第6話 火曜日の朝のルーティーン

 火曜は月曜日より30分早く起きる。天気は曇りで微妙。


寝起きのまだ覚醒していない目をこすりながら部屋を見渡す。

一人で暮らしているこの家は寝て起きたら洗濯が終わっていることもないし、昨日洗うのを諦めた皿が洗ってあることもない。


すべて自分で。


明日の自分に今の自分がめんどくさいことの代償を支払わせるだけのはわかっているのに、明日の自分に期待して何もせずに寝た昨日の自分へ。張り倒すぞ、という気持ちだ。


「おいしい紅茶が飲みたい……」


適当に思いついたままのフレーズを勝手に作ったチープなメロディーに乗せて口ずさみながら、今日も紅茶をセットする。


本日の朝の一杯はルイボスティー。


これは紅茶のくくりなのかわからないけれど、ティーには違いないってことでポットにぶち込んでお湯を入れればいい香りがしてきて、昨日の失態をすべて夢だったのかと思わせてくれる。そんなわけはないけれど。


「洗濯は、したいなぁ」


窓の外はどんより。天気予想は昼から降水確率80パーセント。それは多分降るやつや。


とか言いながらも小さいけれどサンルームがついているので洗濯はするし、干す。


歯磨きも何もかもぶっ飛ばして、今日は先に着替える。

そして脱いだ部屋着と、枕カバー、それにタオル類を洗濯機にぶち込んで、昨日の服と一緒に洗濯機にかける。


回っている間にいつもと同じ準備。今日のお弁当のおかずは作り置きのきんぴらごぼうと……、と思ったけどお米を炊き忘れたことに気づいて絶望。昨日の自分がいかに動揺していたか。


いつもの行動を忘れて、片づけを今日の私に託して。


“いつもの”を乱された。


野菜室を覗くと入っていたのはレタスとパプリカ。あとはきゅうりとシイタケ。

たまにある“全部がめんどくさい時”のとっておき飯セットは揃っている。


全部出して、フライパンを火にかけた。

冷凍庫から切っておいたベーコンと一緒にスライスしたシイタケをオリーブオイルで炒める。

レタスはめんどくさいので包丁なんて使わずに適当な大きさにちぎる。

パプリカはさすがに包丁を使ってスライス。ここで包丁使うならレタスに包丁使ってもよかったかも、なんて。


タッパーにレタスとパプリカを詰めて、その上に痛めたベーコンとシイタケをオリーブオイルごとかけて、完成。持ち運びできるように小さい容器にドレッシングは映してあるので、それを一緒にカバンに入れていけばサラダ弁当の出来上がりだ。

サラダしか入ってないけど。


「こういう日もあっていいでしょ」


ちょと頻度高めなのは内緒だ。


洗濯が終わるまではもう少しある。その間に顔面工事に取り掛かる。

メイクは変えない。会社でメイクが変わっても誰も気付かないだろうけど。


いつでも出られる準備まで整ったところで洗濯機から終了のアラームが鳴る。


サンルームでしわを伸ばしながら干して、除湿器とサーキュレータをセット。

帰ってくるころには綺麗に乾いていますように。と願いを込めていればいつの間にかいつもと同じ時間。


「……いってきます」


誰からも返事なんて来ない。

でも行ってきます、ただいま、いただきます、ごちそうさま、は言いたい。






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現代版チート美女は地味に生きたい むいみちゃん @muimichan

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