時の操り

キザなRye

全編

 僕は願った、何度も何度も。時を操れる能力が欲しいと。



 武孝たけゆきは焦っていた。寝坊して起きたのは学校が始まる30分前。走って行っても高校までは20分とちょっとかかる。すぐに出てもギリギリなのにパジャマから制服に着替えて荷物を準備して出るので間に合うか微妙な時間だった。こういう時こそ時間が操れたらなと思ってしまうものである。なんとか準備を終えて武孝は家を出てすぐに転んでしまった。

 起き上がった武孝の目には驚きの光景が広がっていた。ゲームの画面のような設定をすることが出来るボタンが視界の右下にあった。そして誰一人として動いていなかった。ボタンの上に“一時停止”と書かれていた。恐る恐るボタンを何度か押すと“タイムワープ”や“スローモーション”などの言葉が出てきた。どうやら転んだことによって武孝は時間を操ることが出来る能力を得たようだ。

 とにかく急がなきゃと武孝は“一時停止”の機能を使ってゆっくり学校に向かった。時間的には始業まで10分以上ある。時間を止めていけば始業の時間として余裕だ。“一時停止”していると周りは誰も動いておらず、武孝だけが一人動ける状態だった。いつもはゆっくりと見ることが出来なかった自分の周りの人を武孝は今日だけは観察することが出来た。それを楽しみながら武孝は優雅に登校した。校門に入ったところで“一時停止”を解除し、何もなかったかのように校舎に入った。

 その日の帰り、手に入れた機能を試したくて武孝は“タイムワープ”をしてみた。まだ武孝が生まれる前の両親が出会った時に彼は飛んだ。武孝の飛んだ先の目の前に写真で見たことがある若かりし頃の母親の姿があった。そこに青年が走って近づいてきた。武孝の印象はあまり良い人物ではなかった。ファッションの“ファ”を理解出来てないように感じられたのである。

 どうにか母の元から離そうと気付かれない程度で武之は青年にちょっかいを出していた。何かダサいところを見せれば母が自然と離れていくだろうと考えてのことだった。二人は一日中一緒にいたが、武孝のちょっかいは夜別れるまで続いた。ちょっかいがどこまで効果があったのかを知らぬまま武孝は元いた現代に戻った。

 武孝が戻った“現代”は知っているものとは違っていた。自分の家と思っている場所にはボロボロの建物があった。外からチラチラと見ていると見たことがないおじさんが武孝に話しかけてきた。

「こんな空き家に興味があるのかね」

おじさんから聞いてはじめて武孝はここが空き家であることを認識した。少なくとも武孝の知っている世界ではなかった。

「きみ、この辺の子かい。見たことない顔な気がするんだが……」

もうこの地域からすれば武孝はただの赤の他人である。武孝は自分が過去に言って何かしてしまったのか考えに考え、ちょっかいを出したことしか思い出すことは出来なかった。そして飛んだ時代としたことを結びつけてみると印象が良くない青年は武孝の父親だったのだろう。それに気付いた武孝は自分の責任を感じて命を絶ってしまった。

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時の操り キザなRye @yosukew1616

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