第6話 泊まってく
「郁真。また料理を作るの?」
「あぁ、明日の弁当用にな」
「へー。前日に作るんだ」
「本当は当日作るのがいいけど、朝はゆっくりしたいから」
「なるほど。ねぇ、私の分も作ってよ」
「え?」
「どのみち、購買のパンで済ませるつもりだったから郁真に作ってもらえれば楽だし」
「お前は楽でも俺が大変ってこと分かっている?」
「ねぇ、お願い。郁真」
スリスリと魅音は俺におねだりする。
「分かったから離れろ。お前の分も作ってやるから」
「やった! ラッキー。でも離れないから」
魅音は俺が移動しても一緒になってくっ付いてくる。
そこまで密着するなら手伝ってほしいのだが、魅音はただ見ているだけだ。
「その葉っぱ何? いっぱいあるけど」
「ん? 大葉だよ。家の庭に生えていた」
「家の庭に? それ食べても大丈夫なやつ?」
「大丈夫だよ。お前も食べたけど、なんともないだろ?」
「そうだけど、なんか胸が熱いのよね」
「熱いってどういう風に?」
「うまく言えないけど、胸がドキドキして熱くなってくるの」
「ふーん。俺はなんともないから気のせいだろ」
俺は気のせいで片付けた。
大葉を使い始めてこんな万能な食材は他にないと思う。
メインに飾れるし、サブとしても有能だ。常にあってほしい食材に位置する。
「明日の弁当のおかずは大葉バーグだ」
「また大葉か。まぁ、美味しいからいいけど」
「さて、弁当は明日持ってきてやるから今日はもう帰れ」
「…………うーん、嫌」
また俺を困らせるために嫌がらせをしているのだろうか。
また立場が逆転する予感がした。
「魅音。またお前はそんなことを言って……」
「今日、泊まってく」
「は?」
「いいでしょ?」
今日は両親がいないので別に困ることはないのだが、逆にいいのかと言いたい。
魅音が家に泊まったことは初めてではない。
でも、それは小学生の時の話だ。身体が発達してからそんなことはない。
それなのにどうして今になって泊まりたいなんて言い出したのだろうか。
「帰っても一人だし、郁真でもいないよりマシだからね」
何だ。ただ寂しいだけか。
強気に見えても所詮、魅音も女の子だ。本心には逆らえないのかもしれない。
「まぁ、別に構わないけど、俺の邪魔をしないでくれよ」
「邪魔って何よ」
「その、勉強とか」
「いつもしているの?」
「た、たまに」
「ふーん。嘘くさ」
口の悪さは健在だ。少しでも可愛いと思ってしまった俺は後悔する。
「ねぇ、お風呂どうする?」
「自分の家で入ってこいよ。すぐ近く何だから」
「一緒に入る?」
またからかっているのか。俺の反応を見て楽しんでいると思うと何か釈然としない。
だったら俺にも考えがある。
「よし! 一緒に入ろうか」
そう。ここはあえて魅音のからかいに乗ることだ。
こうなってしまえば試されているのは俺ではなく魅音に変わる。
「え?」
魅音は困ったような反応をする。
どうだ。これで自分の首を自分で締めていることになる。
勝った。そう確信した俺だったが、魅音の反応は予想外の返答をする。
「じゃ、入る?」
「え? マジ?」
「うん。むしろ一緒に入りたい。いいよね」
「お、おう……」
話の流れで魅音と風呂に入ることになった。
今更引き返すことは出来ず、取り返しがつかなくなっていた。
「お湯、沸かしてくるよ」
「うん。お願い」
風呂が沸くまでの間は特に何かをやることがなくスマホを弄りながら適当に寛いでいた。
(ピロン! お風呂が沸きました!)
お風呂が沸くアナウンスが流れた時、魅音はソファーから立ち上がる。
「じゃ、行こうか」
魅音は先陣を切って脱衣場に向かった。
魅音と風呂。魅音と風呂。急に緊張がピークに達していた。
それでも俺はドキドキしながら魅音と共に脱衣場にいく。
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