【アネクドート4】ある親子が海水浴に来て、カメラのタイマーをセットし一緒に写真を撮ることにした。
【ある親子が海水浴に来て、カメラのタイマーをセットし一緒に写真を撮ることにした。しかしいつまで経ってもシャッターが下りないので、子供がしびれを切らせてきいた。
「ねえ、いつになったら写真が撮れるの?」
親は答えた。
「あと十年後、おまえが18歳になったときだよ」】
地方都市の外れにある
散り始めた桜に彩られた中腹の高原。そこに設けられた、ロマネスク様式の建造物群からなる学園。校門の石垣に、『
これが、表向きの〝不思議の国〟だった。
実態は、山自体が内部を含めロリサイも用いて彼らの国のように改造されている。
いちおう学園のみは一般社会でも周知されていた。校長は光源氏だが、表向きには
平安貴族美青年な威容は、ロリサイによる仮面なのだ。学校運営の際はスーツ、表舞台にも姿を現さない若紫は現代的な振り袖だった。
不思議の国の戦闘部隊である正午騎士団のメンバーも、幹部格は学園の教師たちが姿形を偽ったもの。生徒の志願者も同様の偽装だという。
学園は、表でも少女愛を可能な限り擁護していた。
小中高から大学までの教育が受けられる上、裏ではロリサイの扱いや通常社会での安全な生活方法も学習でき、希望者は教師や騎士団員にもなれ、山内部の不思議の国に定住する進路も選べる。
世界屈指のネオテニーたちの集まりなので、サイを駆使してどうにか
表面が世界有数の大富豪である光原財団の御曹司たる、輝郎のなせる業でもあろう。
彼も財閥も学園のことも悠斗は承知していたが、裏側は初めて知った。世間にも極秘なのだから、当然なのだが。
新東京から元の病室に帰還してすぐ、悠斗はこうしたことを教えられた。それから、自分と一緒に運ばれてきたという私物のうち、学校なので何となく学ランに着替えると、尋ねてみたのだった。
「で。おれを誘拐したわけってのは、なんですか?」
「誘拐ではないと示したつもりだったのだがな」
光原学園長は苦い笑みで応答した。
「実は、大切なことを教えたくてね。ただしちょっと衝撃的なので、準備として、まずはありのままの学園を見学してみてからではどうだね。もちろんいきなり本題に入っても構わんが」
まどろっこしいのは嫌だったので、男子高校生は急かした。
「結構です。さっさと本題とやらに――」
「改めて、衝撃じゃと断言しておくぞ!」
遮って、若紫が再警告する。
「いや」悠斗はめげない。「いいですって、さっさと――」
「超衝撃だよ!!」
三度目、校長が割り込む。
最初はちょっと衝撃だったはずが、いつのまにか超衝撃になってる。
さすがに悠斗も躊躇した。なので(あれ、これ強制じゃね?)と半ば釈然としないながらも、とりあえず了承した。
「……わ、わかりましたよ。じゃあ見学とやらをしてみます。でも右も左も区別がつかないんで、案内くらいはほしいですね」
すると、
「それな!」などとぬかして悠斗を指差す校長が、待ってましたとばかりに紹介した。「この子が担当してくれる」
そうして、病室に集まったネオテニーたちの後方に隠れていた少女を前に押し出すように披露する。
教会前で出会いここで目覚めてからも最初に対面した、あの大和撫子を体現したようだがエプロンドレス姿でウサギのぬいぐるみを抱く美少女だった。
彼女はぺこりとお辞儀をすると、
「ろりこんにちは。しょうがないからざぁこお兄さんの案内を務めてあげる、
容姿からは想像しがたいテンションで壊れた挨拶をした。やたら長いツインテールが大きく揺れる。
ウサギにも頭を下げさせていた。長い耳が、主人の髪型とおそろいみたいだ。
「こ、子供じゃないですか。なんか挙動おかしいし」
「ありふれたメスガキだし、年齢は関係ないわい」
戸惑う悠斗に、若紫は旧人類から消え失せた概念を交えて反論する。即ちありふれてない。
「どこまでできるかが大切じゃ、ここはネオテニーの世界じゃぞ。単に地球の公転周期を数えておるだけの年齢で、ある歳と364日23時間59分59秒までなかった判断力とやらが、一秒後の同意年齢とやらになった途端全員に身に付くなる非科学的なオカルト規制を盲信する外界と一緒にせんことじゃな。歳と心の成長に関連なぞない。少々変わっておるかもしれんが、富美香殿はそこらの大人よりもうよっぽど役に立つわ!」
