第8話 朝のひと時


「ん、んんん!」


 俺は朝の日差しによって目を覚ました。身体を起こすと隣で魅音が寝ていた。

 あの後、俺は魅音としたのか。夢のようなひと時だった気がする。


「おい。魅音。起きろ。朝だぞ」


「ん、うーん。ふぇ?」


 ガバッと身体を起こした魅音は戸惑いの顔をする。


「郁真? 何であんたが私のベッドで寝ているのよ」


「ここは俺のベッドだぞ。何でって一緒に寝ようって言ったのはお前だろ?」


「私が郁真と寝た? う、嘘よ。そんなはずない!」


「はぁ? 何を言っているんだ。昨日のこと覚えていないのか?」


「昨日のこと? 何のこと?」


 惚けているのだろうか。それとも照れ隠しで忘れているフリをしているのだろうか。

 どちらにしても素直ではないのはいつものことだ。


「まぁ、どっちでもいいや。支度して学校に行くぞ」


「ちょっと待って!」


「何?」


「一応確認をするけど、私ってもしかしてその、郁真と……しちゃった?」


「何を今更。誘ってきたのはそっちだろ。急に被害者ぶるなよ」


「私が郁真とした? え、え? 信じられない! よくもそんなことをしたわね!」


「は? 何を怒っているんだよ」


「私、まだしたことないのに初めての相手があんたって最悪! 信じられない」


「待て。さっきから言っていることが滅茶苦茶だ。一旦、落ち着けって」


「これが落ち着かずにいられるか! バカ! エッチ!」


 魅音は俺に目掛けて枕を投げる。照れ隠しにしてはやりすぎだ。

 まるで望んでもいないことをされたように全力で否定される。

 俺は魅音が求めてきたからやったのにその結果がこれだ。全くもって意味が分からない。


「ストップ。俺が悪かったから辞めてくれ」


「絶対に許さないんだから」


 魅音の興奮は治らない。俺、そんなに怒らせることをしただろうか。

 こういう時はどうすればいい?


「魅音。とりあえず朝飯食べないか?」


「朝飯? いらないわよ。そんなもの!」


 その時だ。『グウゥゥゥ』と魅音の腹の虫が鳴る。


「とりあえず食べる。話はそれからよ」


「分かった。すぐに準備するから待っていろ」


 俺は食パンにマーガリンを塗ってハム、チーズ、そして大葉をトッピングしてマヨネーズとケチャップで味を付けてオーブンで焼いた。

 シンプルな朝食を魅音に提供する。


「はい。どうぞ」


「食パンか。私、朝は和食派なんだけど」


「文句言うなよ。時間がない朝は洋食で充分だ」


「まぁ、食べるけど。いただきます」


 文句を言いながら魅音はパクリと俺の焼いたピザトーストを食べる。


「美味しい。シンプルだけど、しっかりと味が口に広がる感じ」


「そうか。良かった」


 ズズッと俺はホットコーヒーを啜る。


「あんた、朝はコーヒーを飲むのね。しかもそれ、ブラック?」


「あぁ、朝はブラックを飲まないと始まらないんだ」


「何を気取っているのよ。どうせ格好つけて無理して飲んでいるんでしょ」


「別に格好つけていないし、無理もしていない。好きに飲んでいるんだ」


「ふーん。私には何が良いのか理解出来ないわ。朝と言えばやっぱりホットミルクでしょ」


「まぁ、人それぞれでいいんじゃないの?」


「ねぇ、このピザトースト。おかわりあるかな?」


「まだ食べるつもり?」


「だって美味しいから」


「そう言ってくれるのは嬉しいけど、もう時間がない。さっさと支度して学校に行くぞ」


「分かったよ」


 魅音ってこんなに食欲あったっけ?

 昔はそんなに食べるイメージはなかったが、ここ最近の魅音はよく食べる。

 制服に着替えて学校に行こうとしたその時だ。

 後ろから魅音は抱きしめた。


「魅音?」


「あのさ。さっきは酷いこと言ってごめん。私、全然そんなこと思っていないから」


「急にどうした?」


「いや、いつまでも引きずりたくないし、それに郁真に嫌われたらやだなって」


 またさっきまでと雰囲気が変わった。

 頬を赤めて恋する乙女の顔をしている。

 女というのは何を考えているのかさっぱり分からない。話を合わせていたらいつまで経っても向こうのペースに飲まれてしまう。


「別に気にしていないよ。だから早く学校に行こう」


「うん。手を繋いでくれる?」


「お前、本当にどうした? 頭でも打ったのか?」


「うっ! もういい! バカ!」


 魅音は家を飛び出した。

 また何か怒っているような気がしたが、俺には理解出来なかった。


「はぁ。おい。待てよ! 魅音」


 ここのところ、幼馴染の様子がおかしい。原因は不明だ。



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