第9話 ギャルから清掃系へ
「あの、味見くん。私と付き合ってほしいんだけど」
俺は美少女に告白された。
ここ最近、俺のまわりで不思議なことが起こっている。
それは美少女に好かれているということだ。
原因は不明だが、何かをきっかけにモテ始めている。
その証拠に俺は今、クラスで可愛いとされる美少女、
見た目を一言で言えばギャル。金髪のショートでピアスやマニキュアを付けている。
陽キャであり、見た目の派手さで目立つ存在だ。
可愛いことには間違い無いのだが、化粧でスッピンが未だに謎の美少女でもある。
スタイルや胸の大きさとしては魅力に感じるが、付き合うとしたら少し違うタイプの美少女と言える。実際、俺もキラキラした子と仲良くなりたいとは思うが、付き合うのは遠慮したい一人だ。
「えっと、なんで俺?」
まずは単純な疑問をぶつける。
同じクラスだが、喋ったこともない人から告白を受けてもピンとこないのが正直な感想だ。
「好きになるのに理由がいるわけ?」
出た。俺が困る回答の一つだ。
以前にも架星さんに言われた言葉であり、俺を悩ませた。
確かに無いと言えばそれまでだが、何か納得する理由が欲しい。
「付き合うのはちょっとごめん。それに宇部さんは確か、彼氏がいるよね? そんな堂々と浮気宣言されるのはちょっと困るというか……」
そう、俺が言った途端に宇部さんは泣き崩れた。
「うっ、うっ。どうして。こんなに好きなのに。それに味見くんと付き合うために彼氏と別れてきたのにどうして私の気持ちが分からないの?」
「ちょっと待って。俺と付き合いたいからわざわざ彼氏と別れてきたってこと?」
「そうだよ。私は味見くん一筋なのに」
何もしていないが、何か悪いことをした気がした。
責任を取って付き合うのも変な話だし、困った。
「あの、宇部さん。泣かないでよ」と、俺が近づいたその瞬間、驚いて離れる。
「うわっ! ば、化け物」
「化け物? 酷い」
「ごめん。その、顔が」
「顔?」
宇部さんの顔は涙で化粧が崩れて酷い状態になっていた。
「うわ。化粧落ちている。私の顔が……」
「あの、よければこれ使って。ハンドタオルだけど、一層全部落とした方がいいと思うんだ」
「うん。ありがとう」
化粧を全て落とした宇部さんは派手でキツめの顔から大人しめの柔らかい感じに変わった。どちらかと言えば化粧を落とした宇部さんの顔が好みだった。
「そっちの方がいいと思うよ。あと、無理に髪を染めなくても自然体の方が綺麗だよ」
「え? 本当?」
「うん。化粧をしていると近寄りがたかったけど、今は凄い親しみ感が増したよ」
「……じゃ、味見くんのいう通りにしてみようかな」
宇部さんは恥ずかしそうにそう言った。
「いや、別にしなくてもいいよ。俺のせいみたいになっちゃうから」
「味見くん。清楚系にしたら私と付き合ってくれる?」
「いや、それはちょっと分からないというか。ごめん」
「あ、待ってよ。味見くん」
俺は思わず、宇部さんから逃げ出してしまった。
その翌日。
宇部さんは黒染めにしてピアスやマニュキアを無くした状態で学校に来た。
「え? 誰?」
「宇部さんなの?」
「別人みたい。でもそっちの方がいいかも」
意外にも好評で宇部さんの周りには人が寄りつくようになった。
「宇部さん。お、おはよう」
俺は生まれ変わった宇部さんに挨拶をする。
「味見くん。おはよう。どう? 私、変わった?」
「うん。個人的にはそっちの方がいいと思うよ」
「ありがとう。味見くんが背中を押してくれたから思い切っちゃった。あ、それともう一つ」
「ん?」
宇部さんは俺の耳元に囁く。
「味見くんのこと、なんかいいなって思ったんだけど、イメチェンしたらそうでもなくなっちゃった。ごめんね。彼氏とはよりを戻すから」
「そ、そうなんだ。別に俺は気にしていないけど」
「何でだろうね。味見くんを見てからフワッと好きな気持ちが芽生えたのに今は全く感じない。恋する気持ちも一瞬ってこと何かな?」
「ははは。そうかもしれませんね。彼氏さんとうまくやってくださいね」
「ありがとう。じゃ、私、彼氏に伝えてくるね」
元気に走り出した宇部さんだった。
その後に聞いた話だが、宇部さんの彼氏はギャルの姿が良かったらしく、再び元の姿に戻すか悩みに悩んだようだ。
だが、付き合うためにはギャルの姿になろうと自分を偽るような形になってしまった。
それは俺のせいではないと思うが、うまくやってほしいと願う。
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