アリのまま
Sケープ
アリのまま
私の名は『アイン』。ゲームクリエイターだ
と言っても、それだけで生計を立てるような、いわゆるプロではない。RPGを中心に、フリー/シェア問わず、様々なゲームを作ってきた。完成するたびに、それをSNSで公開している。これがなかなか好評を得ていて、順調にフォロワー数も伸びてきた所だ
私には『アハト』という長年の相棒がいる。私は得意分野のシナリオ・システム・バトルなどを担当し、アハトにはBGM・キャラ・背景などを担当してもらっている。アハトも、もちろんSNSをやっている
いわゆるオタク気質で根暗な私に比べて、アハトは明るく気さくな奴で、得意のBGM・キャラ・背景をSNSに上げるたびにバズっている。その創作性、性格も相まってフォロワー達にも好かれている。とは言え、私も別に、人に嫌われている訳ではないことは、私のフォロワー数も証明していることだろう。私達はとても良いコンビだ
私は次回作となるRPGの構想を練っていた。シナリオ部分はおおよそ頭の中ではできている。システム部分についてはまだ曖昧な部分が多く、アハトと相談して決める予定だ。システム部分はキャラや背景のサイズなどにも影響するため、早めに決めてしまいたいからだ
私は行き詰った時、あるいは方針を決めかねている時、アハトとSNSでやりとりすることが多い。直接会うこともできるのだが、なんだか面倒だし、SNSの方が「ありのまま」の自分を出せる気がするのだ。そうするとどんどん良いアイディアが浮かび、創作がスムーズに流れるように進んでいくのだ
ちなみにSNSでDMはほぼ使わない。もちろん面倒だからというのもあるが、あえて会話を周囲の目にさらすことで、更なるアイディアやヒントを得られることもあるからだ
私は私のフォロワー数とTLを見る。そして次に、アハトのフォロワー数とTLを見た
……さて、いい加減に茶番はおしまい。そろそろ『卒業』する頃合いか
私はアハトの……そう、アハト自身のSNSのアカウントから……「急ですが引退します、今まで応援してくれてありがとうございました。担当作業は全てアインに引き継ぎます」と入力し、さよならを告げた
アハトはいなくなり、「ありのまま」の私、ただ一人になった。そう、アハトなんて最初からいなかった。私はもう一人で歩き出せる。限りない自由の道、輝かしい真実の私の道へ、ようやく踏み出せるのだ!
……そう思っていた。そう、思っていたんだよ。なのになぜだ。なんだこれは
作品の質は変わらない。BGM・キャラ・背景だってちゃんとアハトの時以上のクオリティと頻度でSNSに上げている。なのに、なんでこんなに。こんなにも人々は私に注目しなくなったんだ!?
私はアハトだ! アハトなんだぞ!? こんなにも奴の仕事を完璧に、いやそれ以上にやり遂げている! もう奴の時代はとっくに終わっている! 私が終わらせた! なのにみんなまだ奴の幻影を追いかけている! 誰も私の方を見ようとしない! 元々私の方を見ていた連中まで、なぜか私を見てくれなくなった!
私は、小心者の自分を大きく見せるための偉大な幻影を。実体もないクセに、あまりにも多くの人達に愛されてしまった『魂』を、終わらせてしまった
ここでアハトとしての活動を再開することはできるだろう。そうすれば、全て元通り……とはいかなくても、みんながまた私のことを見てくれるようになるかもしれない。しかし、私にはそれができなかった
私はもう「ありのまま」の自分を知ってしまった
アリのまま Sケープ @scape359
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます