第11話 タコパ


「火加減はもういいかな」


「いいんじゃない。お皿はこの辺に置いとくね」


「あ、あと飲み物を用意しないよ」


 テーブルまわりは三人で協力して準備を整えた。


「よし。タネ出来たぞ」


 俺はタコパに欠かせない生地を持ってリビングに向かう。


「種?」


「記事のことをタネっていうんだよ」


「ふーん。どうでもいいけど、始めようよ」


 相変わらず魅音は無関心だ。

 俺がリビングに座ると三人の美少女から視線が集まる。


「え? 何?」


「私、食べる専門だし」と魅音。


「私、作ったことないんだよね。たこ焼きって」と、架星さん。


 うん、うんとみくりちゃんはただ頷いているだけだ。


 俺は察した。要するにこの三人。タコパをしたいと言う割に誰も作ったことがないのだ。そこで困った三人は俺を頼って来たのが本当の狙いという訳だ。


「ねぇ、郁真。肩、凝っていない?」


「いや、別に」


「じゃ、何かしてほしいことない? 今日は何でもやっちゃおうかな」


「魅音。俺の機嫌を取ってたこ焼き作らせるつもりだろ」


「あ、バレた?」


「仕方がない。お前たちに最高のたこ焼きを焼いてやる」


「え? 本当?」


「任せろ」


 俺の料理魂に火が付いた。

 ジュワッと俺はたこ焼きプレートに生地を流し込んだ。

 そして一個ずつ細切れにしたタコを中心に落とす。


「味見くん。生地、入れすぎじゃない? 溢れているよ?」


「いや、これでいい」


「?」


 たこ焼きで一番難しいのがひっくり返す作業だ。これがうまく出来なければ丸くならず、カリッとした食感がダメになる。

 溢れた生地がプクプクとしてきた瞬間を見逃さず、俺は素早くひっくり返した。


「凄い!」


「なるほど。生地を溢れさせていたのはひっくり返やすくするためってことか」


「味見くん。カッコイイ!」


「あーおだてないで。こいつ、すぐ調子に乗るから。バカだし」


 と、架星さんとみくりちゃんが目を輝かせていたところ、魅音は否定的な発言をする。

ふん。言っていろ。今の俺はノリに乗っている。


「はい! いっちょあがり!」


 俺は焼きあがったたこ焼きを皿に盛り付けて三人の前に差し出す。


「凄い。たこ焼きってこんな綺麗に焼けるんだ」


「丸くて美味しそう」


「早く食べたい」


 ソースとマヨネーズ。そしてかつお節をまぶして完成だ。


「いただきます! あふっ!」


 がっつく魅音は口を火傷したようでたこ焼きを吐き出してしまう。


「うわっ! 魅音。汚い!」


「ごめん。熱すぎてつい。少し冷ました方がいいかも」


 なかなか食べようとしないみくりちゃんを見兼ねて俺は声を掛ける。


「みくりちゃん。もしかして猫舌?」


「あ、そうじゃないんですけど、青のりとかってありませんか?」


「青のりか。ごめん。うちには置いていないや」


「そうですか。青のりがあった方が好きなんですけど、贅沢は言えませんね」


「そうだ。ちょっと待っていて」


 俺はキッチンから例のモノを持ってきた。


「青のりはないけど、代わりになればと思って。よかったらこれ使ってよ」


「? それは何ですか?」


「大葉の粉末パウダーだよ。自分で作ったんだけど、多分美味しくなると思うからよかったらかけてみて」


「へー。じゃ、せっかくなので使わせてもらいますね」


 みくりちゃんはたこ焼きにパウダーをかけた。

 見た目は青のりと変わらない。


「頂きます」


 パクリとみくりちゃんはたこ焼きを食べた。


「美味しい。たこ焼きだけでも美味しいのにパウダーをかけただけで更に美味しくなりました」


「え、本当? 私にもかけて」


「わ、私もお願いします」


 魅音と架星さんもたこ焼きにパウダーをかけた。

 そしてパクリと食べる。


「うん。さっきと全然違う」


「美味しい。これならどんどん食べられそう」


「よし! じゃ、どんどんたこ焼きを焼くから待ってね」


 気分が乗った俺はたこ焼きを焼き続けた。

 その度に美少女たち三人は美味しそうに食べてくれた。

 その笑顔が最高に嬉しかった。

 タコパ、最高。そう俺の心は叫んでいた。

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