かくして押し切られる形で、男子高校生は小学生くらいの少女にいろいろ教わるはめになったのだった。
……ある教室では、世界史の授業が行われていた。大人と少女のパートナーたちが一緒に受けている。教師は子供のようだった。
特に分ける必要がなければ、ネオテニーのカップルがそろって参加もできるらしい。先生と生徒の年齢も無関係だそうだ。
少女教師は、独自の観点を交えつつ歴史の教科書を音読した。
「――こうした、自分たちへの公民権の適用と差別解消を求めての一連の活動を公民権運動と呼称します。中でも有名な指導者であった二人、穏健派寄りなキング牧師と過激派寄りなマルコムX氏の対比は、今日の光源氏校長とアルベルト氏による少女愛運動と比定されることもあるのはご存じでしょう」
通常の学校でも習う史実にプラスして、ネオテニーの歴史を交えた独自の教育だった。旧人類の他校では、光源氏もプリンスもテロリストもといロリテストとしかされていない。
「どうかな、ざこ大人さん。こっちの勉強の方がおもしろいんじゃないの?♥」
教室の最後尾に立って眺める悠斗に、富美香が隣から小首を傾げて問うた。
「ま、まあ」いろんなことにどぎまぎしながらも、悠斗は答える。「新鮮な部分も見飽きた部分もあるけど、総じておもしろいかも」
実際のところは従来の勉強からしておもしろくないので、こっちの〝も〟おもしろいか、という点から違うが。自信満々に尋ねられては、正直には口外しにくかった。
ふと、幼い少女相手に難しい言葉を使ってしまったかもと案じた。
なにせ少女愛禁止法が制定されて以来、悠斗のような立ち位置でこんな子供と接する機会はほぼない。
もっとも富美香は賢く、充分に理解してくれているようだった。
「あは、だよね~。楽しく見学できてるならよかったんじゃないの。次はどこにしよっかなぁ~♥」
口元に手を当てた彼女は、満面の笑みで喜びを表現する。
ここに来るまでの短い会話でも、一見どうかしている冨美香の賢明さは感じられた。
ある意味では当たり前だった。精神は年齢で成長するわけでないとは、異端視されている思考実験『ロリーの部屋』でも述べられている。
検閲されている知識だが、ロリテストによるサイバーテロリによって少女愛関連のネット情報をブロックするブロリッキング規制が緩まった時機があり、悠斗は興味を持って密かに閲覧したことがあった。
若紫の述べた通り、年齢は、人が生誕してから地球が太陽を周回する期間。およそ365日を一年、一歳と数えているだけだ。
精神的に何かができる判断力が身に付いたとされる基準を法は特定の齢で定めていたりするが、その歳になる一秒前と一秒後の差異でそんなものが備わるわけではない。公転周期との因果関係などないのだ。
むしろ、知性はたいがい学習で育まれる。特定の事象を勉強した子より、それを学ばなかった大人こそ無知だ。
ようは、学園のネオテニー社会では外部が子供から隠匿していることも対等なパートナーとして少女らにも教えているので、その分賢いのかもしれない。
裏付けるようによその教室では保健体育の授業が行われており、このときの生徒は小学生以下くらいが主だった。教諭はグラマーで妖艶な成人であろう女性で、セクシーな白衣姿で色っぽい動作を交えながらこう教鞭を執りだした。
「赤ちゃんでも生後まもなく誰にも教わらずに自家発電シちゃうこともあるの。自然界では大人と子供でコミュニケーションとしてそういうことをスる動物もいるのよん。なにせ、年齢でああいうことをしていいか駄目かを決めてるのなんて、人間だけだしね。数百万年の人類史でも少女愛は容認されてきたし、弾圧が始まってからもピトケアン諸島やヤノマミ族やマサイ族とかでは、大人と子供がカラダの関係まで持ちながら平穏無事な社会を保てていたのん」
どうかしてる。
外の社会に慣れた悠斗の率直な感想である。
やはり富美香と並んで教室の最後尾で聞いていたが、顔が上気していくのは彼だけのようだった。あくまでここでは普通の勉強だからだろう。この教師はでなくともちょっと変わってるみたいだが。
それでもあまりにみんなが真面目で、外部ではありえない興味深い内容でもあったので、次第に悠斗も集中していった。
ロリテスト大戦で文明や文化など、世界のあらゆる情勢はおよそ一世紀後退したとされ、医療技術も同じな上に情報操作で闇に葬られてはいるが、妊娠出産の最低年齢は未だ二〇世紀に4歳で身籠り5歳にして帝王切開で赤子を産んだリナ・メディナだそうだ。
