後悔
私達は春斗が運ばれた翌日、病室を訪れた。
「今…なんて…。」
お見舞いに、持ってきた花束が手から落ちる。
神様は現れなかった。
医者は急に春斗の容態が急変し、駆け寄ると、既に…植物状態になっていたらしい。
なんでこんな状態になったかも、いつ起きるかも分からないと告げられた。
叔母さんと叔父さんは泣き崩れる。
私達は、この前まで元気だった春斗の姿をもう見れないかもしれない恐怖感で、いっぱいだった。
それから私達は、毎日春斗の病室に訪れていた。
今日も目を覚まさない。
(春斗…。今日も起きないか…)
時雨は、時々私より取り乱す。
「何でだよ!目を覚ませよ!ふざけないで、いい加減目を覚ませ!またいつも通りの三人に戻るんだろう!だから…目を…覚ませよ…」
ここまで、時雨が取り乱すのも珍しい。
だけど想いは私も一緒だ。
またいつものように三人で過ごせることだけが願いだ。
だから私達は何時までも何年でも春斗の帰りを待つ。
「はると!おとなになったらけっこうしよ!」
「けっこん…?」
「お母さんとお父さんみたいにいっしょにくらすの!」
「たのしそう!」
「じゃあやくそくね!指切りげんまん〜、はると…これあげる!」
「これなに?」
「ゆびわ!」
…僕はまた夢を見た。この世界に閉じ込められ、ずっと同じ夢を見る。
僕の初恋。何時も三人で遊んでいたけど、この日は二人だけで遊んだ。最初はかわいいよくある子供同士の約束だった。
所詮子供の戯言。最初は僕もそうだった。
だけど年を重ねる内、本気になっていった。
彼女に一瞬惑わされた心。
だけど、それでも心の中にはあの人との約束がある。
だから振られてでも僕はあの人に想いを告げるべきだった。
それが唯一の心残りだった。
もう見慣れてしまった白い世界。
やることがない僕は考えることで暇を潰す。
最後にあれをやっておけばよかったとか、今更遅い後悔だ。
(二人は今頃どうしているだろう?、特に茜は友達思いで、優しいからな…。僕のために、悲しんでくれてんのかな、時雨もぶっきらぼうだけど優しいからな意外と泣いてくれんのかな…。)
僕は二人の事を考えるだけで涙が溢れた。あの人に想いを伝えればよかった。今となっては昔の事、あの人は忘れてしまっているだろう。それでも、あの人に伝えるべきだった。それなのに好きでもない人にキスをされ、心の中は悔しさでいっぱいだった。(それでも、あの人は優しいから、僕の事は忘れて、誰かと結婚して幸せになって欲しい。でも、やっぱり想いを伝えたかったな…。)
また僕の左目に一粒の涙か零れ落ちる。
「おやすみ」
何処からかあの人の声が聞こえる。僕はそれに満足し、また眠りに入る…。
「あぁ〜。結構好きだったのにな…。結局脈なしか〜。まぁいっか春斗の夢、結構美味しかったし。また次の獲物探そうっと!」
End
夢幻 夜夢路 @kohaku310
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