星空の下で Under_the_Starry_Heaven

星空の下で

 ………………体感で数分間、誓は気絶していた。


 そして次に目を覚ました時、雨はもう止んでいた。

 空を見上げてみると、雨雲が誓の頭上を中心に四方八方へと散らばっていた。自然に止んだのではなく、満里奈と夏海の戦闘の余波で打ち払われたのだと一目で分かった。

 その満里奈は……地面に落ちて横たわっていた。魔法兵装は跡形もなく消えており、辺り一面を埋め尽くしていた眼球型レーザー砲も失せていた。


「まり……な……」


 痛みをおして彼女に這い寄る。

 大小のクレーターができた公民館前の広場。

 その入り口のところから発せられる、弱々しい魔力の源に。


 うつ伏せのまま動かない満里奈に触れようとして、一度自分の手を見る。

 右手は酷い有様だが、左手ならそこまで汚れていない。

 そこで左手だけで満里奈を仰向けに転がした。


 目立った傷はない。

 細かい傷は多少あるし、鼻血だって出ているが、誓ほど酷くはない。ただ疲れ果てているだけだ。

 ほっ、と一先ず安堵する。

 そして次にあの火炎の魔法使い、夏海の顔が浮かんでくる。


(…………これから私たち、どうなるんだろ…………)


 満里奈の横に寝転がり、その顔を見つめながら考える。

 夏海を退しりぞけたとしても、命綱のレーアが捕まっている以上、誓たちには現状打つ手がない。

 だがそうは言ってもこのまま自首というのも受け入れがたい。ANNAの査問官は真性のサディストが九割を占めているからだ。きっと今頃レーアは爪を剥がされ、内臓を潰されるなど拷問まがいの“取り調べ”を受けていることだろう。

 自分はまだ別に構わないが、満里奈も一緒に連中の慰みものにされると思うと、やはり堪え難い。


(それでも手詰まりに違いはない。それが現実なんだ……)

「ちかい……?」

「!」


 ぼうっとしかけていた誓の意識を、愛しい幼馴染のか細い声が引き戻す。

 彼女は……アズールの瞳からぽろぽろと涙を零こぼし、声を震わせていた。


「ちかい……ごめん……。わたし、あなたをこんなめに……まきこんじゃって……ごめんね。ほんとにごめんっ……」

「ううん……。満里奈は悪くないよ」


 誓は左手を満里奈の頬に伸ばした。そして涙をそっと拭ってやる。


「私は私の意志で、こうしてるんだよ。あなたに巻き込まれたんじゃないんだよ」

「ちかい……」

「だから泣かないで。ごめんなんて、言わなくていいから」

「ちかいっ……!」


 そっと頭を撫でる。姉が妹を慰めるかのように。

 満里奈はそれを拒まず、しばし静かに泣きながら、誓に撫でられていた。


 ……少しの間そうしていると。

 遠くから人の足音と話し声が聞こえてきた。


「「!!」」


 二人は立ち上がろうとしたが、力が出なかった。

 足がどうしてもふらついて上手く立てない。

 その間にも足音と話し声は近づいてくる。足音は一人分だが話し声は二人分だ。夏海と、誰か他の男のようである。

 男は大きなため息をついた。


「それにしてもあれは少しやりすぎたんじゃないのかい? もし地面に当たったらどうするつもりだったんだい。コロニー壊滅どころの騒ぎじゃないんだよ?」


 夏海はそれに応じた。

 随分と親しげな様子で、誓たちも聞いたことがないようなこわで。


「ま、満里奈ちゃんが迎え撃とうとしてなかったら、ちゃんと威力弱めてましたよう……」

「さてどうかね。君はアレを使うと色々タガが外れるからなあ」

(この声と喋り方……いや、まさかね)


 辛うじて起き上がれた誓は、未だ起き上がれないでいる満里奈と目を合わせて訝しんだ。


 何故ならその男の声は、だったからだ。………………

 彼らが広場に姿を表した。変身が解け、元の銀髪碧眼と白制服に戻った夏海は、そのつるっぱげで恰幅のいい中年男性におんぶされていた。

 男性の肌はであった。


 そう、果たして。


「「そっ、そんな……!!」」


 誓たちの直感は当たっていた。

 その男性はハンドガン型対魔法使い麻酔銃アンチメイジトランキライザを片手で握り、誓の顔に向けると、そのを心底申し訳無さそうに伏せた。


「満里奈、誓ちゃん、二人ともごめんな。訳はちゃんと後で話すから」

「ぱ、パパっ、なんで──!?」


 満里奈がそう叫びかけると同時に。

 満里奈の父親──ふなばしかんは一切の躊躇いなくトリガーを引いた。

 しめやかに放たれたダートが眉間に刺さり、中の魔法使い用麻酔薬が流れ込んでくる。

 瞬く間に意識が沈んでいく。トンッ、という再びの発射音。

 そして最後にはっきりと聞こえた声は。


『こちら“オミクロン・エピプレオーン”。目標を達成しました。……ええ、シナリオ通りです』


(『メイジア★プレッジ 天』に続く)

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メイジア★プレッジ 江倉野風蘭 @soul_scrfc

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