だからこそさすがに低年齢での出産は難しく負担も大きいとして、
ちなみに対応の違いはあれ、どちらでもネオテニーの間に赤ん坊ができた事例はすでにあるようだ。そうしたときはもちろん双方で祝福されるらしい。
ネオテニーの子供は自身もそうならない限り不老というわけでもなく、身体的にも成長する。どういう進路を選ぶかは本人の自由で、親たちと暮らす者もいれば外部に出て行く者もいるという。ただし、
「あのさあ♥」そんな内実も含む授業に悠斗が驚嘆していると、上目遣いで富美香が提案してきた。「ここからはどうせなら、手繋いで見学してみない?♥」
「……マジで?」
「マジに決まってるじゃ~ん! なぁに、変なことまでしちゃいそうになったりするのかなぁ?♥」
ウサギのぬいぐるみとそろってぴょんぴょん跳ねつつ、少女はアピールする。やたら長いツインテールも翼みたいに上下した。
短期間でずいぶん慣れてくれたようだ。
「しょ、しょうがないな。せっかくだ、よそではできない経験だし」
おっかなびっくり悠斗は富美香と手を繋いだ。つーか断ったらめっちゃ残念がるのが間違いない態度だったし、……ぶっちゃけ触ってみたくもあった。
こんないちゃつきが外で目撃されたら、間違いなく現行犯逮捕だ。
少女の掌は温かく、彼の手中に収まりそうなくらいに小さかった。そして男子高校生には、それだけではないものを得たような、名状しがたい感覚もあった。
そうしたことの遥か以前に、ひたすらこっ恥ずかしかったのだが。
やがて二人が向かった校庭では、体育の授業中だった。
グラウンドで野球をやっている。
身体の発育による物理的な運動能力の差は考慮してか、体操服姿で大人と子供とが分かれて試合をしていた。少女の希望者の下半身は、この時勢では古代遺産と化したブルマだった。
――ブルマだ! あの伝説の装備ブルマである!!
神話でしか見聞きしたことがない悠斗には刺激的だった。
ネオテニーの体育教師は大人と少女でそれぞれ歳に近い方を監督していたが、どう見ても年上の方の野郎も少女側に釘づけになっている。パートナーに怒られながらも。
んなざまだからか、大人側ではゴロを打った十代後半ほどの偉丈夫なバッターが走ることもなく瞬時に一塁に到達。生徒たちからクスクス笑声が洩れていた。
紛れもなく超能力で、おいおい反則だろと思っていたら、おっさんな担当教師が遅れて気づいて注意した。
「こら、この授業で論理超能力は禁止だぞ。ばれないようにやったつもりだろうが、実力で先生を上回っていようと校長は誤魔化せないからな。やり直しだ」
「いやあんたは見てなかっただけだろ!」
思わずツッコむ悠斗だった。当人はスルーしたが。
「あの瞬間移動したざこっぽい人ってぇ、19歳で不老になった
注意された走者は、隣の虚空に現れたお転婆そうな茶髪お下げで雀斑がある愛らしい少女と一緒に笑う。
富美香が解説した。
「あっちの女の子は11歳で不老になった
『EPRパラドックスは三人の物理学者、アルベルト・アインシュタイン、ボリス・ポドルスキー、ネイサン・ローゼンが提示した論文に由来する。量子効果を認めれば宇宙で最速なはずの光速をも超えて情報が遠方に伝達されうる可能性などを示唆した思考実験』だ。
科学的には実在が確認されているが、備わるのはあくまで脳内での検証によるものらしい。
この応用により、彼らはテレポーテーションや自分たちの情報を部分的に残存させて他方に遍在するといった芸当ができるそうだ。ようするに、さっきは手を繋ぎながら少女だけ視野から除去されていたのだろう。
校長は現場にいないのにこれを感知し、体育の担当に通達したことになる。
そんなことを可能とする光源氏と若紫のロリサイは、少なくとも表向きには判明していていない。
アルベルトは無限に関する能力とされ、最強クラスの
なにより光原輝郎は百年以上も不老でいながら世代交代まで演出し、外界では誰も気付けていないのだ。公には、一族でも特に偉大な功績を成した祖父の名を継ぐ孫とされていたが、実体は不老で生き延びた本人がサイで経歴を偽証しているらしい。
昼食は、大テーブルを囲む複数の椅子のセットが整然と並んだ広い学生食堂で、ネオテニーたちと一緒に食べることになった。
