座に開けて文句をぶつけたが、学園長カップルはとっくにいなかった。
仕方なく、静かに扉を閉めるしかない悠斗。振り返るのが怖かった。
「えっと♥」鈴の音のような声色が、後ろから呼び掛ける。「どうしよっか、いけないこととかしちゃう?♥」
いやどうと言われても。
もっとも、もはや家に帰るつもりはなかった。
家族も少女愛への偏見を植え付けられてきた世代で、平然とロリシタンを差別していた。
少女愛狩りに反対する活動家が、他の愛では合法とされるのに少女愛では犯罪とされる範囲が不当に広域でもなおロリコンがそうした罪を犯すことは少なく、年齢に拘りのない人の一部による犯行こそ多数なる統計的データをネットなどに公表するゲリラならぬ〝ロリゲラ〟活動をしていたことがある。
家族はそれを目にしたこともあったが、主要な報道機関と同様に無視していた。初恋相手と憧れていた少女愛の前科があった夫婦への、手の平返しも酷いものだった。悠斗自身も、昨日までそんな実状へろくに疑問さえ抱かなかったのだ。
どんな人間に生まれどう育つかなぞ誰も選びきれないのに、自身や大切な人が少女愛者になるなどとは露ほども考慮しなかったのである。
だから
家族はすぐに、息子を警察のロリ端審問課に通報したようだ。誘拐被害者からテロリ容疑者へと転じるのも、ニュース速報で確認した。狩りを首尾よく進めるために、身内からネオテニーが出た場合は売り渡すのと引き換えに補償がもらえる制度もある。そちらが選ばれたというわけだろう。
まったく素早い対応だった。
「ち、ちょっとお互いのことを知るための話でもしよっか?」
とりあえず、幼い女の子相手に慣れない口調で悠斗は提案した。
「奥手だね、けどいいよ!♥」
富美香は、照れながらも嬉しそうに同意してくれた。
窓から窺える山林も茜色に染まり、夕暮れになっていた。
ダイニングルームの小振りなテーブルを挟んで椅子に掛けての短い対談だったが、それで悠斗もちょっとは富美香のことを学習できた。
「あたしは、物心がついたときからここで暮らしてたんだぁ――♥」
物語り始めた彼女は一人っ子で、親はいわゆる通常の大人同士だったそうだ。
だが夫婦は二人での密かなデート中。富美恵に似通った美貌の母親を怪しんで張っていた異端審問課の職務質問により、スマホに保存されていた少女写真の不法所持罪で逮捕されたという。
とはいえ、被写体は富美香でさえなかった。母親自身が若い頃のもので、摘発対象となる子供といわれる年齢ですらない冤罪だったそうだ。
裁判では、昔から医者が間違えてもいた外見から18歳の一秒前と後がわかるわけもないいいかげんな手法で年齢を推定し、有罪にしたという。そも、医者でなければわからないのならなおさら一般人に判断は難しいのに、見極めて少女の動画や画像を処分しろと強制している社会が無茶なのだが。
ともかく、富美香の両親は強制収容所暮らしを余儀なくされ、ロリ異端審問課の拷問による自白強要までされたらしい。それでも彼らは、富美恵の子孫でかつ娘がいることを隠し通したそうだ。
正午騎士団も救出の努力はしたが、政府側も少女愛否定とロリシタン狩りへの協力を条件にいくらか迫害を免除した転びキリシタンならぬ転びロリシタン、通称〝
どうにか救助が成功しようとしたときには、ロリ異端審問課はいちおうあった法的手続きをも無視してロリサイや自白剤によるほぼ隠し立て不能な情報入手を試みようと両親に迫ったそうだ。
そして夫婦の監禁場所に光源氏と若紫たちが乗り込んだときには、富美香の父母は娘の秘密を護るために自ら命を絶っていたという。ウサギのぬいぐるみキティは、両親の手作りによる形見らしい。
以来、学園の一部とキティだけが富美香の家庭であり友人だったそうだ。彼女自身もまた、外界を恐れて引きこもりがちになっていたという。
学園内でも認知している者が少ないのはそのためでもあるそうだ。
「……」
悠斗は掛ける言葉が見つからなかった。
「ごめん」いつしか、無意識に謝っていた。「本当にごめん。おれは、君たちのことを今まで深く考えたこともなかった。そんな社会を、盲信しきってた」
「ううん♥」
キティの耳と、床まで届くほどの長いツインテールの頭を横に振った富美香は、卓上の彼の片手と自分のそれを重ねて擁護した。
「気付けただけでもすごいよ。いつの時代も、誰かにとっての
やはり彼女は頭がよかった。
姿態も、巷の神話にあるロリコン以外もロリコンにしてしまう美貌というほどではないかもしれないが、学園内でも評判にはなるくらいには充分魅力的で、悠斗にとっては内面と併せて世界一可愛かった。
いつしか、夜になった。
悠斗と冨美香は交流の一環として部屋にあった食材とキッチンで仲良く料理を楽しみ、さっきと同じテーブルで味わうことにした。
不慣れな悠斗はシンプルなチャーハンぐらいしか作れず、富美香が味噌汁をプラスしてくれた。若干微妙な組み合わせだが初の共同作業で、調理なども経験豊富な少女の方が上手いということも再確認できた。
かくして団欒しながらの食事中。ふと、冨美香は提案する。
「ねえねえ、一緒にお風呂でも入って気分転換でもしちゃおっか?♥」
飯吹いた。
「いやいやいや」赤面して、悠斗はしどろもどろに遠慮する。「さすがにいきなりでしょ。心の準備が」
「じゃあ、準備ができたら仲良く入ってくれるんだね♥」
「ま、まあ。今日はあれだけど、君がいいならいつかは……」
「なら、同じベッドで寝るのはいいかな!♥」
「だめだろ!」
味噌汁吹いた。
少女側には照れがなかったので、どうやら未熟さによる羞恥心の希薄さも相応にはあるらしい。ちょっと悪戯的な表情でもあったので策略かもしれないが。と、メスガキの概念がない悠斗にはそこまで論考するのが限界だった。
ふと、彼は異なることにも感づいてしまう。
「あ、ベッド一台しかなかったな」
別に自分は床とかで寝てもよかったが、そこまで避ける理由もなければ満更でもなかった。かといって、結局別々に入りはしたものの少女の入浴中に視界に映った磨りガラス越しの肌色や、布団内での隣のいい匂いや温もりを意識せずにもいられなかった。
もっとも富美香はさして気にもせず、挑発的な言動の割にエロいことをするわけでもなく、キティを抱いて早々に夢の世界へと旅立ったが。
悠斗は、同じ寝台で眠れぬ夜を過ごすはめになった。
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