誘い

「…あなたって愛されているのね。羨ましいわ」

華は悲しい顔をして、呟く。

だが、その声は僕には聞こえなかった。

「君は何故こんなことをしたんだ!吸夢?意味がわからない!

僕は華を助けるために睡眠薬を飲んでまで、君の所に来たんだ!」

華に対しての怒りをあらわにする。

「僕を現実の世界に戻してくれ!お願いだ!」

僕は必死に懇願する。

「駄目。私は貴方の夢を吸うのが目的なの。」

(夢を…吸う…?何を言っているんだ?)

「 私達は悪魔だけど、私は夢を吸う吸夢くすいむ>という役職の悪魔よ。吸夢はねぇ…夢を吸って人間を永遠に閉じ込めるの。それが私の仕事」

「夢を…吸う?」

(何を行っているんだ、そんな事があり得て良いのか…) 

「あなたは気づいてないかもしれないけど、私が一つ質問しただけで、朝が来る。…おかしいと思わない?私はねぇ、夢の時間を少しずつ吸っていく為にあんな行動を繰り返していたのよ!

苦しかったわ、一気に吸えば済む話だけど、そうは行かない

たっぷり吸い取るためにも、あの行動をし続ければいけない、…大変だったわ」

彼女は悲しそうに俯く。

「それに確実に夢に越させるためにもある事をしたのよ。

…気づいてた?」

(なんだ…?僕はまだ何か気づいていなことがあるのか?)

「…分からなくて、悲しいわ。折角あなたの学校に遊びに行ったのに」

「…!どういうことだ!」

「本当に気づいてないのね…。学校で私に似た人が居て気になったでしょ?」

「…そういえば、見たような。でもそれが此処に越させる事とどういう関係が」

「現実でも私の姿を見て、確実に気になる存在にさせる。

そうすればより、あなたは早く此処に来る。そう思ったのよ」

華は少しだけ俯いた。



「待て…。食べられた人間はどうなる?」

僕は額に冷や汗をかく。

嫌な予感がする。

「どうって…。身体は眠っているときと一緒、脳も生き続けられるのよ。人間にとってもいい事だらけじゃない。一生眠り続けるんだもん」

(そんなのって…!)

僕は聞いている間拳を強く握り過ぎ、爪が手に深く突き刺さる。

「そんなの…死んでるも一緒じゃないか!」

爪がさらに食い込み、血がポタポタと溢れる。 

「あらあら!そんなに嫌?だけどね私がいる時点で、どう足掻いたって、逃げられないのよ」

華は僕の瞳を見つめる。 

その瞬間、金縛りのように体は動かなくなる。

「な…なに…を…する」

僕は必死に抵抗をする。

だかその努力も虚しく散る。

「黙って、じっとして」

華という悪魔は近づいてくると同時に僕の腰に手を回し抱き着く。

(痛い。それに強すぎる…)

女の子なのに悪魔の力は強かった。身体はもう、ガッチリとホールドされ動かない

(もう…助からないのか。)


「いただきます」

彼女は抱きついたまま顔だけを上げそう告げ、微笑んだかと思えば、最後に僕の口に甘く深いキスをして、

「ごちそうさまでした。美味しかったよ。またね」

そう言い残すと彼女は消える。


僕の身体は地面に倒れる。

(疲れた…。眠い)

もう、現実で覚ますことはないのに睡魔は襲う。

瞼が落ちかける。また目を覚ませば、この世界で夢を覚ますだろう。

僕は永遠に白い世界の住人と化したのだ…。

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