やっぱり当たり前だろうが、メニューも含めて他でもごくありふれた風景だった。つくづく、彼らも人間なのだと悠斗は思い知らされていく。
「あなたたちって、新入生なのよね?」
同じ食卓にいた十代後半と思しき茶髪ロングのギャル系女生徒が訊いてくる。服も派手で流行の先端をいく、とはいっても戦争であらゆるものが基本的に一世紀後退したので二一世紀前半のティーンエイジャーみたいなスタイルだ。
学園は服装が自由で、校則も緩いという。悠斗の学ランはむしろ目立っていた。
彼女の隣にも十代後半ほどの女子がいる。やたらいちゃついているのでパートナーだろう。
そちらは編み込みにしたセミロングの黒髪に銀メッシュを入れ、他の少女たちと比較してやや濃い化粧をしていた。ただし、彼女も珍しいブレザーの制服姿。あえていろんな女子高の制服を着回して、永遠の
同性愛者の少女愛者も当然いるわけだ。
というか、悠斗的には彼女たちがただのレズとも区別がつかなかった。年齢がさほど離れていなくとも迫害対象なのだ。故に、ここに属すことにはイマイチ納得していないらしい。
前者が
この一歳という較差は、確認されているネオテニーの最低条件である。世界連合が基準を定めるまで国などによって成人とされる年齢はバラバラだったのだから、その時点ですでに判断力が特定の齢で備わるという理屈は科学的に崩壊していた。
中でも、二一世紀半ば当時の日本でそれらの基準だった18歳を軸にどうやらネオテニーは誕生したらしい。最初に確認されたのも日本国。ために、彼らは本国の発祥と捉えられている。
以降。ほぼ世界中で成人などの歳は世界連合により18歳以上に統一されつつある。
年齢という概念を定めているのは人類だけなのでロリサイの人工起源説もあるが、立証はされていない。
かつての悠斗ならさして疑問でなかった実態だが、こうした場に立てば確かに理不尽な境遇だった。
考察をして多少しどろもどろになりつつも、どうにかさっきの新入生かという質問に平静を装う。
「え、えーと、まだおれたちは見学って段階かな」
もう監視もなく、逃げようとすればできそうで、もはや自分の本意でここにいるも同然だった。発言にさほど偽りはない。
「なら現役の学生としては、よく考えることを薦めとくわね。あたしらは成人年齢跨いだ一歳差でロリコン扱いされるのは不満だし。あなたの彼女すっごくかわいいし、大事にするならなおさらよ」
恵兎がアドバイスするや、春伽もスプーンをくわえながら同調した。
「そうそー。他校や外の社会でのロリコン認定に比べりゃましだから仕方なくいるんだけどねぇー。本当にロリコンならここでいいんだろうけどぉー、好きな人とも一緒にいられるしー。恵兎の真似みたいだけど、あなたの彼女ってマジでめったにいないくらいの美少女だしー」
同じテーブルの別の生徒たちは、食事をしながら推薦した。
「よそでのネオテニーは犯罪者扱いだもんね。君もこんな可愛い彼女がいたんじゃ、真っ先に警察とかに狙われそうよ」
「外界だと、よくても矯正治療対象だからな。最悪死刑か〝ロリトミー〟だ」
両想いでなくなればネオテニーでもなくなる。ために捕まった彼らには両方の想いを断つための拷問などさえ科されたりするが、うち最悪なものの一つがロリトミーだ。
かつてノーベル賞まで授与されながら、内実は重大な副作用をもたらす人権侵害だったとして禁忌となった脳の一部を切除する精神外科手術ロボトミーが、ネオテニーへはロリトミーと名を変えて容認されているのだ。廃人にされるようなものだが、見過ごされていた。
なにしろ、ネオテニーは人外になったと認識されている。人権すら剥奪されるのだから。
「君が可愛い彼女とどんなにいちゃついたところで、ここじゃせいぜいただのド変態で済むくらいだぜ」
最後の勧誘はどうなのかというところだし、みんなやたらと富美香を褒めすぎに感じた。本人はもちろん、悠斗もまんざらでもなかったが。
……にしても、とふと彼は別なことも気になる。
隣には富美香がいて膝にウサギのぬいぐるみを置きながらハンバーグ定食を頬張っていた。彼女とは、この学園で出会ったのだ。
なのにさっきは、悠斗とまとめて新入生かと訊かれたのである。
世界的にもほとんど唯一のネオテニーに肯定的な学び舎だからか、『黄金の昼下がり学園』は広大で生徒もとてつもなく多いマンモス校らしい。何せ山一つが全て学園の領土で、生徒数は十万人。教員は一万人いるという。通常の学校でも全校生徒が顔見知りということはないだろう。
しかし、光源氏が悠斗に裏の顔を明かしたときそばにいたのが富美香だ。校内では有名な子だろうと踏んでいた。
だのに、あの病室にいた人物たち以外にはまるで彼女は認知されていないようなのだ。なにより富美香はみんなについて博識で、悠斗にいろいろと教えてくれたのだから不思議だった。
昼食を終えると昼休みになり、悠斗と富美香は最上階の学園長室に招かれた。
二人は、来客用のソファーに着席させられる。
お菓子と紅茶を振る舞われた目前のテーブルを挟んで、明るい窓を背にした立派な木製机に光源氏はスーツを着た老紳士といった出で立ちの光原輝郎として着席していた。隣には、振り袖姿で椅子に座る若紫もいる。
「どうでしたか、学園の様子は?」
にこやかに、校長は尋ねてきた。
「……そう、ですね」悠斗は正直に吐露した。「おれが通ってきた学校で勉強してることは習えてるし、一般社会からは隠されてることも教えてもらえてるから。こっちの方が、いいのかもしれません」
輝郎は満足げに耳を傾けていた。まもなく雑感を咀嚼すると、いきなり切り出す。
「では、あなたも我が校に入学してみませんか?」
「へっ?」
さすがに、悠斗は鼻で笑う。
「いやいやいや。どういう意図でこんな歓待をしたのか謎ですけど、おれ少女愛者じゃないですし――」
「少女愛者ですよ」
食い気味だった。
「正確には、ごく最近少女に恋をしたわけじゃがな」
補足的に、意味深な仄めかしをする若紫。だが、悠斗に心当たりはない。はずだ。あるとすれば、自分も子供だった時の初恋相手くらいなはずだ。
実のところ、ぼんやりと胸の底にざわめきがあったのは認めざるをえないのだが。
そこを射抜くように、光原輝郎は指摘する。
「わたしも昨日の摘発のあと本人から気持ちを聞いて初めて知りましたから、無理もないですが。あなたが恋した相手は、綺羅坂冨美恵の曾孫に当たる少女です。彼女も、あなたを好いています」
「まさかそんな!」
二重の激しい動揺で立ち上がり、悠斗は絶句してしまった。
世間には、
歴史上、最期にして最大の美少女アイドル――富美恵の子孫たる寵児を匿っているというのだ。
彼女は幼くして最強のアイドル性を受け継ぎ、誰しもをロリコンにしてしまうほどの魅力を誇ると恐怖されてもいる。公式には確認されていない現象だが。
ただ富美恵の伝説からも、仮に事実で彼女が少女のうちにパートナーを得れば、ロリサイは過去最大級に強力なものになるのではないかとも危惧されていた。名声と論理超能力の強弱に関連性は証明されていないが、当人たちの境遇や心情が影響するのは確認されているからだ。
即ち、実在しても両想いの相手は未だ発見されてはいないのだろうと目されていた。
なのに。
「……おれが、富美恵の子孫と両想い?」
やっと振り絞った悠斗だった。
説明に従えば、そういうことになる。
「んなバカな」確かに事前の警告通りの衝撃だった。暴露に耐え切れず、彼は反論を捲くし立てる。「おれは少女愛になんて一切興味ないし、だいいち富美恵の子孫なんて都市伝説でしょ。しかも両思いだなんて、会ったこともないのに!!」
「ですから前日の朝、君は本人に会ったではないですか」
学園長の一言で充分だった。
悠斗は再び言語を失した。ぱっと、心当たりのある人物が脳裏に浮かんでしまったからだ。
身近にいる、やたら美少女だと褒められる子。一般人をも魅了するとされる、富美恵の子孫。かくいう自分もまんざらでもない気持ちにさせられた隣人。そういや名前も似ている。
恐る恐る、確認した。
同じソファーに、彼女はいた。恥ずかしげながらも、真っ直ぐにパートナー候補を見上げていた。
この子と行動させたのはこういう意図もあったのかもしれない。
その少女。〝富美香〟はウサギのぬいぐるみをギュッと抱きしめて、ここにきてようやくはっきりと自己紹介をしたのだった。
「そ、曾お婆ちゃんの名前は富美恵なんだよ。あたしは曾孫で、綺羅坂富美香っていうわけ。あと、ついでにざこお兄さんを好きになったの。光栄でしょ♥」
ついでに告られた。
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